65年以上前の黎明期からF1が開催されてきたモナコの市街地コースとそこで行われるレースは、今でもF1カレンダー中で最も特別なレースであり、またF1を代表する風景でもあります。およそ現代のF1マシンがアクセル全開でバトルをするのにふさわしいとは思えないレイアウトと路面、DRSもほとんど効かずどんなにスピードがあってもオーバーテイクは至難の業。抜けないモナコはトラックポジションが全てで、基本的に前にいた者が圧倒的に有利となります。
それだけに予選とピット戦略は他のレースと比べものにならないほど重要です。ただでも難しいレースが今年はウェットコンディションでのスタートとなりました。ドライでもグリップしない路面が濡れて滑る上に、エスケープが全くないコースは、ドライバーに極度の緊張と集中力を要求します。そしてセーフティカーが導入されたり、路面状況が刻々と変化したりするなかで、適切なタイミングで適切なタイヤに交換するというピット戦略がレース結果に与える影響も大きく、いつも以上にチームの総合力が問われるレースなのです。
ダニエル・リカルド / RedBull Renault RB11 / 2015年 日本GP
そして今年はその通り、ドライバーだけではなく総合力が優ってるチームが勝つ、というよりも、どんなにマシンとドライバーが速くても、チーム力が劣っていれば勝てないという、典型的なモナコの難しさを見たレースとなりました。
「速いのに結果が伴わないことに少しうんざりしている」 ダニエル・リチャルド
前戦のスペインGPではトップを走っていながら、謎のタイヤ戦略を強いられて、17歳の新しいチームメイトに初優勝をさらわれるという経験をしたばかり。それだけでもかなり腹立たしい出来事だったはずですが、今回はさらに低レベルなチームのミスにより、またしても初優勝のチャンスを逃してしまいました。
メルセデスをも寄せ付けないスーパーラップを予選で決めてポールを獲得。レースではウェットコンディションの序盤は、ロズベルグの不調もあって、あっという間に後続に対しギャップを稼ぎ出します。トップを行く彼は順当にインターミディエイトを挟む王道の2回ストップ作戦を取ったのに対し、ロズベルグを抜いて2位に上がってきたハミルトンは、ウェットからいきなりドライへと切り替える賭けの作戦に出ます。
一時はハミルトンの後ろに下がってしまったものの、タイヤの違いからくるインラップとアウトラップのスピード差を生かして、余裕を持ってトップを奪い返せる予定でした。チームのミスさえなければ。
もちろんタイヤ交換はリスクがつきものです。ナットが外れずに手間取るとか、エンストしてしまうというとか、ピットロードを他のマシンに塞がれて待たされるという光景は良く見かけます。しかし今回のミスは、そういった想定できるリスクとは違い、チームの指示通りにピットインしたらタイヤが用意されていなかったというお粗末ぶりでした。
10秒以上をタイヤ交換に費やしたその結果、コースに戻りボウ・リバージュの坂道を加速し始めたときには、すでにレーシングスピードに達してサンデボーテを回ってきたハミルトンに、あっさりとかわされてしまいます。そこから先はハミルトンに何か起きない限り、オーバーテイクはかないません。そして実際ハミルトンには何も起こりませんでした。
表彰式でのリカルド不機嫌さは際立っていました。チームと喜び合う姿もなく、シャンパンファイトすらしません。ブランドルによるインタビューには「レースの話はしたくない」と言いつつ、しかしその後は結局言葉があふれてくるように悔しさを雄弁に語っていたのが印象的です。
わざとではないとはいえ、こんなまたとないチャンスを2戦連続でチームによって潰されるという経験は、なかなか消化できるものではなさそうです。こんなチームは辞めてやる!と言えないだけに、その怒りのぶつけどころがないのもまた苦しいところです。
レッドブルはまだ完全に復調したとは言いきれず、サーキットによって好調不調が出てくるものと思います。リカルドに次のチャンスが訪れるのはいつになるかわかりませんが、3度目の正直となるのか、2度あることは3度あるのか? いずれにしろ、そろそろ初優勝すべきドライバーであるのは確かですから、これに腐らず気持ちを持ち直してまたメルセデスを慌てさせてほしいものです。
「44勝目を挙げるのにこんなにふさわしい場所はないだろう」 ルイス・ハミルトン
昨年のアメリカGP以来の勝利となるので実に9戦ぶりの優勝にして今季初優勝。そしてモナコでの勝利となると8年ぶりとなります。予選ではQ3で一瞬マシントラブルが発生し、またもやハミルトンはまともにレースが出来ないのか?と思われたのがウソのようです。
そして今年のリカルドの不機嫌な姿は昨年のハミルトンの姿に重なります。勝てるはずのレースをチームの作戦ミスで失ったという意味では、今年のリカルドと同じ経験をしました。ハミルトン自身、表彰台で久しぶりにはしゃいだ姿を見せながら、横で肩を落とす(肩を震わす?)リカルドに昨年の自分の経験を思い出していたかもしれません。
序盤のロズベルグとの攻防はチームオーダーという形で決着がつきました。ペースが上がらないロズベルグは、事前の取り決めとチームの指示に従ってハミルトンに道を譲ります。このあたり、チーム無線は聞こえてきませんでしたが、実際には激しいやり取りがあったのではないかと思います。
しかし既にリカルドに対し遅れすぎていたハミルトンは、一か八かで1回ストップ作戦を取ります。この賭けは基本的に勝ち目はなかったはずなのですが、この奇襲がレッドブルに焦りと混乱をもたらしたとすれば、むしろ見事な作戦勝ちといえるのかもしれません。
ロズベルグは何が悪かったのか、本当にグダグダでその後順位を下げ続け7位でフィニッシュしました。その結果2人のポイント差は一気に19ポイント縮まって24ポイントになりました。まだ1レースでひっくり返る可能性がある程度の差にすぎません。
「まだ望んでいる順位ではない」 フェルナンド・アロンソ
今回もQ3に進出して10番グリッドを獲得したアロンソは、雨で混乱したレースをうまく切り抜けて、ベッテルの後ろの5位でフィニッシュしました。モナコはパワーユニットの差が影響しにくくマクラーレン・ホンダにとっては良い成績が期待できるレースのひとつであり、実際にその通りになりました。
今回は信頼性の問題も出ず、ミスもなくほぼ完璧にこなしたレース。チームメイトのバトンも9位に入り、ダブル入賞はロシアGPに続いてすでに今年2度目です。ゆっくりではありますが確実に結果は出つつあります。
スピードという点ではアロンソは4位のベッテルに対して1分以上の差をつけられているので、まだまだ戦闘力があるという状態ではないのかもしれません。が、今は拾えるポイントを確実に拾っていくしかありません。
欲を言うなら、今回のペレスのポジションにアロンソはいるべきだったと思います。スピードがないならないなりに、作戦で表彰台を奪うくらいの運と狡賢さが欲しいところです。
次はカナダGP
次戦はまた2週間後、なぜかヨーロッパラウンドの途中に挟まったままのカナダGPです。北米連戦にそのうちまとめてしまうって話はないのか?と毎年思うのですが、一度固まってしまった開催サイクルは変更するのはやはり難しいのでしょう。あるいは気候の問題なのかも?
いずれにしてもモントリオールのコースは非パーマネントサーキットでありながらモナコとは正反対の超高速コースです。燃費に厳しいパワー勝負となればここはメルセデスPU勢の独壇場かもしれません。あと、最近元気がないフェラーリの巻き返しを期待したいところです。