ニコンD500を手に入れてから約5ヶ月が経過し、これまでに飛行機は一通り撮ってみました。しかしD500を手に入れた一番の使用目的は、10月初旬に行われた鈴鹿のF1日本GPでF1マシンを撮影することです。
F1のような超高速で動く被写体を撮影するにあたって、アマチュア的にカメラに頼るべき&期待すべき主な機能性能は、オートフォーカス、手ぶれ補正、そして連写速度です。ニコンD500はすでに発売から2年以上経過しているカメラですが、今でもこれらの点ではトップクラスにいます。
今年はこのニコンD500に、借り物の最新レンズ AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR を取り付けて撮影しました。恐らくこれでダメならもうF1とかそういう動体撮影は諦めざるを得ない(=下手くそすぎる!ということで ^^;)という、動体撮影的には鉄板の組み合わせです。
さて、撮影結果と実際の使用感はどうだったのか、以下とりとめないですが、私なりにまとめておきたいと思います。
F1撮影記おさらい
まず最初にどんな写真が撮れたのか、F1観戦記のリンクを張って起きます。
以下のグダグダと書かれている内容は、これらの写真を撮ってきた時の体験を元にしています。
冒頭にも書いた通り、D500に組み合わせたレンズは9月に発売になったばかりの↑コレです。
以下の本文では触れていませんが、AFや手ぶれ補正や光学性能はもとより、この圧倒的な小型軽量さは、ある意味動体撮影における一つの大きな武器だと実感しました。
オートフォーカス:◎
一応使用した設定と効果を確認しておきましょう。
レリーズタイミングとロックオン特性
まずはAFのレリーズ制御とロックオン特性の設定です。
コンティニュアスAFを使うのは大前提として、レリーズタイミングは全てフォーカス優先に設定しました。F1のようにピント移動が非常に速くAFに厳しい被写体に対してフォーカス優先で使用すると、少々連写速度が落ちるような気がしますが、AF専用プロセッサを積んでるだけあって、合焦判定は非常に高速で正確であり、それほど大きなペナルティはありません。
そしてAFが一度捕まえた被写体に対するロックオン特性の設定もカスタマイズ可能です。この設定のチューニングは動体追従特性を最適化する上でのキーだと思いますが、結局今回はデフォルトのままで使用しました。
ロックオン特性に関係していそうな一例を挙げてみます。
例えばマシンの手前にこのくらいハッキリした障害物が被ると、ピントは即座に手前に引っ張られてしまいます。
が、すぐ次の瞬間(すぐ次のコマ撮影時)に金網が途切れると、すぐにF1マシンの方にピントは復帰します。(上記作例では流しの芯がタイヤに来てしまってるのでいずれにしても失敗作ですが)
これだけ見ると、ロックオンはあまり効いてないようにも感じられるのですが…
こんな感じで一瞬ポールを横切る場合は、まったくAFは反応せず、たしかにAFロックオンは効いているようです。実はまったく同じ状況でAFホールドをオフにしたK-1は一瞬ピントがポールに引っ張られることがありました。
ということで、AF開始直後の立ち上がりと被写体の捕捉も非常に早いし、多少のフレーミングのミスでもピントが抜けることもないし、ロックオン特性はデフォルトのままで十分でした。
AFエリアに関する設定
さて、次の問題はAFエリアの設定です。D500に限らずニコンの一眼レフ機はこの辺の機能が非常に豊富です。
F1などフォーミュラカーを撮る場合、ピントはドライバーのヘルメットに置くという鉄則があるので、突き詰めるとシングルポイントを使うべきという話になるのですが、私のようにヘルメットをシングルポイントで常に捕らえきる腕がない場合は、もう少し広いAFエリアを設定した方が便利です。今回は25点オートエリアか、もしくはダイナミックAFを使用しました。
25点オートは文字通りで、5×5=25点のAFポイントで同時に測距し、そのなかから最適なAFポイントをカメラが選択するもの。RGBセンサーによる被写体認識もされてるようですが、基本的に近距離のものに合う特性があります。
25点というとかなり範囲は広そうな気がしますが、D500の場合はこの図の赤い部分に相当します。シングルポイントほど狭すぎず、かといってどこに合うか分からないと言うほど広すぎず、ちょうど良いサイズではないかと思います。
ダイナミックAFは選択したポイントを中心に、周囲のAFポイントの情報も補助で使うというもので、考え方的にはPENTAXのセレクトエリア拡大モードに近いと思われます。選択したポイントが一番重視されるので、こちらの方が狙った所が明確になりやすいです。
動きものというと3Dトラッキングを使った方が良い、と言うような気もしますが、ピントを合わせたいポイント(この場合ヘルメット)の認識をカメラに任せるというのは、どうにも信用が出来ません。なんだか分からない状態になるのはイヤなので試してすらいません。
どちらのAFモードでも使用するフォーカスポイント(群)をジョイスティック式のサブセレクターで自由に動かすことが出来るので、ファインダー覗きながらAFする狙い目(→ドライバーのヘルメットを持ってくる位置)を選ぶことが出来てとても便利です。
D500は一眼レフとしてはAFエリアが画面全体広域に広がっている方なので、AFポイントの選択に関してはかなり自由度が高いです。
ただし、今年のF1マシンはドライバー保護用のバー(ハロー)が導入され、シビアなピントを求める人には非常に厄介な状態になりました。
コクピットまわりはこんな感じでハローがドライバーの前に被っているので、25点オートのように広いAFエリアを使用すると、場合によってはハローにピントが持って行かれる場合があります。
しかし、流し撮りのためにある程度絞り込みますし、観客席からコース上までの距離感なども考えると、500mmという超望遠レンズであってもピント的にハローに合うかヘルメットに合うかは、それほど大きな問題にはならないと感じました(だいたい深度内に入っている)。
ということで、ピントに関して明確に外したカットはほぼゼロだし、現地で撮影中にも背景にピント抜けたりピントリングが無意味に行ったり来たりすることもなく、AFに関してはほぼ完璧だったと結論づけられると思います。
なおニコンは公式にD500向けの「推奨設定ガイド(スポーツAF編)」なるマニュアルを配布しています。これがかなり参考になると思います。
連写性能:◎
D500のスペック上の連写速度はボディ単体で秒間10コマであり、AFやAEにも制限はなくフル機能が使えます。
連写モードの設定は左肩のダイヤルで行います。このダイヤルはロック付きで勝手に回ってしまうようなこともありません。
ただしAFのパートでも少し触れましたが、コンティニュアスAFで常にフォーカス優先に設定したので、実際には秒間10コマは出ておらず、9コマ/秒程度だったような気がします。
記録形式
さて、それ以外に連写性能に大きく関連してくるのが、記録ファイル形式と記録メディアの性能です。
ニコンD500のRAW記録形式はビット長(12/14bit)と圧縮方式(圧縮/ロスレス圧縮/圧縮なし)と、サイズ(L/M/S)が選べます。
F1などでは大量に撮ることになるので、できる限りデータサイズは小さくしたいところですが、渾身の一枚が撮れた場合に、現像耐性(=情報量)をしっかり確保したいので、画質面で妥協はせず、Lサイズの14bit ロスレス圧縮に設定しました。
この場合、1枚あたりのファイルサイズは概ね23MB前後です。D500は画素数がK-1やD850ほど多くないので、1枚当たりのファイルサイズとしてはそれほど大きい方ではありません。さらに普段はスマホ転送用およびリファレンス用にJPEGも同時記録していますが、F1撮影時はスピードと容量確保のためにJPEG記録はしていません。
バッファサイズと書込速度
14bitロスレスのRAW記録の場合、カタログ上の連続撮影可能コマ数は200コマとされているのですが、シャッターボタンを半押しすると右肩の液晶とファインダー内には「r29」と表示されます。これは最低29コマは連写速度が維持できる、という意味の表示です。なんかスペックより少なくないか?と思い、設定を色々見直したのですが、原因は不明なままです。しかし実際には撮影中に書き込み待ちでバッファフルになることはありませんでした。
と言うのも… 実際に1回のシャッターで何百枚もシャッターを切り続けることはまずありません。
F1マシンは超速いので、目の前を一瞬で過ぎ去って行ってしまいます。なのでこのスクリーンショットのように、1回あたり2秒間シャッターを押しっぱなしにするかどうか?と言ったところです。
ではD500のバッファ量は多すぎで意味がないか?と言えばそんなことはなくて、実際には上の例みたいな10~30枚程度の連写を短い間隔で次々に繰り返して行くことになります。つまり1回の撮影は20枚程度でも、バッファが完全に開放されることを待たずしてまた次の20連写に入っていくことがあるわけで、バッファ量がギリギリだとすぐにつっかえてしまいます。
本当に29枚が限界だとするとちょっと心配なのですが、先ほども書いた通り、実際にはバッファフルによる息つきは発生しませんでした。
もちろんバッファ量だけでなく、バッファの開放をいかに早めるかという点で、カードの書き込み速度は重要です。なのでD500には高いことを承知で大容量のXQDカードを使用しました。SDXCのUHS-IIでも大丈夫かもしれませんが、UHS-Iでは遅すぎてかなりストレスが溜まることになるだろうと想像します(試してはいません)。
ということで、連写速度とバッファ量、カード書込速度の3点は、地味ながらも動体撮影においては一番重要なスペックなのではないかと思います。
手ぶれ補正:○
今回の鈴鹿ではすでに書いた通り、借り物で最新の超望遠レンズ AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR を使用しました。それを前提に以下手ぶれ補正機能はどの程度役に立った、まとめておきます。
手ぶれと被写体を追いかける動きの判定(流し撮り判定)
手ぶれ補正に関してはあまり設定する項目はありません。
レンス側に設けられたスイッチにあるとおり、ノーマルモードとスポーツモード、そしてオフの3つです。カメラとレンズを振り回し、連写する場合はレリーズごとにセンタリング動作が入らないスポーツモードを基本的に使用しました。
真横流しの場合
まずは基本の横に一気に振り切る流し撮りの場合です。撮影ポイントにも寄りますが、F1は時々刻々と加減速をしているので、実は単純に一定速度でカメラを振れば良いわけではありません。
とは言え、速度変化は手ぶれ補正にはあまり関係なくて、ひとえに撮影者の腕の問題になります。
ちなみに、真横にカメラを大きく振りつつ流し撮りする場合、手ぶれ補正はスポーツモードよりもノーマルモードに設定した方が、補正レンジが広がることで歩留まりが高まるような気もしました(あくまでも気がするレベルです)
もちろんノーマルモードで左右に振り抜きつつシャッターを切ると、ファインダー像は横方向にガクガク揺れるので、被写体をより追いかけづらくなります。それでもラインがある程度読めていれば何とかなりますす。
流し撮り連写だから手ぶれ補正はスポーツモードと決め打ちするのではなく、状況によってはノーマルモードも使い分けた方が良いと感じました。
左右にカメラを振る場合
次に単純な流し撮りではなく、複雑にカメラを振る方向が変化する場合があります。というかサーキットでの撮影は、ほとんどの撮影ポイントでこのケースに入ると思います。
例えばS字出口から逆バンクにかけて見通せるDスタンドからだと、こんな感じです。
S字を抜けて突然視界にあらわれたF1マシンは、最初右から左へ向かってきますが、その後すぐに左から右に方向が変わって、最後は縦方向にも動きつつ右から左へ方向を再び変えて、最後は猛烈なスピードで目の前を駆け抜けていきます。
F1マシンではありませんが、このポイントで実際に撮ってみるとこんな感じです。この左右にカメラを振る動きを、手ぶれと判断するか、動体を追いかけている最中と判定するかはかなり難しいところではないかと思います。
実際、昨年まで使ってきたペンタックスの手ぶれ補正では、このシーンは手ぶれと判定されてしまうので、ここでは手ぶれ補正はオフにするしかありませんでした。
しかしニコンはここでちゃんとこの撮影ポイントからでも手ぶれ補正が意図するとおりに動作しました。手ぶれと被写体を追う動きの判別が正確で速いようです。
しかし苦手なシーンも当然ある
しかしそんな優秀な手ぶれ補正もやはり完璧ではありません。特にダメだったのが特定の条件下における縦流しです。以下にその例をお見せします。
これは鈴鹿のEスタンド上から逆バンクを抜けてくるマクラーレンのアロンソを追いかけながらシャッターを切ったもので、連続した3枚です。シャッター速度は1/125sec、手ぶれ補正はSPORTモードに設定しています。
オレンジ色のマクラーレンが盛大にブレてるのは私が下手くそだから… かもしれませんが、良く見ると縁石がぴったり止まって写っています。つまりこの場合、手ぶれ補正はカメラを下に振る動きをブレと見なして、お節介にもF1マシン追いかける動作を一生懸命打ち消して補正していることになります。500mm(換算750mm)で意図的にカメラを振る動きを補正できるのだから、ある意味超優秀な手ぶれ補正とも言えます。湖の場合はそれが徒になってるわけですが。
ならばということで思い切って手ぶれ補正をOFFにしてしまうと、こうなります。手ぶれ補正により縁石が止まると言うことはなくなり、腕次第でF1マシンの動きにぴったりカメラを合わせられれば流し撮りは成功します。
つまりこの場合、カメラの動かす方向の変化はこうなっています。最初F1マシンは左から右に走ってきて、コーナーを曲るに従って下向きに動きが変わり、最後は右から左に走り抜けていきます。
このポイントは、撮影位置が高い上に比較的コースまで遠いので、ちょうどマシンがカメラの正面を向いたあたりでは、カメラをゆっくり縦方向に振ることになります。この瞬間、動体追従判定が途切れ、静止判定されてしまうようです。縦方向がダメと言うよりは、もしかしたら振る速度が遅くなるのが原因かもしれません。
似たように縦方向の動きが生じるシーンはいくらでもありましたが、↑このスプーンコーナ入り口のように、コースに近くてカメラを振る速度が速い場合は、縦方向の動きもそれなりに検知しているようです。こうして1/40secでの流し撮りに成功したくらいですから。
ということで、全体的にAPS-Cで500mmレンズ使用という、手ぶれ的には非常に厳しい条件にもかかわらず、手ぶれ補正はかなり強力に効くことが確認できました。手ぶれ補正モードにSPORTモードが用意されていることからも分かるとおり、動体撮影にも対応できるようにうまくチューニングされていると思いました。
それでも苦手なシーンは確実にあって、最終的には自分の腕を磨いて手ぶれ補正をオフにして撮るというのが王道なんだろうな、と再認識しました。
F1以外の作例
まず最初は成田空港を離陸していく旅客機。わざわざ雨上がりの天気を狙っていきました。で、このカットは動体を撮ったと言うよりは、ほんの一瞬のチャンスをうまく捕らえることができた一枚です。
ある意味F1並に難しかったのは百里基地で撮ったアグレッサー。F1よりは距離があるのでAFにはそれほど厳しくないですが、手ぶれ補正と連写性能はめいっぱい使い切ります。百里基地では何度か戦闘機を撮ったことがありますが、過去に使ったどんなカメラより歩留まりは良かったです。
さらに、流し撮りの練習も兼ねて羽田空港近くの京浜島で夜間の着陸シーンを撮ってみました。シャッター速度は1/20sec以下まで落とすので、手ぶれ補正は重要ですし、暗所で条件悪い中のAF性能も頼りです。そして意外に連写性能も重要です。これもまた予想以上に上手く撮れたので、もしかして自分の腕のおかげか?と錯覚しそうになりました。
最後に、これは記事にしてないのですがAF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR を返却する前に、撮り慣れた飛行機も撮ってみようと思い成田空港で少し試し撮りしてみた写真です。うむ、こういうシーンにはこのレンズは完璧ですね。D500との組み合わせも最高。AFも手ぶれ補正もバシッと決まります。そしてもちろん描写性能も抜群に高く、今まであまり見たことがないような機体のディテールがきっちり映り込みました。
ザッとこんな感じなのですが、レーシングカーと飛行機では同じ動体と言っても、撮影のいろいろ勘所は違いますし、さらに他の分野になれば動体追従特性と一口に言っても、求められるものはまた変わってくるに違いありませんが、きっとD500はどんな分野もほぼ完璧にこなすのだろうと思います。
そして、最終的にはやはりD500の上位互換機とも言えるD850が欲しくなってきました。連写速度はちょっと落ちますがそれ以外の部分は同等かまたは進化していて、画質も良くなっているでしょうから。クロップしても十分な画素数が確保できるので、一つのレンズで2焦点的に使えるのも魅力です。
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おまけ:PENTAX機の動体撮影能力に関する過去記事
昨年まではF1の撮影にも、飛行機の撮影にもPENTAXのカメラを使っていました。そして、動体に弱いと言われるPENTAXでF1を撮ると実際どうなのかをまとめ記事もいくつか書きました。
ニコンD500と比べてどうか?と言えば、全体的にやはりD500のほうが良いのですが、一番大きな差は何かと言われると実はAFではなくて「連写性能」だと思います。なかでもKシリーズはバッファサイズが不十分な上に、カードの書き込みが遅くてバッファ開放に時間がかかるのは、動体撮影の質を大きく落としていると思います。
ですからやはり、今後のPENTAX機に何より必要なのは、UHS-IIもしくはXQDもしくはCFexpress対応ではないかと思います。なので、今はD850が欲しいなぁと思う一方で、K-3 II後継機にも期待しています。
ピンバック: 最高の動体撮影対応一眼レフカメラ Nikon D500 の思い出 – 酔人日月抄外伝