伊豆は過去にも何度も訪れていますが、ここ5年くらいはご無沙汰していますし、ずっと行きたいと思いつつ、過去に一度も行ったことがない場所があることを思い出しました。と言うのは「旧天城トンネル」です。川端康成の「伊豆の踊子」や松本清張の「天城越え」で有名な… と言いたいところですが、恥ずかしながらどちらも読んだことがありません(興味を持ったのでこれから読みます)。
そうではなくて、年末の紅白歌合戦の紅組トリとして石川さゆりさんが隔年で歌う名曲「天城越え」のほうが真っ先に頭に浮かびます。カラオケでも大好きでよく歌うのですが、この曲が描いている現地を見に行こう!と思いつきました。
鬱蒼とした森の中に静かに朽ちてゆく旧天城トンネルは、日が燦々と降り注ぐよりもどんよりして薄暗いくらいの方が雰囲気がありそうです。果たしてそこは想像通りの風情が漂う「天城越え」の風景が広がっていました。
往路は芦ノ湖スカイライン経由で
富士山ビュースポットとしても有名な杓子峠へやってきました。眼下の街並みは見通せるようになりましたが、富士山は残念ながら全く見えません。
天気が良いのか悪いのか分からない複雑な空模様が、この日だけではなく、お盆期間中の関東地方の天気を表しているような気がします。なので絶景はすっぱりと諦めて、暑くなるよりも今日は涼しい曇天を期待しましょう。
ちなみにこの後国道1号線に出て、いったん三島の市街地へ下り、そこから伊豆中央道、修善寺道路を経て天城峠へと至る国道414号線を目指します。
浄蓮の滝
浄蓮の滝は以前にも訪れた記憶があるのですが、あまりよく覚えていません。駐車場から細い山道を少し下ったところにあるようです。雨が降ってきましたが早速行ってみましょう。
駐車場から浄蓮の滝へ下る道はほんの数百メートル程度ですが、有名な観光地の割りに周囲は鬱蒼とした森に覆われていて結構ワイルドです。いいですね、こう言うの。
苔もこの長雨で生き生きしています。超綺麗!
そして到着しました、浄蓮の滝! それほど大きな滝ではないですが、周囲の岩の様子と言い、緑の豊かさと言い、そして滝壺のエメラルドグリーンの水と言い、すごい神秘的な雰囲気。
滝を撮ると言えばスローシャッターですよね。しかも今回はDFA24-70mm用にPLフィルターを準備しました。さらにNDフィルターがあれば完璧なのですが、ちょっとそこまでは手が回らなかったので思い切り絞り込んでスローシャッターを切りました。もちろん三脚に乗っけています。
私が到着したのは午前9時半ごろ。この頃は駐車場も空いていて、滝周辺もあまり人がおらず、人が途切れた瞬間を狙ってベストポジションに三脚をセットできる状態でした。しかし、10時を過ぎるとちらほら観光バスなども到着するようになり、一気に人が増えてきます。こうなると三脚はもう立てられません。写真目当てなら朝出来るだけ早い時間が狙い目です。
なお滝壺から下の河原は釣り場になっています。入漁料を払った釣り人のみ立ち入ることが出来ます。写真的には是非下に降りたいところですが、写真目的では入れませんので諦めましょう。釣りはそんなに本格派ではなく、竿など道具を現地で借りて親子で楽しむ人達が中心でした。
そして浄蓮の滝のすぐ横には山葵畑があります。清水でしか育たないと言われる山葵ですが、浄蓮の滝から流れ落ちてくる、あのエメラルドグリーンの天然水で育てられているのでしょう。ここだけでなく周辺にはたくさん山葵を栽培している畑があります。山葵沢の描写は「天城越え」の歌詞にも出てきますよね。
山葵は多年草で一年中生育するそうですね。もちろん味などの点で収穫に適した時期というのがあるのかも知れません。いずれにしても雨も多く水量が豊富で湿気も高いこの時期は、葉っぱの生き生きとした緑が美しいです。
ということで、浄蓮の滝とわさび沢をたっぷり堪能したところで、人も増えてきたので駐車場に戻りました。私が到着したときからみると圧倒的に車が増えていました。そして駐車場にはお土産屋さんが併設されていいます。ここで食べておきたいのは山葵ソフトクリーム。薄い緑色のソフトクリームは、ピリッとほんのりした辛さが利いていて美味しいです。
さて、浄蓮の滝を出て国道414号線をさらに南へ進むと、少し行ったところにその名も「天城越え」という道の駅がありました。特に用事があったり休憩したかったわけではないのですが、この看板を撮りたくて立ち寄ってしまいました。
この先ずっと上り坂が続き、天城峠はもうすぐです。
旧天城トンネル
ナビに旧天城トンネルをセットしたら「本気ですか?」的な警告が一瞬出ましたが、無視してそのままOKしてしまいました。そして旧国道への分岐地点は思ったより細い入り口でちょっとビビります。分岐の入り口に駐車場があって、もしかして車はここに置いていかないといけないのか?と思ったのですが、前の車が構わず入っていったので、ついていくことにしました。
旧道は舗装もされておらず、車一台分の幅しかない九十九折りの山道です。ところどころに離合ポイントがありますが、実際には対向車がやってきたらかなり困ったことになります。が、幸いなことに旧天城トンネルに到着するまで、すれ違ったのは1台だけでした。周囲は鬱蒼とした森に覆われていてしんと静まりかえっています。
本当にここを進んで良いのか?と何度も思いつつ、やっと到着した旧天城トンネル! おぉ、すごい、カッコイイ! トンネル脇は少し広くなって数台分の駐車スペースと東屋みたいなものがありました。
ここも有名観光地と思っていましたが、意外なくらいに放っておかれていて良い感じです。トンネルの脇、写真に写ってる道しるべのあるあたりからは、さらに登山道が天城峠へ向けて続いています。旧トンネルも通らず、山道を歩いて天城越えする人もいるんでしょうね。
苔むした石造りのアーチには「天城山隧道」と書かれています。明治38年に開通したトンネルで長さは445.5m。イヤイヤ、本当に良い雰囲気です。
そして、気がつくと私を入れて3台の車が修善寺側にいたのですが、ちょうど反対側から一台の車が反対側からやってきました。その人にトンネル内や反対側の様子をみんなで聞いて、結果3台で一気に通り抜けようと言うことになりました。私は2番目で先頭のBMW X1についていくことにします。
ブレブレの不鮮明な写真ですが、トンネル内の様子です。幅は3.5mほどしかなく離合は絶対不可能です。反対側から車が来ないことを祈りつつ超ゆっくりと進んでいきます。というか、このトンネル車で通れるんだ、と言うことを始めて知りました。もちろん、中を歩いて通り抜ける人もいます。
と言うことで反対側に抜けました。こちら側にも数台分の駐車スペースがあります。他の2台はそのまま行ってしまったのですが、私はまだ写真を撮り足りないので、再度車を停めてトンネル入り口へ。修善寺側よりもこちらの下田川の方が鬱蒼としていて雰囲気があるような気がします。
改めて歩いてトンネルの中に入ってみましょう。奥を見通すとこんな感じ。トンエルは中程へ向けて山なりになっているらしく、反対側の出口を見通すことは出来ません。見通せるところまで入っていこうかと思ったのですが、怖くて無理です。いや、昼間ですし何があるわけじゃないのですが、古いトンネルってやっぱりなんかイヤですよね。音の反響とかすごくて、誰もいないのに人の声がすぐそこで聞こえてくるような気がして、ゾゾッとしてしまいます。いや、それをまた楽しんでいたりするわけですが。
ここが限界かも、ということで入口側を振り返ります。
なんか、こういう写真を良く見かけたような気がします。紅葉だとトンネル出口が真っ赤に染まって綺麗なんでしょうね。いえ、緑濃い夏の季節でも綺麗です。
トンネル内の照明は、昔のガス灯を模しているそうで、とても雰囲気があります。でもかなり暗いですけど。ちなみにこの写真を撮ってる頃に、向こうから二人組が歩きでやってきました。足音が遠くから響いていたので、人がやってくるらしいのは分かっていたのですが、姿が見えるまでドキドキしていました。
むしろ相手側の方が出口付近に突然人影が現れてゾッとしたかも。こちらも咳払いしたりしてなるべく存在を知らせるようにはしていたんですけどね。顔が見える距離に近づいてからちゃんと挨拶して、普通の人間ですよ、というアピールをお互いにして一安心です。
ちなみにその後ここを訪れる車はぱったり途絶えました。なんだかんだで1時間くらいグズグズしながら写真を撮っていたと思うのですが、見かけた車は一緒にトンネルを抜けた2台と、その前に反対側からやってきた1台。その後私が写真を撮ってる間に1台ずつが行き交っただけ。あとはトンネルを歩いてきた2人。なので、誰の邪魔にもならないと言うことで308をトンネルに戻して記念写真を撮っておきました。
週末や紅葉の時期など、ハイシーズンはもしかしたらそれなりに混むのかも。しかしアクセス路も含め、これだけ離合が難しい場所ですから、混雑するという状態はあまり想像したくありません。この日はとても空いていてラッキーでした。それに雨と霧に煙る天候は、このトンネルの雰囲気にむしろぴったりで、とても良かったと思います。
ということで、今日の目的は果たしましたがまだお昼過ぎですからもう少し伊豆半島を南下してみましょう。その後については次回に続きます。
使用したカメラとレンズ
カメラはいつものK-1です。レンズはF2.8ズームトリオを持って行ったのですが、主に標準ズームのDFA24-70mmF2.8をメインに使いました。特に浄蓮の滝ではPLフィルターのありなしが、結果に大きな影響を与えます。エメラルドグリーンの水の色や、雨に濡れた緑の色の出方が違います。ネイチャー系はDFA15-30mmF2.8の出番かなと思っていたのですが、PLフィルターありとなしを見比べてしまうと、いくら超広角の迫力があると言っても物足りません。
こうなるとDFA15-30mmF2.8はフィルターが(簡単には)取り付けられないのが効いてきます。開放F値は暗くても良いので、フィルターが使える超広角が欲しいと、始めて実感しました。