雪山冥府図

投稿者: | 2011年6月15日

雪山冥府図―土御門家・陰陽事件簿〈5〉 (光文社時代小説文庫)

雪山冥府図―土御門家・陰陽事件簿〈5〉 (光文社時代小説文庫)

信楽の陶工に嫁いだおきぬは生来の男好き、淫蕩な男漁りや色恋沙汰の果てに、幼子を棄て京に出奔する。父に育てられた息子の輪蔵は、絵師になるため京に上るが、先斗町遊廓の張見世で客を引く母と出逢う―。衝撃の結末が待つ表題作ほか全六編。欲望・嫉妬・憎悪・絶望…、人の心に巣くう魔物と対峙する陰陽師・笠松平九郎らの叡智と情けが、京に生きる人々を救う。

 澤田ふじ子さん作の「土御門家・陰陽事件簿」シリーズの第五巻です。このシリーズはまだ既刊を追いかけている段階ですので、発売されたての文庫新刊というわけではありません。しかし現時点では一応これが本シリーズの最新刊ということで、ようやく追いついたことになります。第四巻「逆髪」を読んだのはずっと前だと思ったのですが、記録を調べてみると今年の二月のことでした。久しぶりだなと感じていたのですが、以外に最近のことです。どうりでこれまでの流れをよく覚えているわけだ。

 主役はもちろん土御門家の京都触頭、笠松平九郎です。そして第三巻から登場した大垣藩を致仕した博学な浪人、小藤左兵衛も引き続き登場します。と言うよりも、すでに小藤佐兵衛のほうがすっかり笠松平九郎よりも上手となりすぎて、まるで小藤佐兵衛が主役の座を奪ったと言ってもいいくらいの扱いです。シリーズものではよくあることだとは思いますが、小藤佐兵衛が登場してから明らかに物語の流れが変わりました。笠松平九郎の恋路もすっかり影を潜めてしまいましたし。私としては初期の雰囲気のほうが好きだったんですけどね(^^;

 佐兵衛は確かに博学で人柄も良く、魅力ある人物なのですが、やはり土御門家譜代で陰陽師としてのバックボーンを持つ、笠松平九郎のほうが、何かとわかりやすくてヒーローたり得る資格を持ってると思うのですが。どうにもこの辺の、基本的な物語の土台にちょっとわかりにくい部分が出てきました。この先いったいどうなるのやら?

 しかし短編集形式の各話は相変わらずとても面白いです。歴史ある京都の町を舞台にしているだけあって、市井の様子や自治の仕組みは江戸のそれとかなり違う部分があり、その辺の京都ならではの歴史背景を丁寧に織りまぜた物語となっています。とはいえ物語の基本骨格は非常にわかりやすい勧善懲悪もの。しかしラストは尻切れ風で「皆まで言わなくてもこのあとどうなったかは分かりますよね?」という突き放した終わり方をします。このハードボイルドな作風は女性作家独特な気がします。しかしそれがまた想像力をかき立てて、ストーリー展開に単純さは一切感じさせません。もちろん読後感はとてもスッキリです。

 それにしても女性作家の作品でありながら… というよりはむしろ女性作家の作品だからこそ、なのかも知れませんが、今作には悪役としてどうにもダメな女がやたらに出てきます。頭が良くて確固たる信念を持った格好いい悪女、と言うのではなく、そこまで落ちぶれて馬鹿でどうしようもない女性っているだろうか?と思うくらいですが、それは私がウブだから持つ感想なのかも(^^; 現実のニュースを思い起こせば、今の時代に限らずこういった事件は人間の歴史の中で数限りなく繰り返されてきたのかな?などと、変なことを考えてしまいます。

 【お気に入り度:★★★★☆】