タイヤと運を制する者がレースを制す:F1 2017 第3戦 バーレーンGP

投稿者: | 2017年4月19日

 開幕直後の2連戦、先週の中国GPに続きバーレーンGPが行われました。中東のオイルマネーで潤う砂漠の中のサーキットで行われるトワイライトレース、と言うよりほとんどナイトレースと言っても良いのかも。時差を差し引きしても、通常ヨーロッパで昼間に行われるレースよりも遅い時間となり、日本では日付をまたいだころにスタートとなりました。

 以前地上波放送があったときは、ライブではなく数時間遅れの放送だったので、常にこのくらいの時間に見ていた記憶がありますが、CS放送とネット配信に移行してライブ観戦が当たり前となった今は、夜中に起きていられなくなってしまったので、見逃し配信を利用して翌日に観戦しました。

 最近はF1ニュースも露出が少なくなったので、翌日昼間もそれほど注意していなくても、安心して結果から遠ざかったまま見ていられます。

Valtteri Bottas / Williams FW38 / 2016年 日本GPKONE3361.jpg
 閑話休題。バーレーンはトラクションサーキットで、気温も高いため、燃費とリアタイヤに厳しいサーキットです。勝つにはこの二つを制する必要があります。

「今日は勝てるスピードがあると感じていた」 セバスチャン・ベッテル

 今年のフェラーリとベッテルは、予選でポールが取れなくても作戦を弄してトップを奪い取る、という戦略が冴え渡っています。もちろんそれを可能にするスピードがマシンにあることが大前提です。

 パワーユニットに予選モードを持つメルセデスには一発のタイムアタックでは勝てないのですが、レースでの安定感はフェラーリのほうが抜群に優れているように見えます。

 ベッテルは奇数側グリッドのアドバンテージを生かして、スタートで2位に上がった後、接近戦にも強くタイヤにも優しいという今年のフェラーリマシンの強みを生かしきり、見事なアンダーカット作戦を敢行。1回目のピットストップで早くもトップを奪うことに成功します。

 しかし何が起こるかわからないのがレース。フェラーリがピットインした直後に、まさかのセーフティカーが導入されると言う珍事があり、危うくアンダーカットが台無しになるところでした。しかし、メルセデスの2台は連続ピット作業にトラブルを生じ、ベッテルはギリギリのところでトップを保持することに成功します。

 リスタート直後、ボッタスのアタックを防ぎきったところで、ほぼ勝負は決まりました。最後は燃費をセーブしつつ、ペースをコントロールしながら見事先頭でチェッカー受けました。

 運を味方につけつつ、ベッテルのドライビングも冴え渡り、それをサポートするチームの得戦略もほぼ完璧に歯車がかみ合い、多少の不運は寄せ付けない強さが今年のフェラーリとベッテルのコンビにはあります。

 しかし、その一方でチームメイトのライコネンに対しては今回も謎作戦。タイヤが摩耗しタイムが落ちてもなおステイアウトを続け、今回もまたライコネン自身の怒りの無線でようやく動くという始末。ベッテルの作戦は完璧に運ぶ一方で、なぜライコネンに対してはそれができないのかが分かりません。

「あまりよい1日ではなかった」 ヴァルテリ・ボッタス

 ロズベルグ引退の穴を埋める形で、ウィリアムズからチャンピオンチーム、メルセデスへ電撃移籍してきて3戦目。ハミルトンが御しやすい相手を選んだという、まことしやかな噂が流れていましたが、本当のところは分かりません。しかし開幕2戦では、実際にハミルトンの邪魔になるようなパフォーマンスをボッタスは見せていませんでした。

 そして3戦目。もともとこのコースと相性が良いというボッタスは、ハミルトンを差し置いて自身キャリア初のポールポジションを獲得して見せ、ハミルトンを不機嫌にすることに成功します。そしてメルセデスのマシンでポールからスタートするとなれば、初優勝だって見えていたことでしょう。「オレはセカンドではなく、ロズベルグと同じくお前のライバルだよ」とハミルトンに理解させる絶好のチャンスです。

 しかし、上記引用コメントにあるとおり、ボッタスにとっては完全に期待はずれのレースとなりました。スタートに失敗したわけでもなく、トラブルがあったわけでもなく、ミスをしたとわけでもありません。なのにチェッカーを3番手で受けることになった理由のほとんどはタイヤにあります。

 序盤からリアタイヤのオーバーヒートに悩まされ続けたボッタスは、ペースが安定せずベッテルにぴったりとマークされ、易々とアンダーカットを許してしまいました。絶妙なタイミングでのセーフティカー導入という幸運もピット作業のミスでふいにした上、交換後の新しいタイヤもすぐにダメになってしまい、じわじわとギャップが開いてしまいました。

 そして終盤の最終スティント47周目、後から猛追してきたハミルトンにポジションを譲れというチームオーダーがとうとう出されてしまいます。もちろんこれはチーム戦略としては当然で、ハミルトンは現実的にベッテルに追いつけるペースを見せていたから、と言うことになっていますが、それだけとも思えない微妙な空気がレース後の表彰台には流れていました。

 ハミルトンが見込んだように、ボッタスは従順なセカンドになってしまうのか? 一番悩んでいるのはボッタス自身に違いありません。

 さて、予選を完全に制し、フロントロウからスタートした2台のメルセデスが、どちらも優勝できなかった原因のほとんどはタイヤにありそうです。パワー、ダウンフォース、燃費、信頼性では盤石なだけに、このタイヤに厳しいというマシン特性を修正することは急務と思われます。

「苛立たしいレースだった」 フェルナンド・アロンソ

 いったいホンダに何が起きているのか? 信頼性もない上にパワーもなく、明らかに昨年よりも退化したホンダのパワーユニットに最も苛立っているのは、チャンピオン争いに復帰することを目標に、ホンダを信じて3年前にマクラーレンに移籍してきたアロンソに違いありません。

 その苛立ちは早くも頂点に達し、とうとうアロンソは第6戦のモナコGPを欠場するとの発表が、バーレーンGPの直前に出されました。そうなるとモナコの後はどうなるのか? そのまま戻ってこない可能性も十分にありそうです。

 今回のレースでは、予選は何とかまとめし、レースだってルノーやトロロッソ、ザウバーあたりと常にバトルをする姿は国際映像にも映し出されていました。

 しかしアロンソ本人は非常に苛立っており、2年前の鈴鹿で言い放った「こんなのGP2のエンジンだ!」とほとんど同じことをレース中から無線を通して叫んでいました。言ってもどうしようもないことですが、言わざるを得ないくらい怒っているのでしょう。あるいは、国際映像に音声が乗ることを意識して、ホンダにプレッシャーを与えるという目的もあったかも知れません。

「テスト中に前進することを期待している」 長谷川祐介

 速報によれば、昨日から始まったそのテストもまともに走れていません。

 バーレーンではエネルギー回生システムからの水漏れが止まらず、チームメイトのバンドーンはそのためにスタートすら出来ませんでした。ホンダを取り巻く状況は非常に深刻です。3シーズン目にこれではアロンソだけでなく、マクラーレンのチーム内も相当に苛立っているはずです。

 このままではホンダに未来はかなり危ういと思います。ドライバーからもチームからも愛想を尽かされた上、ホンダの内部からも必ずやF1の継続にネガティブな意見が出てくるはず。株主だって文句を言い始めるでしょう。

 体勢なのか、人材なのか、予算なのか、マクラーレンとの相性なのか、あるいは本当に技術がもはやないということなのか? いったい何が悪いのか分かりませんが、何とか解決策を見つけて欲しいと切に祈っています。そうしないと、鈴鹿の日本GP継続にも影響が及ぶに違いないでしょうから。

次回はロシアGP

 次のレースは来週末、ソチのオリンピック会場跡地に作られたサーキットで行われるロシアGPです。また今年もプーチン大統領は現れるでしょうか?

カテゴリー: F1