開幕から約1ヶ月が経過したところですが、今回行われたバーレーンGPで早くも今シーズンの第4戦までが終了しました。今シーズンは色々ありすぎて、まだシーズン序盤であることを忘れてしまいそうです。今回のレースは2戦ぶりに完全ドライコンディションとなり、各マシンの全力アタック&バトルが見られました。バーレーンのサーキットは長い4本のストレートを複雑なコーナーで結んだ独特のレイアウト。他のレースにはない高温で砂が多い独特の環境となっています。
—予選
予選はQ1から波乱含みで進みますが、Q3まで進んだのは今シーズンの中では順当な顔ぶれかと思われました。しかしそのQ3の結果は驚くべきものでした。他チームに比べて極端な軽タンクでアタックをしたトヨタの2台がフロントロウを独占したのです。トヨタが何を狙って軽タンク作戦を今回とってきたのか? とにかくポールポジションを押さえるという作戦は珍しくはありません。モナコのように非常に抜きにくいコースであるとか、前回のレッドブルのように、とにかく決勝でのラップペースに自信がある場合などなど。バーレーンは決して抜きにくいコースではないので、普通なら後者の作戦であると考えられます。
トヨタのポールポジションと聞いて思い出すのは、2005年のアメリカGPです。ミシュランのタイヤ安全性問題が発生したF1史上の黒歴史ともいえるレースです。金曜のフリー走行で起きたラルフシューマッハの大クラッシュによって発覚した、ミシュランタイヤの安全性問題。日曜日のレースをなんとか成立させるため、主催者、各チーム、FIAやミシュランら、F1関係者が知恵を出し合って難しい交渉をしていました。結果、すべての交渉が決裂したのは決勝スタートの直前、日曜日のお昼前でした。
トヨタはミシュランユーザーの1チームでしたが、予選でQ3まで進んだトゥルーリは、3周分の燃料しか積まずにタイムアタックをし、その軽さのおかげでポールポジションを奪い取りました。まだレースを安全に行うために多くの人が奔走し、ファン達が固唾をのんで見守っていた土曜日の午後の時点で、トヨタはすでに決勝レースに出る意志が全くなかったことを意味しています。
この行為はF1のみならず、モータスポーツの精神に著しく反し、特にF1ファンを完全に無視した卑劣な行為です。トヨタのF1における初ポールポジションは、確かに彼らが望んだとおり記録には残りましたが、その実態はこの年のアメリカGPと同様に黒歴史以外の何者でもなく、人々の記憶に残ることになります。レースをするつもりがないチームが予選に出てポールポジションを奪う…。そこには何の意味もありません。
そして今年のバーレーンGP。トヨタがフロントロウを独占したと聞いたときに、また何かやったのか?と頭に浮かんだF1ファンは少なくないはずです。果たして、予選後に発表されたマシン重量をみてみれば、トヨタは2台とも全20台中の最軽量であったことが分かります。もちろん、例のアメリカGPのような、あり得ない軽タンクではありませんが、やっぱりねぇ… と思わずにはいられません。まぁ、フロントロウをとったからには優勝する作戦を立てているはず。さて、トップチェッカーに向けてどんなレースを展開するのか、お手並み拝見です。
—決勝
今回のレースの結果を決めたポイントは、大きくは2つあったと思われます。まず一つはオープニングラップのバトル。トヨタの2台はそこそこうまくスタートを決めて先頭を守りますが、トゥルーリとグロッグの位置が入れ替わってしまいます。これはこの2人の間の問題と言えばそれまでですが、このポジション逆転は後々の結果に影響を与えたのではないかと思われます。
そして3位以下では激しい順位変動が起きました。その台風の目となったのはマクラーレンのハミルトンです。すばらしいスタートを決めてハミルトンはKERSの力もあってか、オープニングラップではトゥルーリをもかわして2位に上がる勢いを見せます。が、バトルが白熱しすぎて無理をしたのか、タイヤの熱が入りにくかったのか分かりませんが、オープニングラップを終わってみれば、トゥルーリにポジションを奪い返され、その直後の1コーナーではブラウンGPのバトンに3位の位置も奪われてしまいました。
ここで重要なのはハミルトンの善戦ではなく、この時点でバトンがちゃんとハミルトンを退けて3位の位置まであがり、じっくりとトヨタの2台を追撃する態勢を作ったことです。バトンも決して燃料搭載量が多い方ではありませんが、それでもトヨタの2台よりは10kg多く積んでいます。ある程度のペースでついて行けばピットタイミングで逆転が可能です。ここは結果的に非常に重要なポイントとなりました。
そしてレース結果を決めたもう一つのポイントは、1回目のピットインタイミングとタイヤチョイス。トヨタは誰よりも早く、12周目と13周目に1回目のピットインをしました。しかもタイヤをプライムタイヤ(ハード側のタイヤ)に交換します。このタイヤがくせ者でした。
先頭を走っていたはずのグロッグがピットインを終えて復帰した位置は、なんとロズベルグの後ろ。いくらマシンの調子がいいとはいえ、簡単に抜ける相手ではありません。しかも交換したタイヤはコースとの相性があまりよくないプライムタイヤ。結局グロッグはロズベルグを抜くどころか、置いて行かれてしまう始末。
同じくトゥルーリもピットイン後、ペースの上がらないプライムタイヤに手こずり、すぐにルノーのアロンソに追いつかれ、KERSの後押しを受けたアロンソのすばらしい腕によって、あっという間に抜かされてしまいます。アウトラップでスーパーラップを叩きだして飛ばすのは、ミハエルやセナ達が得意とした、レースを勝つための王道。しかしトヨタの2台はそれどころではありません。
逆にこの間、ピットインまでの数周を飛ばしまくったブラウンGPのバトンが余裕を持ってトップを奪い返します。ここでほぼ今日のレースは決しました。
しかもトヨタ以外の他のチームはみなオプションタイヤを選びます。長いスティントだからと言って、寿命の長いプライムタイヤを安易に使ったトヨタは、むしろペースの上がらないタイヤを長く使うこととなり、結局2回目のピットインが終わってみれば、前レースの優勝者レッドブルのベッテルまでもがトゥルーリの前に出てしまう始末。グロッグに至ってはポイントが取れるかどうかと言う位置まで落ちてしまいました。
—チーム力
と言うことで、無理して予選でポールポジションを取った割には、ある意味これまでのトヨタらしい冴えないレースとなってしまいました。前回のベッテルが見せたように、軽タンクなりの、他を圧倒するペースをスタート直後に見せることもできず、その後のタイヤチョイスのミスも致命的でした。ピットイン後の復帰ポジションが悪かったことは不運ではなく、結局のところ第1スティントで十分なペースを出せなかったことによるものです。それは、自分たちのマシンの力、ライバル達の力を冷静に見極め、正しいレースシミュレーションができていれば予測できたこと。ポールポジションを取ったという記録さえ残ればいいと言うのでない限り。
その一方で予選からしっかりとした作戦を立て、それを完璧に実行し、余裕を見せての今季3勝目を飾ったのブラウンGPとバトンの組み合わせは、本当に強いことを実感します。また、タイヤに厳しいマシンに手こずり、レースぶりに余裕は感じられませんでしたが、スタートの失敗をうまく取り返したベッテルも見事でした。彼の実力がいよいよ本物であることが、毎レースごとに証明されていくようです。
3位はポールスターとしながらも満身創痍のトゥルーリ。作戦が杜撰だったとはいえ、途中のプライムタイヤで走った第2スティントで、オプションタイヤを履くベッテルのアタックをうまく押さえきった力量はさすがだったと思います。グロッグがあっという間に転落する中で、それでも3位にとどまれたのはトゥルーリの力によるものだと思います。だからこそ、もしトゥルーリがスタートでトップを守りきり、グロッグよりも前で飛ばしていたら… もう少し結果はよかったのかも知れません。
スタート直後に勢いを見せたハミルトンは、その後全く動きはなくて結局4位でレースを終えました。やはり今のマクラーレンではこれが精一杯なのかもしれません。一方、歴史的不調に陥っていたフェラーリですが、今回はトラブルもなく走りきり、ライコネンが6位に入賞。今シーズン初のポイントをフェラーリにもたらしました。こちらも、今のフェラーリではこれが精一杯なのかもしれません。
—チャンピオンシップ
ここまで4戦終えてのポイントランキングですが、ドライバーではバトンとバリチェロのブラウンGPの二人がワンツーです。その二人をベッテルが追いかけている形に。コンストラクターズでももちろんブラウンGPがトップですが、やはり好調なレッドブルとトヨタまでがポイント数で抜き出た形です。2層ディフューザーを搭載し、速さを見せていたウィリアムズは、なぜか上位3チームと違ってレースでは結果が出ず、絶不調なBMWよりも下でフェラーリと争っている状態。
さて、次からはいよいよヨーロッパラウンドが始まります。マシンのアップデートも本格的にされてくることでしょう。その結果次第ではまたがらりと勢力図が変わるかもしれません。
次戦は2週間後の連休明け5月10日にスペインGPが行われます。アロンソの母国ですが、また何か魅せてくれるでしょうか?楽しみです。