FUJIFILM Xシリーズの一つの特徴は、それぞれ特徴的な表現を可能にする「フィルムシミュレーション」が豊富に用意されていることです。センサーに露光されたデータをJPEGにエンコードする(現像する)際に、コントラスト、キー、色味、シャープネス等々のパラメーターを調整することで、最終的に得られる画像の印象は大きく変わります。
それらのプリセットは最近のデジタルカメラなら必ず搭載されています(ペンタックスなら「カスタムイメージ」、キヤノンなら「ピクチャースタイル」)が、Xシリーズの場合は、「フィルムシミュレーション」と名付けられ、その設定内容が”Velvia”とか”ASTIA”とか、過去FUJIFILMが実際に販売していたフィルムの特性に紐付けされているところが、わかりやすくもあり、特徴的でもあるところです。
FUJIFILM X30, 24.6mm, 1/35sec, F2.8, ISO100, クラシッククローム
X30ではフィルムシミュレーションの中に、新たに「クラシッククローム」というモードが追加されました。これがなかなか楽しそうなので、色々撮ってみました。
クラシッククロームとは?
フィルムシミュレーションには、ネガフィルムをシミュレートしたモードや複数の白黒モードも用意されているのですが、その前に常用するための基本となる3モードがあります。他のメーカのカメラ同様に、スタンダード、ビビッド、ソフトの3種類なのですが、Xシリーズのフィルムシミュレーションでは、それぞれに往年のフィルム名がつけられています。まずはそのおさらいから。
モード名 | フィルム名 | 設定内容 |
---|---|---|
スタンダード | PROVIA | 標準的な発色と階調で人物、風景など幅広い被写体に適する |
ビビッド | Velvia | 高彩度な発色とメリハリある階調表現で風景、自然写真に最適 |
ソフト | ASTIA | 落ち着いた発色とソフトな階調でしっとりした表現に適する |
私はフィルム時代を一応知っていますが、PROVIAとかASTIAは使った記憶がありません。が、Velviaは何度も使ったし記憶に残っています。なので正直なところ、スタンダードのPROVIAとソフトのASITIAはイマイチピンとこないのですが、何しろ特徴あるのがビビッドのVelvia。他のメーカーのビビッド設定ともひと味違うような気がします。
いずれにしても、このように基本3モードは実在したフィルムをベースにしているわけですが、今回新たに追加になった「クラシッククローム」は、その元となるフィルム製品が存在しません。その設定内容とコンセプトは以下のように説明されています。
「クラシッククローム」は、リアルな表現が持ち味のドキュメンタリーフォトやストリートフォトに適した、深みのある色合いと豊かな陰影を表現できる撮影モードです。「クラシッククローム」は、柔らかい階調、シャドー部における豊かな陰影、青や緑、赤色などの被写体や背景において色飽和(*1)しにくい色調を実現。写真フィルムで撮影しディープマット紙(*2)にプリントした写真のような重厚感のある表現を可能にします
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0902.html
なるほど… というか分かるような分からないような…。どうやらVelviaの鮮烈な鮮やかさとは逆方向に振ったモードのようです。確かに鮮やかさが売りだった富士のフィルムにはなかったかも。どちらかというとコダック系だったりして?という噂もあながち外れてないのかも。
ということで、とにかく撮ってみた
Xシリーズのカメラには「フィルムシミュレーションブラケット」という便利な機能が搭載されています。1回のシャッターで、3枚異なったフィルムシミュレーションが適用されたJPEGファイルが記録されます。ネガや白黒含めると11あるモードの中から、任意の3モードを選ぶことが出来ます。今回は「スタンダード/PROVIA」、「ビビッド/Velvia」、そして「クラシッククローム」の3種類でブラケットし、仕上がりを見比べてみることにしました。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 7.1mm, 1/420sec, F6.4, ISO100
車山高原から眺める白樺湖と蓼科山。PROVIAとVelviaの差はまさにスタンダードとビビッドの違いそのものと言った感じです。自然さで言えばPROVIAですが、Velviaの鮮やかさと比べると、やはりこういった青空の下の風景はVelviaがまさに記憶色と言えそう。それに対し、クラシッククロームは、この手のシーンに一番向かないということが明確です。いや、表現の方向としてはこういうこともあるかも。枯れ野原に枯れ木、そして空が少しどんよりしていたら、むしろぴったりはまるかも。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 13.2mm, 1/650sec, F3.2, ISO100
もう一つ青空のシーン。というか、ほとんど空だけ撮ってみました。その違いが如実に分かるかと思います。PROVIAがニュートラルとすれば、Velviaは少し赤みがかっており、クラシッククロームは思い切り黄ばんでいます。Velviaモードに関しては前から感じていたのですが、どうも青空の発色はイマイチ好きになれません。フィルム時代はもっとどぎついくらい鮮やかな青を発色してなかったっけ?と。クラシッククロームは… これだけ見ると何とも言えませんね。前景次第でバランスが取れるのでしょう。少なくとも鮮やかな青空を撮るためのモードでないことは確かです。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 13.7mm, 1/30sec, F2.5, ISO250
では一転してこういうのはどうでしょう? 神社にあった小さな狛犬。犬じゃなくて狐かな? もともと色彩が殆どないシーンなのでさが分かりにくくなってきました。それでもこうして並べるとVelviaは彩度が高いことが分かります。ですがやはりクラシッククロームは背景の緑も抑え気味で、バランスが良い感じがします。こういう渋いシーンは得意かも。ただ、その特徴を遺憾なく発揮するには、もう少し色が合った方が良いのかも。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 7.1mm, 1/30sec, F2.0, ISO125
ということで、ちょっと色が入りました。渋い緑と朱色に塗られた扉、ちらっと見えてるパイロン… ってやっぱり分かりづらいですかね。でもVelviaはやっぱり鮮やか。そしてRPOVIAに対しクラシッククロームは、扉の色と言うよりは明るさがぐっと沈んだ感じがします。白壁の階調の感じを見ると、クラシッククロームは結構コントラストが高いようです。そして黄緑色に少しホワイトバランスというか色相とうか、全体の色味がシフトしています。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 17.3mm, 1/420sec, F4.0, ISO100
どんより垂れ込めた雲の隙間から夕日が差してきました。なんかHDRしたくなるようなドラマチックな一瞬です。こういうのはやっぱりVelviaでしょと思いつつ、しかしクラシッククロームも悪くありません。色が薄いけどもともとコントラスト高い状況なので、渋い発色がかえって印象を強めます。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 7.6mm, 1/800sec, F5.6, ISO100
次も似たようなシーンですが、太陽の方向を向いています。こうなるとクラシッククロームはなんだかあっさりしすぎで、Velviaがもしキツすぎると感じるなら、次に選ぶのはPROVIAかな?と思います。
スタンダード / PROVIA
ビビッド / Velivia
クラシッククローム
共通撮影データ:FUJIFILM X30, 28.4mm, 1/800sec, F2.8, ISO100
最後に花を撮ってみました。しかもコスモス。クラシッククロームには一番合わなさそうな可憐な花ですが、白い花だったためか思ったほど違和感ありません。むしろVelviaはコントラストがきつすぎるくらい。もしかしたらこれはソフトのASTIAが良いのかも。
なんだかこうして色々撮って、比べていくとじわじわとスタンダード/PROVIAのバランスの良さを実感してきます。それはさておき、クラシッククロームは今までにない独特の雰囲気の写真が撮れて面白いモードです。トイカメラや銀残しなどのように、極端にいじるのではなく、あくまでもあっさりと、しかし明確に違いが出る絶妙な設定。それはVelviaモードにも言えるのですが、この対極にある二つのモードがいっぺんに味わえるX30(および今後のXシリーズ)は、また表現の幅がぐんと広がったと思います。
これらの各モードの絵作りが身に染みこむまでは、ぱっとその場で「ここはこのモード」と選ぶのは難しいです。なので、何でもかんでもフィルムシミュレーションブラケットで3枚同時記録をして、あとからじっくり見比べて、あれが良い、これが良いと選択する使い方が最も適しているかと思います。SDカードの容量は3倍消費しますが、幸か不幸かX30はそれほど画素数が多くないので、1枚のファイルサイズは大きくありません。
クラシッククロームは、今後のXシリーズのカメラには標準搭載されていくはずです。そして従来の機種にもファームウェアアップデートでサポートされる可能性が高いと思われます。しかし今現時点で市場にある製品で使えるのはX30だけとなっています。
思ってたより鮮やかですが、でもいいですね、クラシッククローム。
X-M1にも恵んでくれるように富士に要望出してみようかな。
少し寂れた裏路地や派手な建物のない港町等、色々試してみたくなります。
比較されたものを見る限りでは、やはり過度な期待をしていたようです。
あの油断しているとマゼンダが被る、あのフィルムの感触にはもう一歩かも。
確かに記述の通り、どこにもそんなことは公表されていないんですがね。
toomさん、こうして並べてしまうと、確かに思ったより普通に見えてきますね。でも、クラシッククローム一択で撮ると、明らかに他とは違うのが分かります。きっとぴったりくる被写体があると思います。X-M1も含めて従来機種でも是非サポートされると良いですね。
黄金な人さん、私もこれはKRとは違うと思います。ENっぽい気もしますが、記憶の中の話しなので何とも言えません。ただ「気配」はどことなくあるし、とりあえず楽しめると思います。
成程、エクタ系の色と思えばそうかもしれません。
でも、もう少しこってりした色乗りが欲しかったなぁ…と。
やはりそれぞれで並べてしまうと特に色彩の鮮やかなものが美しく見えてしまいますね笑
特に青空の写真なんかは青が濃ければ濃いほど良く見えてしまうものなのでしょうか。
どれが実際に見えているものに一番近いのかはわかりませんが、今はRAWなどで撮っておいてあとからいくらでも色はいじれますが、その時に撮りたいと思った色で、そして伝えたいと思った雰囲気でたった一枚だけを写真に収めたいものです。
その伝えるための選択肢が増えたということで、このクラシッククロームというモードは活かされるのではないかなと思いました。
このモードを使って何かこれだ!という写真が撮れたらまた是非公開していただきたいです(^ ^)
「しっとりとした階調」というのは少々オーバーな表現に思えますね。
私もちょっと期待しすぎていたかも。
逆に言えば、スタンダードとしてのPROVIAが表現として群を抜いている気がします。
枚数を撮って経験していかないと「これだ」という場面で使うのはなかなか難しそうですね。
「落ち着いた表現」というのともまたちょっと違うみたいで興味はそそられます。
黄金な人さん、キリッとエッジの立ったキレも、ですかね。
ざっそう (id:kotahorii) さん、そうなんですよね、なので何でもかんでもVelviaにしがちではあります。RAW現像も何でも出来すぎて、しかししっかりとしたイメージと技術がないと、結局カメラ内で生成されたJPEGが一番良いという結果になりがちだったり。
なのでおっしゃるとおり選択肢が増えて、表現のバリエーションが増えたのはとても良いことだと思います。
KEYさん、そうなんです。PROVIAモードって良く出来てることを再発見しました。
色々撮って場数を踏んでいくうちに、ここはクラシッククロームでしょ、というところが精度良く判断できるようになるのでしょう。でも、それには1ヶ月では足りない気がします。借りてる間はとりあえず、クラシッククローム縛りにしようかな、と思っています(^^;