アメリカGPが3年前に復活し、今年はメキシコGPまでもが復活開催される予定ですが、北米大陸のF1レースとして、40年以上の歴史があり、ほぼ毎年開催されてきたのがカナダGPです。モントリオールのジル・ビルヌーヴ・サーキットだけでも36回目を数え、北米にあってF1文化が根付いているのは、フランスを初めとしたヨーロッパ文化の影響が強いためでしょうか?
サーキット名にもなっているビルヌーヴ家からは親子でF1ドライバーが生まれています。父親のジルは強い個性を持った伝説のフェラーリドライバーであり、息子のジャックはウィリアムズでチャンピオンを獲得しました。
というような歴史的背景はともかく、このコースは半パーマネント、半市街地という微妙な成り立ちであると同時に、全開区間が長くブレーキにも厳しいコースレイアウトで、前戦モナコとは正反対の特性です。例年荒れた展開になることが多いのは、ポールシッターの勝率が低いことが表しています。今年のレースはどうなったのでしょうか?
「ここは初優勝の思い出の地」 ルイス・ハミルトン
予選の土曜日は快晴でしたが、決勝日は曇り空。しかし雨の心配はなくコンディションは落ち着いていました。そのせいだけではないのでしょうが、スタート直後の1コーナーの混乱もなく、壁にぶつかるマシンもなく、例年必ずと言って良いほど導入されるセーフティカーは入らないまま、ごく普通に順当なレースが最後まで続きます。
ポールからスタートを決めたハミルトンは結局そのままチェッカーを受け、続いてロズベルグが入り、トップの2台については前戦のようなどんでん返しのドラマもありませんでした。
フェラーリが今回からパワーユニットを改善してきたのに対し、メルセデスは特に変更なしのまま。それでもこの高速サーキットで圧倒的な強さを見せ、タイヤも使いこなし、燃費も上手くまとめてしまうメルセデスのマシンは、本当に隙がありません。
それだけに同じマシンに乗るニコにはもう少し暴れてもらい、ハミルトンを困らせて欲しいものです。
「今は辛抱が必要」 フェルナンド・アロンソ
予選では何とかQ2に進んだものの、それはここ数戦で見られていたような競争力によるものではなく、ベッテルとマッサがトラブルに見舞われたおかげの棚ぼたに過ぎませんでした。この長いストレートがあり、ブレーキと燃費に厳しく、夏に向けて気温も上がってきた中で、マクラーレン・ホンダのマシンは、走る前から満身創痍感が漂います。
シケインが続く前半区間ではなんとかバトルしているように見えるものの、最高速が300km/hを優に超える長いバックストレートでは、次々にオーバーテイクされてしまいます。その上燃費に厳しく、チームからは燃料節約の指示が飛びますが、アロンソは「下位完走なんか目指すよりも今はデータを取るべき」と、抵抗して見せます。
レースをテストとして扱うことの賛否はあるでしょうが、今のホンダの状況では、こういった燃費に厳しいハイスピードサーキットで何が起こるのか? 貴重なデータを得るまたとないチャンスであるというのはまさにその通りです、背に腹は代えられないと言ったところでしょうか。結局チームとアロンソがどういう決断をしたのかはテレビでは分かりませんでした。
結局のところ47周を消化してリタイヤとなりました。完走を諦めて攻めた結果燃料がなくなったのか、あるいはそれ以外のトラブルなのかは不明です。
開幕から約3ヶ月、7戦目にしていまだ問題山積で、全く光明は見られません。いや、走っただけで喜んでいた序盤戦と比べれば、Q2にも進出し、ポイントも獲得し、目指すレベルは上がってきてるのは確かでしょう。
しかしアロンソの野望は言わずと知れたチャンピオン獲得です。しかも10年後の夢ではなく、あと数シーズンのうちに達成しなくてはならない目標です。今の進化スピードで良いのかどうか?不安があるのではないかと思われます。
「今日の結果を見てマクラーレンはひどいシーズンを過ごしていると言うかもしれないが、実際はそうではない」 ジェンソン・バトン
うむ、私のように表面だけ見て勝手なことを言うファンに対しての反論と言ったところでしょうか。バトンのコメントはいつになく饒舌で、要するにこのプロジェクトの目標は高く、それだけの伸びしろがあり、だからこそ難しい仕事なのだ、ということを力説しているようです。
来年からは規約の抜け穴もなくなるため、ホンダのパワーユニットは数シーズン先を見た挑戦的な設計が行われており、今の苦しみのほとんどはそのポテンシャルを引き出すための作業なのだ、とも言われています。ダメなパワーユニットをいじくり回しているのではなく、進歩的すぎるが故に使いこなせていない… と。本当であれば確かに期待は膨らみます。
これまで深刻なトラブルはアロンソ側に出ていたのですが、今回はバトンに集中的に発生しました。そのため予選にも出走することは出来ず、レースも最下位から散々な結果に終わりました。同じ最下位スタートでも、ベッテルのフェラーリは最終的に5位チェッカーを受けたのに対し、バトンのマクラーレンはマルシアと最下位争いをしたまま、レース終盤にリタイヤとなりました。その地力の差は果てしないことが窺えます。しかもメルセデスはフェラーリよりさらに上を行ってるわけですから。運良くポイントが取れて喜んでいる場合ではありません。
そんなことはバトンとチームのメンバーは百も承知でしょう。外から見ると散々な結果に見えるものの、バトンの言うように、中では手応えを感じ高いモチベーションが維持されてることを願いたいです。そうすれば、きっとまた大きな進歩を誰もが感じるような良いレースを見せてくれるはず。
再びヨーロッパへ
次戦は2週間後、昨年から復活したオーストリアGPです。ドイツGPがなくなってしまった今シーズン、ドイツ系のメーカー、ドライバーたちにとっては準ホームレースとなるのかもしれません。
ニコの逆襲、フェラーリの進化、そしてホンダの一歩に期待したいところです。