- 作者: 佐藤雅美
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2011/02/05
- メディア: 文庫
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戦国武将の娘として、政略の道具に使われ翻弄された娘たちの生涯とは? お市の方の娘として浅井家から救出され、嫁ぎ先から引き戻され、秀吉の命を受けて徳川秀忠に嫁したお江をはじめ、非業な運命を受け入れつつ、懸命に生きた千世、満天姫、於長、千姫ら弱き女たち。敵味方問わず、波乱に満ちた生きざまを強いられた戦国のならいを、緻密な考証と、時代に埋もれる人間の営みを正確に見据える歴史観で描きだした直木賞作家の傑作連作集。
佐藤雅美さんの手による、戦国時代の女性達の物語。今年の大河ドラマ「江」は不人気という話も聞いていますが、そこは腐っても大河ドラマ。こういった「江」の時代の女性達を扱った本が、最近は本屋さんの目につくところに置かれるようになっています。この本が単行本として発行されたのは2年前のことですが、このたび文庫化されたのは先月のことです。
雰囲気的には先日読んだ「おんなの戦」に近いものがありますが、そこはさすが佐藤雅美さん。小説的脚色ではほとんど無く、徹底的な史料主義が貫かれています。それも史料の記述を全面的に信じてそれを紹介するのではなく、複数の史料や時代考証などから、むしろ史料の「嘘」とそうした「嘘」が書かれるに至った背景までが、しっかりと掘り下げられているところがすごいのです。
そのため、気軽に読むにはあまりにも難解です。いえ、書かれている内容自身は本来難しくないのですが、それをすんなりと理解するには、戦国時代に関する基礎知識を要求しているかのようです。ほとんどその辺のことを知らない私には、かなり読み進めるのに苦労しましたが、それでも最近事前に何冊か戦国時代を扱った小説を読んでおいたのは、この本を理解するに当たってかなり役に立ちました。それでも一語一文を流さずに、ときに後戻りしつつ読んでいけば、次第にさらに深い戦国時代の歴史の流れも含めて、全貌がおぼろながらも分かってくるようです。
ここで取り上げられているのはお江や千姫など有名な女性に加え、豊臣秀頼の娘(千姫の子ではない)で東慶寺に入った天秀尼、前田利家の娘で細川忠隆の嫁いだ千代、徳川家康の娘で池田輝政に無理矢理嫁がされた富子、徳川家康の養女で福島正之に嫁がされた満天姫、細川忠興の妻玉の娘で、前野長重に嫁いだ於長。この7人の女性が主人公です。とはいえ、彼女たちの一挙手一投足が詳しく書かれているのではなく、彼女たちの運命を決定づけた背景事情が詳しく書かれているのです。従って、ほとんどのページは戦国絵巻物語、その時代を駆け抜けた武将達の奮闘よ計略の解説に裂かれています。
戦国時代の武将の家に生まれた女性は、その人生は政略と政局、戦局によって決められ、その人生が翻弄され続けました。政略結婚はあたりまえ。夫が敗北すれば一緒に命も落とす。幼い子ども達さえも命を奪われる。そんな数々の非情な目に遭いながらも、その中で筋をしっかり通して逞しく生き抜き、時には痛烈な復讐をもしたような強い女性ばかりです。彼女たちの行動は歴史を動かした一つの要因だったのは間違いありません。
ドラマ仕立ての演出は何もないけれども、事実に勝るドラマはない、ということを改めて思い出させます。非常にに硬派で読みにくい本でありながら、もっともっと詳細を理解したくなってすぐに読み直してしまったくらいです。
【お気に入り度:★★★☆☆】