カナダGPが行われたモントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットは、前戦のモナコと正反対の意味でF1カレンダー中で特殊な超高速サーキットです。そのためか、過去のカナダGPでは後に語りぐさになるような印象的なシーンやバトルが数々繰り広げられてきました。
古くはナイジェル・マンセルが優勝目前のファイナルラップでエンストしたとか、ジャン・アレジの最初で最後の優勝とか、オリビエ・パニスがクラッシュして骨折した事もあった一方で、ロバート・クピサは空を飛びモノコックが割れるほどのクラッシュをしながらも無傷だったシーンも思い出されます。変わった事件としてはピットロード出口で赤信号で止まっていたキミ・ライコネンに、前を見ていなかったルイス・ハミルトンが追突するという事件もありました。
それから日本人ファンとして忘れられないのは、弱小スーパーアグリに乗る佐藤琢磨が、マクラーレンのフェルナンド・アロンソを最終シケインの飛び込みでオーバーテイクことも鮮烈に覚えています。
ヴァルテリ・ボッタス / Williams FW37 / 2015年 日本GP
最近では2011年には雨が降って大荒れになり、ほとんど最下位からスタートしたジェンソン・バトンが、セバスチャン・ベッテルをファイナルラップでかわして優勝したこともありましたし、2014年には残り数周というところでダニエル・リカルドがニコ・ロズベルグを抜き去りトップに立つとほぼ同時に、フェリペ・マッサとセルジオ・ペレスがクラッシュするという壮大などんでん返しもありましたっけ。
まだF1が地上波でも放送されていた頃、カナダGPを初めとするアメリカ大陸のレースは、時差の関係もあって深夜3時頃からから未明にかけてほぼライブで放送されていました。そのため半分寝ながらいつになく長い放送を見ていた記憶がありますが、それもCS有料チャンネルしか放送がなくなった今となっては昔話に過ぎません。最近では日曜の深夜に生で見ることはなくなり、録画して翌日以降に見るようになりましたが、それでもカナダGPというとあの夜更かししていた頃を思い出します。
さて、今年はまた何か記憶に残る番狂わせが起きるかな?と期待して観戦しましたが、結果的には昨年に続き、良くも悪くもわりと落ち着いた展開のあまり波乱のないレースとなりました。
「蝶のように舞い、ハチのように刺すモハメド・アリのことしか考えられなかった」 ルイス・ハミルトン
こういう鼻につく優等生コメントをするのはいかにもハミルトンらしいです(実際モハメド・アリに対して彼がどのくらい思い入れがあるのかは知りませんが)。こういうノリノリの受け答えは序盤戦にはなかったもので、このあたりからも彼が復調してきたことが窺えます。
スタートはまたしても大失敗でした。幸いカナダのコースは1コーナーまでが短いので、救われた部分があったと思います。もし普通のコースだったらベッテルだけでなくロズベルグにも前を取られていたことでしょう。実際のところすんでの所だったわけで、際どいバトルとちょっとした接触でもって何とか持ちこたえました。
あとはメルセデスのマシンを生かして走りきるだけ。ベッテルに先を越されたのは予定外だったでしょうが、ここはDRSも抜群に効くし抜きどころが沢山あるわけで、慌てず騒がず様子を見ていればチャンスはあるはず。実際のところコース上で決着を付けるまでもなく、フェラーリのやる気のない作戦により軽々とトップを奪い返すことが出来ました。
これで2連勝を決め、ロズベルグとのポイント差もあっという間に一桁の9ポイントまで縮まりました。波に乗ると手が付けられなくなるのがハミルトンですから、もしかしたら次戦当たりでひょっとするかもしれません。
「彼は厳しい動きをしたが、レーシングなので仕方がない」 ニコ・ロズベルグ
モナコで惨敗した後のレース。今回勝負が決したのはスタート直後の1コーナーと言っても良いのではないかと思います。やはりイマイチなスタートを切ったものの、ハミルトンよりはマシでした。そして1コーナーでサイドバイサイドの戦いとなった結果、フロントホイールがヒットしコース外に押し出されてしまったのは、やっぱりロズベルグでした。
幸いレースはそのまま続行できましたが、大きく順位を落としてしまいトップを伺うことはもはや叶いません。このサイドバイサイドでの勝負弱さは昨年にも何度も見てきた光景です。そしてそれについてとても物わかりの良い上のコメントは何を意味してるのでしょうか? 実際のところレーシングアクシデントに違いはないと思いますが、もっとハミルトンを責め立てて心理戦をするくらいの図太さはないものか?と思ってしまいます。
その後、接触の影響からブレーキに問題を抱えたりしましたが、最終ラップ前には4位を奪い返したと思った瞬間のスピン。フェルスタッペンの幅寄せが厳しすぎたとも思えるのですが、いずれにしろここでもまた勝負弱さを見せ、結局5位でフィニッシュ。1コーナーのことを思えばそこそこリカバリーしたとは言え、何とも締まりのないレースとなりました。
ということで、開幕4連勝の勢いはどこへ行ったやら、ここへ来てロズベルグのダメなところが全部出てきたように思います。復調したハミルトンには勝てないにしても、もっとちゃんと正面から直接対決してほしいものです。
「作戦に関してチームを批判する理由はない」 セバスチャン・ベッテル
一番の見せ場はスタート。揃って出遅れたメルセデスの2台に対し、ベッテルはスーパースタートを決め、1コーナーまでの短いストレートであっという間にトップに立っていました。
しかしフェラーリは今回勝てるとは思っていなかったし、予選の結果からも勝つための戦略は考えなかったのでしょう。予想外にラップリーダーになったこ生かす柔軟さもありませんでした。その結果、トップを走っていながら後ろを追ってくるハミルトンの動向を見極めることなく、自らが真っ先に動いてしまいます。それが予定通りだったから、という理由で。バーチャル・セーフティーカー中でラッキー!くらいの勢いだったのかもしれません。
実際のところベッテルに勝機があったかどうかは分かりません。ハミルトンに合わせて動いていたらアンダーカットされたかもしれないし、1ストップ作戦は機能したかどうかは疑わしいところです。でも挑戦する意思も見せずに、安全策をとってしまうところにフェラーリの弱さを見た気がします。この堅さは場合によっては強さにもなるので、一概に悪いとは言えないのですが。
挑戦者であることを自覚して、もっと真面目にレースをして欲しいと思います。せっかくベッテルとライコネンという素晴らしいドライバーを抱えているのですから。
「今後の数戦にとって大きなモチベーションになる」 ヴァルテリ・ボッタス
ウィリアムズはハイブリッド化されて以降しばらく続いた勢いにかげりが見え、今年に入って不調が続いていると思い込んでいましたが、戦績を見ればなんだかんだで前半戦は2台揃ってポイントを積み重ねてきており、コンストラクターズ・ランキングではレッドブルに続く4位につけています。
ここカナダではメルセデスPUの純粋な速さに加えて、1回ピットストップ作戦を成功させたことで、ライバルたちとの直接対決を避けつつ、久しぶりに表彰台に姿を見せました。決してタイヤにやさしいとはいえないマシンで、うまくタイヤをマネージできるのもボッタスらしいところです。
マシン特性がうまくはまり、作戦が的中すればこうした成績を残すことはできるわけで、今後ヨーロッパラウンド中にいくつかウィリアムズ向きなトラックもあることですし、レッドブルや、場合によってはフェラーリを脅かすくらいの激しいコンストラクターズ・ランキング争いを期待したいところです。
「今日は戦えるペースがなかった」 フェルナンド・アロンソ
超高速コースであるカナダはマクラーレン・ホンダには不向きであることは、あらかじめ分かっていたわけで、実際その通りの結果となりました。10番グリッドからスタートして11位フィニッシュのノーポイントというのは、1回ストップ作戦が失敗だったと言うわけでもなく、純粋に今のマクラーレンのマシンの実力なのでしょう。予選で今回もQ3に進んでいただけに、残念感だけが残ります。
レース終盤にタイヤを替えたいと訴えたアロンソの無線の声が忘れられません。いかにも苦しそうな声でした。去年よりはましとはいえ、まだまだやることは多そうです。ダメならダメなりにウィリアムズくらい一芸に秀でていると面白いんですけどね。どうにも良いところが見当たらないのが、見ていてももどかしいです。
未知のアゼルバイジャン
次は早くも今週末。今シーズン初の連戦です。しかもヨーロッパ域内ではなく、海を越えたフライアウェイからの連戦は過去にあまり例がありません。
その次のレースの舞台はF1初開催となるアゼルバイジャンのバクー市街地コースです。アゼルバイジャンってどこにあるんだろう… とググッてしまいました。なぜか「ヨーロッパGP」というタイトルがついていますが、場所的にはほとんど中東、カスピ海の西岸にあって、イランと国境を接しています。元はソ連の一部だったということで、中東とヨーロッパの文化が混ざっている国なのかもしれません。
市街地ということもあって、誰にとってもはじめてのコース。それこそ何が起こるかわかりません。バクーとはどんな風景の町並みなのか、カメラに写る景色も楽しみです。