- 作者: 岩井三四二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/03
- メディア: 文庫
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応仁の乱以来、三十三年も途絶えている祗園御霊会を復活すべく三左衛門は洛中を駆け回っていた。だが、協力を得られた町は半分ほど。さらに幕府と対峙する延暦寺からは横やりが。病に苦しむ孫から「祗園さんのお祭り、連れてって」とせがまれる三左衛門は、悪疫から都を救うための御霊会を復興出来るのか(「祗園祭に連れてって」)。降りかかる無理難題に挑む人々を描いた七つの短編。
「難儀でござる」に続く岩井三四二さんの時代小説短編集。先月文庫化されたばかりの新作です。今回のテーマワードはタイトルの通り「たいがいにせえ」です。無理難題をいわれて難儀していた人がついに堪忍袋の緒を切らして叫ぶ言葉ということなのでしょうか。
現代に生きる我々にも通じるとても身近なテーマのようですが、この小説に出てくるのはみな大昔の戦国の世に生きる人々です。主人公たちが遭遇する、ちゃぶ台をひっくり返したくなるような事件も、戦国の世ならではの命に関わるものばかり。ユーモアに溢れているようでいて結構ブラックな展開だったりします。
これらの短編を読んで個人的に面白いと思ったのは、戦国時代初期の武士達の裏の姿がリアルに描かれていること。江戸時代に至って完成された格式と型式に生きる武士ではなく、本当に武士が戦闘要員であった時代。彼らが命をかけて国盗り合戦を盛んにやっていた陰には何があったのか? これらは物語の主題ではないのですが、そんな意外な状況設定に「なるほど!」と感心してしまいました。
と、なかなか面白い本だったのですが、読み進めるのに意外に時間がかかってしまいました。明確な盛り上がりに欠け淡々と進む展開が続くせいかもしれません。でもそれこそがこの本の特徴でもあります。淡々と怒りを募らせる登場人物達。全く知らない世の中に生きる彼ら彼女らではありますが、心の底から同情してしまいます。
収められている合計七編の物語の中でも、一番気に入ったのは第六話の「あまのかけ橋ふみならし」です。ミステリー要素もあり「たいがいにせえ」という言葉が最も似合うとても面白い話です。でも、第七話の「迷惑太閤記」も捨てがたいものがあります。表紙絵の強面の老人は恐らくこの物語の主人公、笠間儀兵衛と思われます。「たいがいにせえ」という表情に溢れています。
【お気に入り度:★★★☆☆】