アメリカ大陸連戦の2戦目は昨年からF1カレンダーに復活したメキシコGPです。ラテン系と、ひとくくりにしていいのかどうか分かりませんが、陽気なファン達に囲まれたサーキットの雰囲気は、テレビを通しても伝わってきます。これだけ盛り上がると、ドライバー達も走っていて気持ちいいだろうな、と。
メキシコシティ近郊のエルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高が2300mと高いため、空気が薄くドラッグも軽減されます。一方でエンジン的には不利に働き、ターボの効きは特に悪いのではないかと想像するのですが、ハイブリッドな現代F1マシンが搭載するモーターは、気圧なんかお構いなしに出力が出るおかげか、長いメインストレートでは370km/hを超えるスピードを出すマシンがいたりして、モンツァ並の超高速バトルが展開されました。
さて、前戦のアメリカGPに関して、元F1ドライバーのマーチン・ブランドルが苦言を呈しているコラムを読みました。なぜかアメリカGPではコースライン逸脱に対するペナルティ判定基準がゆるく、それに乗じたドライバー達のモラルが低下し、ライン取りが雑でF1といういよりカートのレースのようだったと。
Sergio Perez / Force India VJM09 / 2016年 日本GP
それはマシンレギュレーションのせいかも知れないわけですが、今回のメキシコGPでも規約とレースコントロールとレーシングのバランスに苦慮するF1の問題点が露呈したように思います。
ちなみに今回の観戦記に関して、私はベッテルファンなので心情的にかなりベッテル擁護になっている事をあらかじめ告白しておきます。しかも基本的に感情論なのでかなり分が悪いです。フェルスタッペンあるいはリカルドファンの方は、大いに反論があるだろうことはもちろん理解しております。
「ちょっとした正義が行われたと思う」 マックス・フェルスタッペン
このコメントは、レース後すぐに出された自身へのペナルティによって表彰台を逃した後、その表彰台を彼から奪い取ったベッテルにも、遅れてペナルティが出されたことに対するコメントです。結局3位の座はフェルスタッペンでもベッテルでもなく、リカルドのものとなりました。
その経緯はややこしくて、フェルスタッペンに出されたペナルティは、68周目に起きたベッテルとのバトルで、2コーナーをショートカットしてしまったことに対するもの。ベッテルに出されたペナルティは、その直後ベッテルとリカルドのバトルにおいて、ベッテルがブレーキング中に動きすぎたことに対するものです。
前者のペナルティは5秒、後者は10秒である上に、判定が出されるまで時間差がありました。
コース上でチェッカーを受けたのは、2台のメルセデスに続いて、フェルスタッペン、ベッテル、リカルドの順だったのに、フェルスタッペンの5秒ペナルティにより、3位表彰台に上がったのはベッテル。しかしその後ベッテルに10秒ペナルティが出たことによって、最終的な公式リザルトはリカルドが3位、フェルスタッペンが4位、ベッテルが5位となって決着しました。
ルールに基づき「正義」が行われたことは良いことですが、コース上で起きたことと結果が違った上に、表彰式というセレモニーも間違いだったとなると、一体レースとは何ぞや?観戦する意味は?とモヤモヤした気分になってきます。
さらにこの問題には、スタート直後にハミルトンとロズベルグが2コーナーをショートカットしつつ、ポジションを守ったのにペナルティが出なかったことまで波及しますが、メルセデスの2台にペナルティが出なかったことにはちゃんと理由があり、それは国際映像でも明確でした。
しかし終盤のベッテルとのバトルにおいては、明らかにフェルスタッペンはベッテルに抜かれた後に、コーナーをショートカットしポジションを回復しました。
その後チームからの指示にも従わずチェッカーまで前を走り続けたフェルスタッペンは、自分が正しいと信じきっていたのか、あるいはスチュワードが見逃してくれることに賭けた上の確信犯的行動だったのか?
どちらにしても大した胆力だと思いますが、それはF1のレースのやり方なのか?と疑問を感じざるを得ません。
さらに言えば、彼が「正義」と呼んだルールが厳格化されたきっかけは、今シーズン、フェルスタッペン自身が繰り返しとってきた防御行動にあります。ベルギーでのライコネンに対するブロック然り、鈴鹿でのハミルトンに対するブロック然り。
ですから、このルールそれを「正義」と呼ぶ資格がそもそもフェルスタッペンにあるのかどうか? というのはあまりに意地悪すぎる見方でしょうか?
でも良いんです。分かっています。若いドライバーが出てくると必ずこういう摩擦は起きるもの。フェルスタッペンが尖っているのは、F1がちゃんと新陳代謝している証拠です。将来が楽しみなのは間違いありません。
「彼にはスペースを与えようとしていたし実際にそうしたと思う」 セバスチャン・ベッテル
ベッテルのリカルドに対する防御行動に関して、表彰式のセレモニーから大分遅れて10秒ものタイム加算ペナルティが与えられたことについては、理屈では理解できるのですが感情的には釈然としません。
なぜならば、本来あの時点でリカルドに仕掛けられるべき立場にいるのは、フェルスタッペンだったのだから。フェルスタッペンが2コーナーをショートカットするというズルをしていなければ、ベッテルのペナルティにつながる危険な回避行動は発生しなかったのです。
…というのは感情論で、こうして文字に書いてると「なんか違うな」と思えてきますが、レースを見た後の私の素直な気持ちはこういうものだったので、そのまま書いておくことにします。
少し冷静になって考えるなら、レースコントロールの方法とペナルティの内容は、もう少し改善を加えるべきではないかと思います。レース後に判定が持ち越され、その結果課されるタイム加算ペナルティは、実際に起きたことに対して、そもそもの利益と損失をチャラにすることが出来ず、不公平のまま終わることが時々あります。
つまり、状況によってはペナルティを受けてでも多少無茶をして、そのまま走りきったほうがマシということが、これまでにも何度か見られました。これではレースのモラルが下がってしまい、それこそマーティン・ブランドルが評したように、まるで「カートのレース」みたいなことになりかねません。特に、レースが終わって、一晩明けたら結果が覆ってる、なんていうのは、ファン目線からしたら興ざめで最悪です。
ただし、今回のベッテル関してはもうひとつ問題があって、フェルスタッペンの行動に対して激昂したベッテルは、無線で悪態罵詈雑言の限りを尽くし、最後はレフェリーであるチャリーホワイティングを非難し始めます。チームが慌てて止めますが、口を突いて出た言葉は全世界に流れてしまいました。レフェリーは絶対的に権威を持たなくては秩序が保てないスポーツにおいて、これはまずい態度でした。正気に戻ったベッテルはそれに気付いたのか、あちこちにお詫びをしてまわり、なんとか今回だけは見逃してもらえたようです。
なんか周囲が敵だらけになって、みんなから悪口言われてひどい状態です。それでも現役選手の中では誰も成し遂げた事がない、成し遂げられそうもない4年連続チャンピオンなのですから、もうすこし堂々として威厳を見せて欲しいものです。
2013年のアメリカGP、絶頂期にあるベッテルが言った「この瞬間を覚えておこうね」という言葉を、クリスチャン・ホーナー以下、レッドブルに関わるすべての人に思い出させてあげると同時に、ベッテル自身が思い出す必要があると思います。
「でも2位は全然悪くない」 ニコ・ロズベルグ
メルセデス対決は予選までの流れのまま、ハミルトンが楽々と優勝、ロズベルグはレッドブルやベッテルの脅威に晒されたものの、なんとか2位に踏みとどまれました。
これでポイント差は19ポイント。今回もロズベルグはチャンピオン獲得のために最低限必要な結果を出したと言えます。しかしなんとなくこのまま終わるとは思えません。特にロズベルグにとって頭が痛いのは、レッドブルが無視できない存在になってきたことです。2位を取り続けるのは、意外に難しい仕事です。
あと2戦、どうなることでしょうか?
次戦はブラジルGP
次は南米大陸に渡って、ブラジルGPが来週末に開催されます。ロズベルグが優勝するような事があると、即チャンピオン決定。逆にロズベルグがノーポイントに終わったりすると、一気に情勢が逆転します。いったいどうなるでしょうか?
ブラジルは過去何度も劇的なチャンピオン決定の場となってきました。それを一番意識しているのはハミルトンかもしれません。