7月中3回目のレースはハンガリーGPです。舞台はブダペスト郊外のハンガロリンク。私がF1を見始めたころからずっと開催されていて、当時は旧共産圏唯一のレースでした。冷戦終結後もF1は変わらず開催され続け、テレビに映るハンガロリンクの風景はいささかも変わっていません。
ここはパーマネントサーキットでありながら、タイトなコーナーが多くストレートが短いのが特徴で、平均速度が遅くオーバーテイクが難しいサーキットです。それは20年以上前の1000馬力ターボの時代も、大排気量NAになっても、アクティブサスが合法だった時代も、タイヤ戦争が勃発したときも、DRSが導入されても、ハイブリッド化されても、F1マシンがどう変遷しようと変わりません。
Jenson Button / McLaren MP4-30 / 2015年 日本GP
一方で特殊な特性のサーキットということで、ヤマハエンジンが優勝しかけたり、第3期ホンダが唯一の優勝を飾ったり、他では見られない印象的なシーンが記憶に残っています。
今年ももちろんそのコース特性は健在で、トラックポジションがすべてを決めるレースとなり、接近戦はあちこちで勃発するものの、オーバーテイクは皆無といって良いほど何も起きないレースでした。そういう意味では、面白いのかつまらないのか良くわからなくなります。
「最初のコーナーで順位をふたつ下げたときに優勝を逃した」 ニコ・ロズベルグ
まさにそのとおり。
予選ではイエローフラッグの影響をもろに受けてしまったハミルトンに対し、最小限の影響だけで切り抜けたロズベルグは、ラッキーなことにポールポジションを獲得しました。これでスタートさえ決めれば、このコース特性からして優勝は半分以上決めたようなものでした。
しかしそのプレッシャーに負けてしまったのか、スタートの出足でわずかなミスを犯しスピードに乗れません。さらにはスーパースタートを決めて二人の争いに割り込んできたリカルドに撹乱されて、気がついてみたら1コーナーを3番手で抜けるという最悪の結果になります。この時点で逆にロズベルグの優勝は消えてなくなってしまいました。
しかし続く2コーナーでアウトから3コーナーにかけてのクロスラインをとり、リカルドから2番手の座だけは奪い返します。彼のレースはここまで。いや、それでもハミルトンから2秒と離れることはなくぴったり後ろをつけて、ハミルトンが少しでもミスをしたら即座に逆転できる位置にはいました。しかし結局は何も起きませんでした。
これでポイントリーダーから転落し、追いかける立場に変わります。ハミルトンには今後、必ずエンジン交換のペナルティが課されるときが来るわけで、それを考えればこのシーズンのちょうど中間点において、ほぼイーブンといえるのかも。
しかしここ数戦のレース内容を見ていると、実際にはポイント差以上にロズベルグは劣勢に立ってると感じてしまいます。本人が同じように思ってるかどうかは分かりません。どうにも流れが悪いときは仕方ありませんが、次に流れがやってきたときに、そのチャンスを生かしきれるかどうかが鍵となると思います。毎回書いてる気がしますが、もう1回悪あがきをして欲しいところです。
「昨日の予選のあとで、今日は望みどおりの結果が得られる立場にはいなかった」 キミ・ライコネン
ウェットから急速に乾きつつある路面に翻弄され、アタックタイミングを見誤ってQ2で敗退してしまったライコネンは、14番手からのスタートとなってしまいました。
オーバーテイクが難しいこのコースでは致命的なことでしたが、フェラーリの持ち前のスピードとタイヤ戦略を定石から変え、第一スティントを長く取ることで、1回目のピットインで中段勢をまとめてオーバーカットし、フェラーリvsレッドブルとの一騎打ちに参加するところまでポジションを回復してきます。
レース終盤、国際映像はずっとライコネンとフェルスタッペンのバトルを映し続けていました。途中接触があったりして白熱はしましたが、結局オーバーテイクには至りませんでした。ラップタイムが1秒速くても抜けないのがこのコースの特徴です。ライコネンは自分の仕掛けに対しラインを微妙に変えるフェルスタッペンに苛立ちます。逆に言えばフェルスタッペンは非常にうまいブロックをしたと言えるのでしょう。
14位からスタートし6位でフィニッシュしたとすれば、悪くはないレースだったようにも思いますが、実際ライコネンは非常にフラストレーションを感じたようで「がっかりだ」とまで言ってます。同様にベッテルもリカルドと1秒以内の争いをした結果、やはりオーバーテイクはかなわず「結果に納得がいかない」とのコメントを残しています。
それだけフェラーリのマシンにレーススピードがあったのだとしたら、問題はやはり予選にあるのでしょう。チャンピオン争いと同様に、コンストラクターズの2位争いも白熱してきました。今回の結果を受けてフェラーリとレッドブルのポイント差は1ポイントに縮まりました。
これまたここ数戦の勢いは明らかにレッドブルにあります。二人のチャンピオンドライバーが苛立ってるのは、目の前に立ちはだかるレッドブルに対してではなく、開発が進まないフェラーリチームに対してなのかもしれません。
「事故回避でペナルティを受けるべきではない」 ジェンソン・バトン
今回のレースで唯一リタイアしてしまったのがバトンでした。もともと向いてるサーキットと思われていたここで、マクラーレンは2台揃ってQ3に進出し、アロンソが7番、バトンが8番グリッドからのスタートとなり、決勝でも2台ともポイント獲得することが期待されていました。
しかし、バトンのマシンには序盤早々にトラブルが発生し失速してしまいます。ハイドロ系の問題が発生し、アクセルもブレーキもペダルがフロアまで踏みぬけてしまうと、バトンは無線で訴えてきます。それに対しチームが出した指示は「ギアを操作するな」というもの。油圧が完全に抜け切って、コントロールを完全に失うことを恐れての指示です。
が、前戦のロズベルグに続き、これがまた無線規約違反と判定されペナルティを受けてしまいます。
「マシンの操作に関しドライバーをアシストする情報を与えてはいけない」という規約が、今シーズンから厳格に運用されているわけですが、そもそもこの規約に何の意味があるのか良くわかりません。
非常に高度な技術の集大成である現代のF1マシンに対し、ドライバーが一人でできることは限られています。いかに彼らがスーパーマンだったとしても。特にマシントラブルへの対処にもピットから口出しができないというは、あまりにもドライバーに酷な話です。
本来この規約には安全に関わる問題については禁止しない、という例外条項があります。しかし今回のバトンのケースにはこれが認められませんでした。
F1は過去にも馬鹿げたルールを導入してはすぐに撤回してきた過去があります。チームオーダーが禁止されたこともあったし、予選システムの紆余曲折も記憶に新しいところ。この無線禁止も馬鹿げているとして早晩撤回されるかと思っていたのですが、実際は強化される方向に動いてるとか。一体何が起きているのでしょう?
テレビの解説者が言っていたように、ファン目線でレースを楽しむためには無線による技術的指示はあったほうがむしろ面白いと思います。そのためにも用語を統一し暗号を禁止するなどやり方はいくらでもあるはず。
謎のペースダウンに見舞われたドライバーから「ペダルが床まで踏み抜けるぞ!」と言われた場合に、「何も言えない。自分で対処しろ」と応答するのと、「油圧が落ちている。ギアチェンジも最小限にしろ。復帰させられるかどうか検討する。それまでステイアウトして頑張れ!」と指示が入るのとでは、どっちがエキサイティングでドキドキするでしょうか?
次は2年ぶりのドイツGP
7月最後のレースは速くも今週末、ホッケンハイムで行われるドイツGPです。昨年は開催されなかったので2年ぶり。ドイツ人ドライバーはベッテルやロズベルグがいますし、メルセデスの母国GPでもあります。どんなレースになるか楽しみです!