三人羽織

投稿者: | 2011年5月26日

三人羽織 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

三人羽織 梟与力吟味帳 (講談社文庫)

初春の闇月夜、揃って命を狙われた逸馬、信三郎、八助。その理由を探る三人が行き当たったのは、南町奉行所の隠密廻り同心・岩倉が、無実の男を斬り捨てたという不祥事だった。自らの懐刀である岩倉を使い、逸馬潰しに躍起になる鳥居耀蔵。両者の対決はいよいよ佳境に!大人気シリーズ第10弾。

 梟与力吟味帳シリーズの最新刊です。文庫書き下ろしのシリーズものですが、前作「惻隠の灯」からちょうど1年。この手のシリーズものにしてはインターバルがちょっと長すぎるような気がします。そんな久しぶりの続編を手にとって、何だか懐かしいような気持ちで読んでみましたが、意外なくらいに前作までのプロットをすんなりと思い出せ、苦もなく読み切ることができました。

 北町奉行所の吟味方与力、藤堂逸馬を中心に、幼なじみでやはり御家人の武田信三郎、そして旗本格でありながら色々と頼りない毛利源之丞八助の三人を中心にした物語です。そしてもちろん、二人羽織ならぬ「三人羽織」という今作のタイトルは、この三人の切っても切れない縁と団結力を指したものです。それは単なる友情というのとは何か違うような気がします。

 と言っても、これまでと三人の関係、周辺の人々含めた人間関係は何も変わっているわけではなく、今回は三人を標的にして命を狙う何者かが現れるところから事件が始まります。幼なじみでお互い仲が良いとは言え、幕府の役人としての職務はそれぞれ全く関わりがない三人を同時に狙うのはいったい何者なのか? その理由とは何なのか?

 このシリーズは町方で起こる小さな事件をきっかけにしながら、単なる捕物帖や人情人間ドラマに終わらず、江戸時代後期の奉行所を舞台に、南町奉行鳥井耀蔵と北町奉行遠山影元の二人、および筆頭老中の水野越前守という、実在した人物たちが繰り広げた権力争いという、大きなストーリーがバックに流れています。今回は特にこの幕府のドロドロとした政争が「三人羽織」に関わる物語のキーとなっています。

 多くの時代小説で取り上げられているとおり、江戸の治安を守っていた町奉行所は、決して正義漢だけで構成されていたわけではありません。奉行所の役人は武士としての身分が低くとも、強大な権益を持っていただけに、現代にも通じるようなドロドロした事件の巣窟でもあったわけで、日本人というか人間社会って200年前とそう変わってないな、と変な感想を持ってしまったり。

 ということで、一冊読み切りものとしては、起承転結のはっきりしたとても面白い小説です。ただしもちろん、過去作を読んで背景をよく知ってる必要がありますが。一方でシリーズ十巻目を迎えてやや行き詰まりというかマンネリを感じるのも事実。壮大なドラマは楽しめましたが、結局彼らの人生は何一つ進展していません。シリーズものは登場人物たちが少しずつ変化していかないと、何となく先行きへの興味を失うというか、飽きを感じてしまいます。それは他のシリーズものにも言えるのですが。

 【お気に入り度:★★★☆☆】