3月末にオーストラリアで開幕したF1の2013年シーズンもいよいよ19戦目、最終戦を迎えました。最終戦の舞台は今年もブラジルはサンパウロにある、インテルラゴス・サーキットです。ここではいくつものドラマが生まれてきました。そしてそれらのドラマの記憶には、いつも雨が絡んでいたような気がします。
今年も金曜日のフリー走行から雨続きで、予選も終始ウェットコンディションの中で行われました。この週末を通してドライになったのは決勝だけかもしれません。その決勝もいつ雨が降ってきてもおかしくない、どんよりとした天候の中でスタートしました。
8連勝中のベッテルとレッドブルを止めることができるのは、もはや不意の天候変化だけなのかもしれません。いつものタイヤ作戦に加え天候の読みも絡んだ複雑なレースとなります。
「今日僕らが達成したのは別の種類の記録だ」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル
スタートで出遅れてロズベルグに先に行かれてしまったものの、1周する前にポジションを奪い返し、その後は盤石のレース。途中タイヤ交換作業にミスがあり、大幅にタイムを失ったものの、それまでに築いたギャップで何とかカバーすることができました。結局レース中に雨は降り出したものの最後までウェットコンディションになることはなく、ベッテルはそのまま走りきって9連勝を達成しました。
上に引用したコメントは50年以上前のアスカリの記録との比較を指しています。謙遜の意味でもあり、同時にその逆の意味も含んでいるのでしょう。実際、50年以上前のF1と、現代のF1における勝利の意味、連勝の意味は全く違ったものかと思います。
何はともあれ、今シーズンはベッテルの強さが本当に目立ちました。そして単なる独走のレースであっても、その走りにはトップドライバーとしての成熟ぶりが強く感じられました。すべては彼が自分の力によって得るべくして得た勝利と記録だと思います。
「正しいタイミングで辞めることができた」 マーク・ウェバー/レッドブル
スターティング・グリッドよりも上位でフィニッシュできたのは久しぶりではないかと思えてきます。いえ、実際はそうではないのかもしれません。しかしベッテル同様にスタートでもたつきながらも、冷静に、着実に前を行くライバル達をオーバーテイクし、十分なギャップを稼ぎ出し、危なげない2位を獲得しました。結局今シーズンは優勝することが出来ませんでしたが、ドライバーズ・ランキングでは3位に入り、表彰台でキャリアを締めくくることが出来たのは、確かに有終の美を飾ったと胸を張れるものでしょう。
私にとっては、ベッテルの一番のライバルであることに加え、その言動やコース上でのドライビング・スタイルから、あまり好きなタイプのドライバーではありませんでした。しかし、ウィニングラップでヘルメットを取った顔や、表彰台でのはしゃぎぶりを見ていると、何となく寂しい気持ちがしてきます。「これが潮時」と口では言いつつ、本当のところは「まだ走れる」と、心のどこかで思っているはずです。
少しずつ衰え、競争力が劣るチーム、マシンでも最後までシートにしがみついて走り続けることも、F1ドライバーの「正しい辞め方」の一つだと思います。ただ、それもこれもウェバーにとっては、ベッテルが目の前に現れ、同じマシンのシートに座ってしまったことがキャリアとその寿命を決定づけたのかもしれません。5年間にわたり最高のマシンを手にしながら、最高の結果が得られなかったのだから、もはや走り続ける理由はないのでしょう。しかし、一世代若い天才に勝てなかったことは、決して恥じることではありません。
「ほとんど優勝みたいに感じている」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ
この言葉は過去にも聞いたことがある気がします。レッドブルは異次元として、マシンの力的にはメルセデスに劣り、もしかしたらロータスにも負けているかもしれないフェラーリで、今回のレースで3位を勝ち取り、ドライバーズ・ランキングでは2位になったのですから。この強さは本当にアロンソの実力を良く表しています。フェラーリが最高とは言わないまでも、もう少しまともなマシンを用意できれば、確実に今シーズンのチャンピオン争いはもっと荒れて、もしかしたら2008年のように、最終戦の最終ラップの最終コーナーまでもつれたかもしれません。
この4年間、常にベッテルに負け続けたと言えばそれはウェバーだけでなくアロンソも同じです。いえ、より大きな影響を受けたのはアロンソの方かもしれません。しかし彼にはまだ希望と自信があります。何かが少し良くなれば自分にはベッテルに勝つだけの力があると。しかしそれもこれもその力を生かせるマシンがあってこそ証明できることです。ミハエル・シューマッハがボロボロのフェラーリを数年で立て直したように、アロンソもフェラーリを導く力があるのだとすれば、来シーズンこそは正念場でしょう。
そうでなくても、ライコネンをチームメイトに迎える来シーズンの成績は、アロンソの本当の力を顕わにしてしまうものかもしれません。
「もし僕がフェルナンドの後ろにいたら、彼は僕に道を譲ったと思う」 フェリペ・マッサ/フェラーリ
ホームグランプリであると同時に、フェラーリドライバーとしての最後のレースでもありました。来季はウィリアムズのシートを獲得していることもあり、まだまだF1ドライバーとしてのキャリアは続くわけですが、どこか感傷的になるのはやはりフェラーリというチームの偉大さと、8年も在籍したというチームとの関わりの深さがあるのでしょう。そしてもちろん2008年のことも思い出されます。
このコメントを最初に聴いたときは「すごい嫌味を言うんだな」と思ってしまいました。しかしアロンソのドライバーズ・チャンピオンシップの順位も確定し、コンストラクターズ・チャンピオンシップにも影響はないから、もちろん可能な話ではあります。しかしチームもアロンソもそうはしないことを分かっていながら、8年間もNo.2として従順にチームオーダーに従い、取れるはずのポイントとトロフィーの数々を3人のNo.1ドライバー達に譲ってきたことを思い出せば、そのくらいのお返しは当然してもらえたよね?と言う意味なのかとも解釈できます。
しかし、調べてみればどうやら本当にそういう密約があったという話もちらほらあるようです。仮にそういう会話が実際あったとして、それはどれだけ本気の話だったのでしょうか? いずれにしろ、実際にそういうことが試される状態にならず、フェラーリとアロンソにとっても、そしてマッサにとっても良かったのではないかと思います。
激戦だったコンストラクターズ・チャンピオンシップですが、結局のところ2位はメルセデス、3位フェラーリ、4位ロータスと決まりました。
来シーズンはエンジン(と呼ばなくなるそうですが)始め、F1史上最大と言われるレギュレーション変更が行われます。テスト規制は相変わらずで2014年仕様のタイヤさえぶっつけ本番になりかねない状況で、勢力図はどうなるのか全く読めません。やはり大変革があった2009年に、ダブルディフューザーを編み出し彗星のごとく現れてチャンピオンを獲得し、そのまま消えていったブラウンGPのようなことが起こらないとは限らないわけで、とても楽しみです。
ということで、今年のF1観戦記もこれで終了。2014年開幕戦は3月16日、オーストラリアはメルボルンです。また来年!