直木賞を受賞した「宝島」など年末年始から年明けにかけて読んだ小説3冊

 ほぼ半年から一年に一回ペースになってしまった読書感想文です。今回も3冊取り上げてみたいと思います。ここ2年くらいはそれまでほとんど読むことがなかった新書的なものやらドキュメンタリーなどを意識的に読んできましたが、今回は初心に返って小説ばかり読んでみました。

 まず最初はミーハーにも先月発表された第160回直木賞受賞作です。その作品は、戦後まもなくのアメリカ占領下の沖縄を舞台にしにているという点にとても興味を惹かれ、受賞作決定のニュースを見ながら俄然読んでみる気になりました。直木賞や芥川賞みたいな販促イベントには乗せられないぜ! と通ぶってる場合でもなく、興味が沸いた本は何でも読んでみる雑食主義ですから(A^^;

 それに加え、しばらく遠ざかっていた時代物小説(≠歴史小説)も2作読んでみました。やっぱり時代小説はいろいろと想像を掻き立てられるし、読んでいて心が落ち着くし、読後感も良いので大好きです。

アメリカ占領下で逞しく生き抜くウチナンチュの物語:宝島/真藤順丈

第160回直木賞受賞 宝島

第160回直木賞受賞 宝島

英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。超弩級の才能が放つ、青春と革命の一大叙事詩!!

 戦後アメリカに占領された沖縄を舞台にした4人の若いウチナンチュ達の奮闘と成長、そして日本復帰に至るまでの沖縄の世相を描いた物語です。

 小説であるからにはもちろん、伝説の英雄オンちゃんをはじめ、グスク、レイ、ヤマコといった主要な登場人物と、彼ら彼女らが織りなす細部のストーリーは全てフィクションなわけですが、しかしその背景には米兵が引き起こした数々の事件、宮森小学校への米軍機墜落事故や、VXガスの漏洩事故とレッドハット作戦、さらには本土復帰直前に起きたコザ暴動などなど、現実に起きた事件や事故を丁寧に描き、織り交ぜつつストーリーは展開していきます。

 その文章からは、沖縄の人々の悲しみと怒りといったものが、あまりにも強くリアリティと説得力をもってストレートに伝わってきます。作者たる真藤氏は私とほぼ同年代なので、もちろん当時の沖縄を体験していないし、そもそも沖縄出身ですらない、ということが意外に思えるほどですが、その裏には綿密な取材と考証が行われたことはもちろん、作者本人が沖縄の近代史に強い共感を持っていることが窺えます。

 沖縄の基地問題という、ともすると激しい論争を巻き起こしかねないデリケートなテーマを扱っているわけですが、その部分にだけ反応して、この小説から直接現在の基地問題を語ったり、逆に基地問題に対する党派性をもってこの小説を評価したりするのは、とても野暮なことなのだろうと思います。

 どういう立場を取るにしろ、沖縄が抱える深刻な問題、特に今も解決するどころかますます泥沼に陥っている基地問題には、長い長い歴史的経緯があるということを私たちは知るべきなのだろうと感じました。

 グスクやヤマコやレイ、そしてウタが見つけた島の宝とは何なのか? オンちゃんの行方を追い求め、20年かけて彼らがやっと取り戻した真実とは何なのか? その結末が知りたくて慌てて読み勧めてしまったせいか、実は何かを重要なものを読み落としている気がしてモヤモヤしています。なのでもう一度じっくりと読み直さないといけないかな?と思っています。

江戸は一日にしてならず:家康、江戸を建てる /門井慶喜

家康、江戸を建てる (祥伝社文庫)

家康、江戸を建てる (祥伝社文庫)

「北条家の旧領関東二百四十万石を差し上げよう」天正十八年、落ちゆく小田原城を眺めながら、関白・豊臣秀吉は徳川家康に囁いた。その真意は、水びたしの低湿地ばかりが広がる土地と、豊饒な現在の所領、駿河、遠江、三河、甲斐、信濃との交換であった。愚弄するかのような要求に家臣団が激怒する中、なぜか家康はその国替え要求を受け入れた…。ピンチをチャンスに変えた究極の天下人の、面目躍如の挑戦を描く快作誕生!

 今年の正月にNHKで放送された同名のドラマを見て興味を持ち、原作を読んでみようと思い手にした本です。原作を読んでから映画やドラマを見るとガッカリすることが多いものの、逆の場合はすんなり受け入れられることがほとんどです。

 さて、徳川家康が駿府から江戸に国替えさせられたのは1590年(天正18年)のこと。当時の江戸には太田道灌が建てた江戸城の原型はあったものの、その周辺は低湿地帯が広がる小さな漁村だったそうです。

 そんな田舎町だった江戸が、その後数十年の間に巨大な都市に成長し、名実ともに日本の首都となり得た背景には、家康による的確な都市計画と、それを地道かつ確実に実行した家臣達の働きがありました。

 江戸の基礎、つまりは現在に続く東京の原型がどうやって作り上げられたのか?が本作のテーマであり、史実はベースにしているとは言え、実際には小説ですから、そこにはプロジェクトX的な演出が加えられた感動物語となっています。

 取り上げられているテーマは水道の整備、利根川東遷による治水、小判の鋳造、江戸城の石垣造り、そして江戸城天守閣の建造という5つのエピソードです。NHKでドラマ化されたのはこの中で小判と水道の話だけでしたが、他の3話についても非常に面白いので、是非続編としてドラマ化して欲しいです。

 中でももともと東京湾に流れ込んでいたという、利根川の流れを変えた工事はすごい話です。こんな大工事が400年も前に行われ、そのおかげで今の東京があると思うと、当時の人々の決意の固さと苦労には本当に頭が下がります。

懐かしい人々との再会を喜ぶ:花だより みをつくし料理帖 特別巻 /髙田郁

花だより みをつくし料理帖 特別巻

花だより みをつくし料理帖 特別巻

澪が大坂に戻ったのち、文政五年(一八二二年)春から翌年初午にかけての物語。店主・種市とつる家の面々を廻る、表題作「花だより」。澪のかつての想いびと、御膳奉行の小野寺数馬と一風変わった妻・乙緒との暮らしを綴った「涼風あり」。あさひ太夫の名を捨て、生家の再建を果たしてのちの野江を描いた「秋燕」。澪と源斉夫婦が危機を乗り越えて絆を深めていく「月の船を漕ぐ」。シリーズ完結から四年、登場人物たちのその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ特別巻、満を持して登場です!

 約5年前に全十巻で完結した「みをつくし料理帖」シリーズのその後を描いたスピンアウト作です。

 本屋さんの新刊コーナーに懐かしいテイストの表紙絵と「みをつくし料理帖」の文字を見つけ、いよいよ新シリーズが始まったか!と、一瞬早合点してしまったのですが、表題に「特別編」とあるとおり、そういうわけではないようです。

 最終巻を読み終えてからだいぶ経っているのに、最初の数ページを読めば「つるや」を取り巻く色々な出来事、人間模様をすぐに思い出すことが出来ます。まるで馴染みの店に久しぶりに訪れて、以前と変わらない店の雰囲気と懐かしい人達に再開したような気分で、思わず「みんなどうしてたの?」と、本に向かって問いかけたくなります。

 そんな読者の気持ちに応えるように、本作では種市や芳、りうやおりょう、さらには小松原や坂村堂、清右衛門などなど、多くの人々のその後が描かれていてとにかく元シリーズのファンとしてはほっこりしてしまいます。

 ただ、何となくこのまままたシリーズ再開できそうな雰囲気でもあり、続編を是非期待したいところです。ついでに黒木華主演で制作されたNHKのドラマも、早く続編を放送して欲しいと思っています。