- 作者: 藤沢周平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/12/04
- メディア: 文庫
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海坂藩士・葛西馨之介は周囲が向ける愍笑の眼をある時期から感じていた。18年前の父の横死と関係があるらしい。久しぶりに同門の貝沼金吾に誘われ屋敷へ行くと、待っていた藩重役から、中老暗殺を引き受けろと言われる―武士の非情な掟の世界を、端正な文体と緻密な構成で描いた直木賞受賞作と他4篇。
いつも通り本屋をうろうろしながら次に読む本を探して平積みされた新刊などを物色していたのですが、これという本が見つかりません。こういうときは基本に帰ってみるに限ります。基本と言えば私的にはやはり藤沢周平。まだまだ未読の作品がたくさんあります。その中でもデビュー作とも言える基本中の基本をまだ読んでないことを思い出し、手に取ってみることにしたのがこの本です。
初期の藤沢作品は後期の作品に比べて非常に重くて暗い話が多いと言われています。タイトルにもなっている「暗殺の年輪」は昭和四十八年の直木賞を取った初期も初期の作品。このタイトルからして暗くて重くないはずがありません。同時に収められている他の四編も昭和四十年代に書かれたものです。
さてその「暗殺の年輪」…。読んでみてショックを受けました。ある意味期待通りというか予想通りの重い物語。海坂藩に渦巻く権力争いに巻き込まれる若者の非常な運命。そしてそれを上回る武家の女性に課された過酷な役割。その裏にある深い愛情。そのあまりにも悲しい展開に、泣けるというのではなく頭を抱えてため息をついてしまいたくなります。
しかし、それはこんな暗い物語は嫌いだ!と本を投げ捨てたくなると言うのではなく、それらの言葉の中を必死に覗き込んで、馨之介の心の声と息づかいを必死に聞き取らずにはいられません。そして結末。闇の中に消えていく馨之介の後ろ姿を、まるで母親の視線で見送ってしまいます。
その他の四編も負けず劣らずすばらしい物語です。武士ものだけでなく、捕物、町民市井物とバラエティーに富んでいます。でもやはり「暗殺の年輪」が最も印象的です。藤沢ファンならばやはり読んでおかなくてはならない一冊だと思います。
【お気に入り度:★★★★★】