おんなの戦

投稿者: | 2011年1月23日

おんなの戦 (角川文庫)

おんなの戦 (角川文庫)

  • 作者: 井上 友一郎,澤田 ふじ子,司馬 遼太郎,永井 路子,南條 範夫,新田 次郎,縄田 一男
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/12/25
  • メディア: 文庫
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お市の娘たち、信長の姪の浅井3姉妹はそれぞれの人生を歩んだ。大坂城と運命を共にした淀殿、3度目の結婚で将軍御台所となったお江など、政略結婚を余儀なくされ、死の淵をも覗いた戦国の女たちを描く傑作短編集。

 最近「女性」を主人公に据えた時代小説をよく読んでいます。ストレートに「おんなの戦」と名付けられたこの本は、縄田一男さん編集による角川文庫の歴史小説アンソロジーです。このシリーズは以前に「吉原花魁」という本を読んだことがあります。今作のテーマはタイトルの通り、戦国時代を生き抜いた女性達の物語です。取り上げられているのは七人。いずれも歴史上に名前を残す有名な女性達です。

 折しも今年のNHK大河ドラマは、徳川二代将軍秀忠の正室で三代将軍家光の生母であった”お江”を主人公としています。この短編集はまさにそのお江に関わりのある人々が登場します。

 まずは織田信長の妹のお市。お市は浅井長政と政略結婚をさせられて三人の娘を産みました。その長女は、豊臣秀吉の側室となり、跡取りの秀頼を産み、豊臣家の滅亡と共に非業の死を遂げた淀殿。次女は京極家に嫁ぎ、姉妹の中では影が薄いながらも豊臣から徳川への時代の変化の波に上手く乗ったお初。そして末っ子の三女は、後に大阪城に攻め込み、姉の淀殿を死へ追いやる徳川家に嫁いだお江。

 この親子姉妹の関係とそれぞれの人生の物語を、こうしてまとめて読んでみると、その運命のいたずらの非情さに改めて驚いてしまいます。彼女たちはまさに、織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康という、日本の戦国時代の歴史を作った三人の武将による権力争いに翻弄され、引き裂かれてしまいました。

 このお市とその子ども達に加え、織田信長を本能寺で討った明智光秀の母でキリシタンだった志野。豊臣秀吉の正室にして、淀殿とは違ったかたちで豊臣家の最期を迎えた北ノ政所こと、寧々。そして徳川秀忠とお江の間に生まれ、豊臣秀頼に嫁いだ千姫が、取り上げられています。合計七人のそれぞれの人生物語が、それぞれ違った作家の手によって語られています。

 特に印象深いのは、織田亡き後の豊臣と徳川の権力争いのなかで、両陣営の大将にそれぞれ嫁ぎ、対照的な人生を送った淀殿とお江の関係です。彼女らが同じ両親から生まれ、幼少時代を共に過ごした姉妹であるということ。そして彼女ら二人が産んだそれぞれの子ども、秀頼と千姫は政略結婚させられたという事実。さらに、この親子姉妹四人にはいずれもお市、すなわち織田家の血が流れているという点に、歴史ドラマというか、ロマンというか、何とも言えない不思議を感じてしまいます。

 そんな中で新田次郎さん作の第四話「明智光秀の母」は、お市とその子孫達という点から離れた少し毛色の違う物語ですが、小説的にはこれが一番面白いと感じました。織田信長の命により明智光秀が一年以上の歳月をかけて攻め落とした八上城の攻防。なぜそんな戦の場に老齢な明智光秀の母親が関わることになったのでしょうか? この事件は本能寺の変の発端とも言われています。ストーリーの展開、複雑さ、そして衝撃的な結末。

 前回読んだ「亀井琉球守」もそうですが、こうして小説で読んでいると戦国時代はとても面白いと思えてきました。恥ずかしながら知らなかったことばかりです。いったい自分は日本史というものを全く勉強してこなかったことを痛感します。それに、私の大好きな江戸時代を理解する上でも重要な鍵がいくつも隠されています。それは巡り巡って明治以降から現代の日本を知ることにもなるわけです。

 【お気に入り度:★★★☆☆】