春先のレースとしてすっかり定着した中国GPが上海インターナショナル・サーキットで開催されました。ティルケデザインの現代的なレイアウトはともかく、豪華なパドックとグランドスタンド、コース上に覆い被さるように造られたメディアセンターの建物は、中国経済の勢いを感じさせる豪華な施設です。F1自体ではあまり中国の存在感は感じられませんが、新興国レースの成功例としてしっかりとカレンダーの中でもその地位を固めつつあるようです。
上海のコースはヘアピンをはじめとする低速コーナーから中高速コーナー、そして長いバックストレートまで、あらゆる要素が詰め込まれたレイアウトが特徴ですが、それが逆に災いしているのか、単調なレースに陥りやすいように思います。今回も見事にチームの力の差が出て、上位集団ではバトルらしいバトルは見られませんでした。あくまでも表面上は…
「今日は少し苛立っている」 ニコ・ロズベルグ/メルセデス
今シーズンに入って、何をどうしてもハミルトンに勝つことができなくなってしまいました。昨年まで得意だった予選でも負けが続いています。スタートでも抜き去ることはできず、ロズベルグは今シーズンに入ってから、レースでハミルトンのテールしか見ていないのではないかと思われます。
さて「苛立っている」というコメントは、その状況が打破できず、ずっと2番手(前戦では3番手でしたがやはりハミルトンの後ろ)に甘んじている状況が、今回のレースでも変えられなかったことに対する意味があるのは事実かと思いますが、主には第2スティントで起きた事件に対するものと理解した方が正しそうです。
「事件」とは表面上何かがあったわけではなく、解説を聞かなければ非常にわかりづらいものでした。というのは、トップを走るハミルトンが、意図的にペースを落として後続とのギャップを調整したのではないか?という疑いがもたれているのです。いえ、ロズベルグにとってみればそれはほとんど事実と思い込んでいるのでしょう。
それで何が問題かと言えば、ロズベルグの後ろにはフェラーリのベッテルがヒタヒタと付いてきていた点にあります。つまり、前を押さえられたロズベルグはベッテルに対してのギャップを失い、ピットインのタイミングでは、ベッテルにあわやアンダーカットを許すことになり兼ねませんでした。
この問題を取り巻く状況はとても複雑です。ハミルトンのペースが落ちたと言っても、オーバーテイクを許すほどではありません。そしてタイヤ管理が厳しいこのコースでは、下手に前とのギャップを詰めると、タイヤの痛みが激しくなっていきます。そして、2番手につけているロズベルグにはピットインの優先権が本来はありません。ベッテルの仕掛けに対し、すぐに反応できないかもしれないのです。
前戦で優勝を許したのはベッテルだったといえども、基本的にメルセデスの強さは変わりなく、ハミルトンにとっての当面のライバルはロズベルグです。そんな諸々の状況証拠を揃えていくと、確かにハミルトンの陰謀説は成り立ちます。いずれにしろ、ロズベルグがそう疑いを持ってしまったことで、真偽はもはやどうでも良くなってしまいました。
さて、怒ったロズベルグは反撃に出ることができるでしょうか。いつか彼が前に立ったときに何が起こるのか、じっくりと見てみたいと思います。
「タイヤを管理していただけ」 ルイス・ハミルトン/メルセデス
本当にそうでしょうか? 結局はチームも公式にこの主張を取り上げ、ハミルトンのレースの戦略に何も問題はなかったとコメントしています。ロズベルグも月曜日以降は「過去のこと」として、それ以上の非難をしていません。まぁ、大人の決着と言ったところでしょう。
上海のコースで、そしてマレーシアでフェラーリにやられてしまったメルセデスにとって、タイヤの管理は重大な関心事だったのは間違いありません。綿密な計算がなされていたとしても、最後は実際にマシンをドライブしているドライバーにその仕事が任されるのも事実でしょう。
しかし、第2スティントの終盤、ハミルトンの遅いペースに苛立つロズベルグとともに、チームも困惑していたのは公開されていた無線からも明らかでした。そして実際に、ベッテルのアンダーカットをカバーするために、本来優先権を持つはずのハミルトンに代えて、ロズベルグを先にピットに入れたのは世界中が見ています。
これは本当に問題のない、チームとしても納得のいく戦略だったのでしょうか?
いや、そんなこと信じているF1ファン、関係者はいないと思います。あれはハミルトンの腹黒さが表れた瞬間だったと思います。しかしだからといって「ハミルトンはひどい!」と思ってるのはロズベルグとそのファンだけで、私も「えげつないなぁ」と思いつつも、ハミルトンがしたのなら「なるほどね」と納得してしまう面があります。レース後の不貞不貞しいシラの切り方も含めて。
ということで、3戦目で早くもきな臭い煙が立ちこめ始めたメルセデスの二人の間には、今シーズンも一触即発の状態が続きそうです。フェアプレーを望む一方で、こういった軋轢にはF1の醍醐味が隠されているのもまた事実です。端的に言って「楽しみ」であると、告白しておきましょう。
ホンダのテストは続く
ホンダは上海でも予選、決勝ともに結果は出ませんでした。しかし2台ともレースディスタンスを走りきり、途中レッドブルやフォースインディア、ロータスとバトルできたことは収穫でした。確かに前進はしているようです。そのスピードは期待するほどの速さではありませんが。次戦はまた熱との戦いになるのかもしれません。
その次戦は早くも今週末、中東のバーレーンGPです。