モナコと並ぶ伝統の一戦、イギリスGPが行われました。その舞台はもちろんシルバーストーン・サーキット。一時は施設の老朽化等の問題から継続開催が危ぶまれたこともありましたが、数年前のリニューアル後はそんな話も聞かなくなりました。
前戦のオーストリアGPも観客数は大幅減だったそうですし、ドイツ語圏はメーカーワークスがあり、チャンピオンドライバーを排出し、F1との関わりは非常に深いはずなのに、ファンは急速に離れつつあるという中で、今回のイギリスGPは予選でも10万人、決勝は14万人の満席御礼だったそうです。同じヨーロッパ内で、この盛り上がりの差は何なのか? 不思議に感じます。
今年、シルバーストーンに集結した14万人の期待を一身に受けていたのは、ディフェンディング・チャンピオンのハミルトンです。
さらに言うなら、現メルセデス・チームのファクトリーはイギリスのブラックレーにあります。そのファクトリーの歴史をたどれば、元ホンダワークス、その前はBAR、さらにその前に遡ると、イギリスの名門プライベータ、ティレルが最初に建設したものです。そういう意味ではメルセデスにとって地元GPでもあります。
「過去最高のピットイン判断だった」 ルイス・ハミルトン
このトラックにはポールシッターは優勝できないジンクスがあるそうです。スタートで出遅れマッサに1コーナーをとられてしまったところで、やっぱりジンクスは本当だったか… と本人も思ったかどうかはわかりません。
しかしその後、ハミルトンにとって、レースを決める上での重要なポイントは3回も訪れます。最初はセーフティーカー開けの攻防。ここでは無理をしすぎてコースオフし、さらに順位を下げてしまい失敗に終わります。ここまでは悪いこと続きで、メルセデスとハミルトンのレースは先行きが怪しくなりました。
二つ目は今レース唯一のピットインのタイミング。大きなリスクを冒すことなく絶妙なタイミングでアンダーカットに成功し、一気にトップを奪い返します。ウィリアムズが反応しなかったことも幸いしましたが、ハミルトンはインラップを相当飛ばしたのではないかと思われます。
そして三つ目のポイントは雨の見極めでした。降り出した当初はスリックのまま我慢し、次に本降りになった瞬間を完璧に見極め、最高のタイミングでインターミディエイトに交換します。もし、ここで1周でも間違っていたら、トップの座を失ってもおかしくないところでした。
引用したコメントは主に雨の判断を指しているようです。最強のマシンを持ちトップを快走するドライバーにとって、レース途中の雨は歓迎されざる波乱要素です。どちらかというと、ハミルトンは予定外の波乱に対して弱い方かと思っていましたが、今回は母国のプレッシャーをうまく集中力に結びつけた、素晴らしいレース運びでした。
ハミルトンもメルセデスも間違いなくチャンピオンにふさわしい、一流であることを見せつけたレースだったと思います。
「ドライのままならレースに優勝できたかもしれない」 フェリペ・マッサ
鮮やかなロケットスタートでトップを奪ったマッサでしたが、その後は冴えないレース展開となってしまいました。セーフティカー開けの駆け引きも危うく、もう少しでハミルトンにやられてしまいそうでしたし、その後チームメイトのボッタスに対しても防戦一方。
そしてハミルトンが仕掛けたアンダーカットに反応しきれず、トップの座を簡単に明け渡してしまいます。さらに雨のタイミング判断もコンサバ過ぎて、ベッテルに出し抜かれてしまいました。
「ドライなら優勝できたかも?」というコメントはあまりに楽観的すぎるでしょう。雨が降る前にすでに彼はトップの座を失っていたのですから。
マッサとスメドレーのコンビはフェラーリ時代に何度も優勝を経験しているはずですし、それは名門ウィリアムズチームも同様。常勝時代のスタッフはもういないかもしれませんが、サー・フランクはいまだ健在でピットにいるわけですし、そういう伝統はチームのDNAに刷り込まれていないのでしょうか?
スタートで手にした千載一遇のチャンスを生かそうという努力が、ウィリアムズのレース戦略には見られなかったのが不可解です。マシンの能力はメルセデスに劣り、まともに戦ったら勝てません。挑戦者の立場にいるわけで失うものはないはずなのに、このコンサバぶりはどうしたことでしょう?
序盤戦で言えばメルセデスのアンダーカットを警戒すべきなのは素人でもわかります。ハミルトンに即座に対応するどころか、ハードタイヤのスティントが長くなるリスクを冒してでも、先に動くくらいのアグレッシブさが必要だったのではないかと思います。
あるいは、チームとして本気で勝ちを取りに行くなら、明らかにペースが良さそうなボッタスを前に出すくらいの冷徹さも欲しかったかも。
雨の判断は難しいのでなんとも言えませんが、2台揃って判断を先延ばしするのもどうかと思います。チャンピオンシップをかけているメルセデスとフェラーリは、早めの判断をして最高のタイミングを捕まえたのとは対照的です。リスクを恐れないと言うよりは、レースへの真剣度の違いなのかもしれません。
それはすなわち、一流と二流の差なのだと思います。ウィリアムズはその点超一流のチームだったはず。マシンだけでなく、チーム全体の復活を望みたいと思います。
そろそろシーズンも折り返し
次戦は少し間が開いて3週間後にハンガリーGPです。パーマネントサーキットの中ではカレンダー中屈指の低速コースです。過去、結構波乱が起きやすいコースでもあります。
今回のイギリスGPも完走はわずか14台の比較的荒れたレースでした。それを生かしマクラーレン・ホンダのアロンソはなんとか10位に入り、今シーズン初ポイント獲得、チームにとっては2回目の入賞となりました。バトンはスタート直後の混乱に巻き込まれて残念ながらリタイヤとなりました。少なくともマシントラブルではなかったことは、ホンダにとって良かったことなのか悪かったことなのか…。
しかしどうも結果も経過もスッキリしません。ホンダには色々風当たりが強くなってきたように思います。マクラーレンもホンダも一流であることが期待されています。しかしそろそろお互いに疑心暗鬼になって来たかもしれません。チームのマネージメントが正常であることは、優れたエンジニアリングを生むための必要条件ですので、何とかして欲しいものです。
それもこれも次戦が終わった後、夏休みを経て後半戦が正念場となることでしょう。