iOS10にアップデートしたiPhone 6s PlusのカメラでRAW記録を試してみる

投稿者: | 2016年9月28日

 先日iPhone7シリーズが発売されましたが、私は昨年にiPhone6s Plusに機種変更しているので今年は機種変スルーの年。なので悩んだり心配したりヤキモキすることなく、平穏な9月を過ごすことができました。
 それはさておき、新しいiPhoneの発売とともにiOSも一新される事が恒例となっているわけで、今年もiOS10へのメジャーバージョンアップが行われました。OSに関しては自分にも関係があると言うことで、私のiPhone6s Plusももちろんアップデートしてみました。

 Apple自らが「iOS史上最大のアップデート」と言っていますが、ロック解除方法が変わったくらいで、普通に使ってる分にはそれほど変化は感じません。が、ひとつ私が注目していた機能がひっそりと追加されているのです。

K3II3074.jpg
 それがiShightカメラで撮影した写真のRAW記録サポートです。iPhoneで気軽に撮った写真をゴリゴリと現像できるなんて面白そう! ということで取り急ぎ試してみることにします。

RAW記録するために必要なもの

 まずは環境を整えましょう。RAW記録をするために必要なものは以下のとおりです。

12MピクセルのiShightカメラ

 RAW記録が可能なiPhone / iPadはごく最近の機種に限られています。12Mピクセルのカメラを搭載していることが条件となるということで、現時点では以下の機種が必要です。

  • iPhone7 / iPhone7 Plus
  • iPhone6s / iPhone6s Plus
  • iPhone SE
  • iPad Pro 9.7inch

 概ねiPhone6sシリーズ以降に発売された製品が必要と言うことになるのですが、iPad Pro 12.9インチとiPad mini4のカメラは8MピクセルなのでRAW記録は非サポートとなります。

iOS10

 iPhone7シリーズなら最初からiOS10なので気にすることはありませんが、それ以外のiPhoneの場合、まずはOSをiOS10にアップデートする必要があります。

www.apple.com
 現時点ではiOS10.0.2がリリースされています。初期リリースのiOS10.0.1でもRAW記録はサポートされています。カメラ周りにおいて10.0.1と10.0.2の差はなさそうです。

RAW記録に対応したカメラアプリ(Lightroom mobileなど)

 ハードウェアとOSが揃ったところで、最後に必要なのはアプリです。標準のカメラアプリはRAW記録をサポートしておらず、今までどおりJPEG記録のみ。なので別途RAW記録に対応したカメラアプリが必要になります。

 で、RAW記録に対応したサードパティのカメラアプリはいくつか既にあるようですが、一番の有名どころではAdobeのLightroom mobileがiOS10リリースとほぼ同時にアップデートし、RAW記録に対応しました。

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 RAW撮影に対応したバージョンは2.5.0以降です。最新バージョンは2.5.1です。

 というか、Lightroom mobileは本来は画像編集および管理のためのソフトウェアで、デスクトップ版のLightroom CCと連携して使うのことで初めて役に立つのですが、カメラ機能もついているというのは今回はじめて知りました。

IMG_7447.jpg
 確かに画面の右下にカメラのアイコンがあります。これをタップするとカメラモードに切り替わります。

IMG_7428.jpg
 撮影方法は特に変わったところはありません。標準のカメラアプリとほとんど同じですが、上記の対応機種であれば、こうして記録方式を選択するメニューが出てきます。RAWファイルの形式はDNGです。

 なお、Lightroom mobileは上にも書いたとおり、本来はCreative Cloudを契約してデスクトップ版とともに使うためのアプリですが、配布は無料で行われていますので、恐らくカメラ機能を含む基本的な機能はスタンドアローンでも使えるものと思います。(試してないので詳細は分かりません)

Adobe Lightroom CC

Adobe Lightroom CC

  • Adobe
  • 写真/ビデオ
  • 無料

現像

 Lightroom mobileのカメラモードでRAW記録した写真は、そのままではLghtroomのカタログに登録されるだけでカメラロールには入りません。

image
 Lightroom mobileは現像機能が豊富ですので(というか本来そのためのソフトですから)、細かいところまで調整することができます。とくにデスクトップ版を使ってる人にはパラメータの意味も分かりやすいでしょう。他のAdobeモバイル向けソフトとの連携も可能です。

 そしてCreative Cloudを契約していれば、カタログを同期してそのままMacまたはPC上のLightroomで現像することもできます。標準アプリでいうところのiCloudフォトライブラリと写真アプリみたいな関係で、現像結果は自動的に同期され、シームレスに作業が可能です。

 なおiPhone6s Plusに関してはレンズ補正もカメラプロファイルもサポート済みです。恐らくRAW撮影をサポートした他のiPhoneも同じと思われます。

 なお、iPhone内のどこかに保存されたDNGファイルをそのまま直接取り出せないか?と色々試しているのですが、現時点では成功していません。Lightroom mobileからカメラロールやiCloudドライブなどにコピーしてみたのですが、その時点でJPEGに変換されてしまいます。

スクリーンショット 2016-09-26 22.40.33
 Creative Cloudを通してMac上のLightroom CC側に同期されたファイルを見てみると、こんな感じになっていました。JPEG記録で通常3MB前後のところ、DNGファイルは15MB前後となっています。ただ、これはCreative Cloudを通しているので、まったくのオリジナルではない可能性があって、ちょっとそのあたりがよく分かりませんので、参考程度と言うことで。

撮影結果

 ということで、上記のような環境でRAW撮影し、現像した結果を以下に貼っていきます。同時記録ではありませんが、なるべく同じシーンをJPEGでも撮って来たのでそのカットも一緒に並べておきます。なおJPEGのほうは未調整の撮って出し、DNGはLightroom mobile(およびLigtroom CC)を使って私の好みで適当に現像し、Lightroom CCから出力してFlickrにアップロードしています。

日中

 まずは明るいシーンの場合です。

JPEGAPC_0030.jpg
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 この前の日曜日に久しぶりに東京で見られた青空。撮って出しはこんなだったっけ?というくらいぼんやりしてます。RAWから現像したものは結構彩度を上げてしまいましたが、青空の風景ならこのくらいどぎつくても良いんじゃないかな?と。

 ただ、この程度の調整は別にJPEGからやっても、それほど破綻なく出来る範囲かと思います。

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 西武池袋線の高麗駅に停車中の電車。雨の日でしたが、白い車体ということもあって、結構コントラストがあります。本物の車体色がクリーム色だったのか真っ白だったのか分からないのですが、イメージ的にはRAW現像した方が記憶に近いような気がします。JPEG撮って出しは白飛びや黒つぶれをしないように、コントラストが低めに調整されていることに加えて、私の好みというか記憶色に比べると、やや緑被りしているような気がします。

 これもJPEGから調整可能な範囲と思いますが、RAWならより安心していろいろなパラメータを弄り、自分の好み通りに仕上げられます。

JPEGAPC_0020.jpg
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 巾着田の彼岸花も撮ってみました。雨の日で日中とは言え色々と難しい条件かと思います。JPEGではこれまで同様にあっさり目でダイナミックレンジ重視といった感じ。真っ赤な彼岸花の絨毯に引っ張られたのか、ちょっとシアンが被ってるようにも思います。K-1でもホワイトバランスはかなり暴れたシーンなのでこの辺は仕方ありません。

 RAW現像の方はちょっとやり過ぎたかも…でも今回は赤色が特徴の花ですので、ちょっときつめかもしれないと思いつつ赤味を生かして現像しました。

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 もう一枚はRAW現像のみ貼っておきます。普通に撮ったカットから、無理矢理現像でアンダーにして、いかにも彼岸花写真風に仕上げてみました。が、ちょっと無理があったようです。でも、撮影時からちゃんとイメージして上手いことやれば、こういう極端な現像も十分に出来ると思います。

夕方〜夜

 次に暗いところを撮ってみましょう。

JPEGIMG_7398.jpg
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 iPhoneで撮るものと言ったら、圧倒的に食べるものが多いですよね? 美味しい焼酎をわざわざRAWで撮ってみるとどうでしょうか?

 ふむふむ、なるほど… 黒いテーブルは持ち上げないでそのまま沈めてしまった方が締まりが出そうです。

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 次は美味しそうな鶏肉。うん、どっちにしても美味しそうに撮れています。が、脂の艶々感はもう少し出したいよね、と。

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 次はとある都内駅前の夜景。昔の携帯電話内蔵のカメラと比べたら、本当に最近のスマホ内蔵カメラはすごいです。コンパクトカメラが売れなくなるわけです。

 ところでこれまでJPEG撮って出しはダイナミックレンジ優先に感じていましたが、こうして夜景を撮るとある程度の範囲で白飛びを許容していることが分かります。が、RAWで丁寧に現像すると、灯りに照らされた看板とか、ちゃんと階調が出てきました。

 スマホのカメラって高輝度側の階調が突然飛んだりするところに未だ違和感を感じることもあるわけですが、その辺もRAWから現像すればある程度軽減できそうです。特に夜景のようなコントラストの激しい被写体には有効かもしれません。

RAW記録にすると手ぶれ補正がOFFになる?

 しかし、RAWで夜景などを撮影してみて気付いたことは、やけにノイズが多いな、ということ。それが豆粒センサーの実力だとして、スマホとは言えJPEG書き出し時のNRはかなりがんばってるんだな… と最初は思ったのですが、それにしてもLightroomやNR専用ソフトのDfine Pro2を使ってもなかなかJPEG撮って出しレベルに追いつけないことを不審に感じました。

JPEGAPC_0032.jpg
DNGAPC_0031.jpg
 例えばこのカット。夜のビル街です。こう言うの出先で撮りたくなりますよね。

 これの中心部を拡大して並べて見ると…
APC_0032-Edit.jpg APC_0031-Edit.jpg
 こうなります。左がJPEG、右がRAW。RAWはLightroomで+30くらいのNRをかけています。これだけ見ればまぁまぁですが、JPEGと比べるとRAWは明らかにノイズが多く、先鋭感に欠けます。iPhone/iOS内部のNRはそんなに強力なのか??

 その謎は撮影データを見ていればあっけなく解けました。上に挙げた夜の作例すべてそうなのですが、夜景や薄暗い室内などで撮る場合、RAW記録にすると明らかにISO感度が高く設定されてしまうのです。場合によりますが2段前後変わることはザラにあって、このビル街の例で見るとJPEGはISO100なのに対して、RAWはISO400になっています。その分シャッター速度を変えて露出は調整されています。JPEGは1/4secという超低速シャッターに対して、RAWの場合は1/15sec。ちょうどISO感度の差の2段分。

 標準のカメラアプリはもちろん、Lightroom mobileのカメラ機能も露出調整は全自動です。シャッター速度とISO感度は自動で選択され、自由に変更することは出来ません。色々撮ってみてもこの傾向は常に変わらず、と言うことは、このISO感度とシャッター速度の違いは、たまたま微妙なフレーミングのずれによるものとかではなく、明らかにiPhoneが意思を持ってやってるとしか思えません。

 そこで思いつくのは手ぶれ補正です。iPhone6s Plusのカメラは光学手ぶれ補正が搭載されており、そのおかげもあってか、シャッター速度は1/4secくらいまで落としてでも低ISO感度を保つように働きます。が、なぜだか分かりませんがRAW記録の場合は光学手ぶれ補正がONにできず、その結果ブレを防ぐためにISO感度を高めに設定しているるのではないかと推測しています。

 もしこの推測が正しいとして、それはLightroom mobileの実装の問題なのか、iOS側の制限なのか、iPhone6s Plusのハードウェアの制限なのかはなおさら不明なところです。バグで後日直ると良いんですけどね。

まとめ

 ということで、どうもモヤモヤした結果になってしまいました。

 何を目指していたのか分からぬまま「RAW記録」という言葉の響きに必要以上に期待してしまっていましたが、いろいろやってみて、JPEG出力の素直な絵を改めて見直し、RAW現像の難しさを実感し、そしてISO感度の謎挙動にぶつかってしまい、結局のところ「スマホ内蔵カメラの良さってこういう方向じゃないよね」という当たり前の原点を思い出した気がします。

 写真好きカメラ好きとしては「一眼レフ並みの写真がスマホで撮れる!」みたいな文句をみると、「またそんなこと言ってるのか…」と生暖かい目になってしまいますが、奇しくもその罠にすっかり自ら填まってしまったと反省しています。

 「写真の絵作りはすべて素のデータからマニュアルでやりましょう」という意味でLightroom mobile的にはこれで良いのだろうと思いますが、iOS10がRAW出力をサポートした目的は、単に写真を趣味とするマニアに、細かいところを弄る自由度を上げるため… なのかどうか、その辺がちょっと納得がいきません。その前にISO感度を自由に選ばせてよ、と。

 もう少しすると、このRAW出力を使ってあっと驚く新しいアプリが出てきて、スマホによる写真の新しい楽しみ方が生まれてくるんじゃないか?いや、生まれてきたら良いのに、とぼんやり考えてしまいました。

 要するに「期待しないで遊びのつもりでやってみると面白いけど、間違っても本気の写真撮影には向かないよ!」というのが現時点での私個人的結論です。

2016年12月追記

 さらにアップデートしてマニュアル撮影が出来るようになりました。