毎年ヨーロッパラウンドの間に紛れて開催されるカナダGPがモントリオールのジル・ヴィルヌーヴ・サーキットで行われました。時差の関係でなかなかライブで観戦することが難しく、レースから1週間たってようやく録画を見ることができました。今更ですがいつも通りの観戦記です。
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットはコンクリートウォールに囲まれた非パーマネントサーキットでありながら、モナコとは正反対の高速コースです。天候は穏やかなれども、毎年荒れたレースが展開されるのは、単にセーフティカーが入りやすいから、というだけの理由ではありません。シーズンも中盤戦に入り、だんだんとチャンピオンシップの行方が見えててくる頃であり、各チームのマシン開発も進んできます。北米大陸へのフライアウェイであることも重なって、レース戦略に変化が起き、どことなくそれまでの前半戦とはとは違った雰囲気が生み出され、それらが複雑に絡み合って荒れた展開を誘発しているように思います。
今年のカナダGPもその通りの展開となりました。
「最後にいろいろなことがあっという間に起きた」 ダニエル・リカルド/レッドブル
レースの見所は最後の10週”だけ”だったと言えるのでしょう。いや5週だけと言っても過言ではないかも。レース終盤には本当に色々なことが立て続けに起こりました。リカルドとしては予選もイマイチでレースも序盤戦は目立ったところのない、凡庸なレースを展開しているかのようでした。今回ばかりは少し復活してきたベッテルの後塵を完全に拝していたかのよう。しかし2回目のピットストップで、ペレスに引っかかってペースが落ちていたベッテルの前に出たことで事情が大きく動き出します。
実際今回の彼のレースは多くの偶然と幸運に助けられたという見方も出来ます。しかし本の一瞬しか訪れない幸運と偶然を得るチャンスを確実に掴んでいったのは実力に違いありません。ベッテルの前に出れたのは単なる幸運だったかもしれません。しかし一番のポイントはペレスのミスを見逃さず、短いメインストレートでのオーバーテイクに成功したことでしょう。DRSがあるとは言え、現時点でメルセデスPUに対し圧倒的に劣るルノーPUで短いストレートで前に出るには、少しの判断ミスも許されなかったはずです。
あとは時間の問題。MGU-Kを失ったメルセデスのロズベルグを抜きさり、とうとうラップリーダーに躍り出たのはチェッカーまでわずか数周を残すところ。リカルドの初優勝は、レース中盤まで誰も予測していなかった中で、あれよあれよという間に訪れました。久々の初優勝シーンはやはりいいものです。
当たり前のことですが、すべてのチャンピオンには初優勝があったわけで、今回のこのレースもリカルドのキャリアにとって大きな意味を持ってくるかも知れません。もしかしたらそれは、今後数年のF1の勢力図を決めるターニングポイントになるのかも。
「初優勝はとても特別だ」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル
ベッテルの初優勝シーンは今でも忘れられません。私はあの瞬間から彼のファンになったようなものです。彼の快進撃はそこから始まりました。チャンピオンまで到達できるドライバーはごくわずかですが、その挑戦権は初優勝して初めて手に入るわけで、リカルドにもその入り口は開かれたことは間違いないでしょう。
ベッテルにとっては手強いライバルが増えたことになります。特にチームメイトというのは過去の例、そして今シーズンのメルセデスを見ても、一番大きな存在になり得ます。絶不調のシーズン前半を過ごし、今回のレースではベッテル自身にも優勝が見えたレースだったはず。もし、ピット戦略が少し違っていたなら、そしてもしペレスの真後ろに付いていたのがリカルドでなくて自分だったなら、と考えたはず。
本心はともかく、カメラに映ったレース後のベッテルは、本当に心の底から自分の表彰台を、そしてリカルドの初優勝を喜んでいるようでした。そこがまたベッテルらしいところでもあります。今後はメルセデスのように、リカルドとの間に少し緊張関係が生まれるくらいになって欲しいものです。
「いろいろなことが起きた」 ニコ・ロズベルグ/メルセデス
大方の予想に反してポールポジションを奪ったロズベルグでしたが、今回はこれまでとは違って本当にレースで苦労している様子が見て取れました。まずはスタート。出遅れてほとんどハミルトンに行かれてしまったkのように見えたところで、強引にポジションを奪い返します。その後もハミルトンに突かれて、ホイールをロックさせたり、シケインをショートカットしたりドタバタした感じが伝わってきました。
そして突然のパワーダウン。幸か不幸かメルセデスの2台にはMGU-Kのトラブルがほとんど同時に発生します。高度な技術で作られ、綿密に管理されている現代F1マシンとは言え、過去の履歴も異なり、ドライビングスタイルが違うドライバーが運転する中で、同じところが完全に同期して壊れるというのも、なんだか逆に不思議な気がします。
MGU-Kを失ったことに連動したものかも知れませんが、その後ハミルトンはさらにリアブレキーが壊れリタイアしますが、その同じトラブルはロズベルグにも襲いかかります。ただし、何とか彼は持ちこたえマシンをチェッカーまで運びきります。幸いだったのは1ストップ作戦を敢行し、しかもストレートスピードが尋常じゃなく速いフォースインディアがレッドブルとウィリアムズを抑えていてくれたこと。
レース序盤の貯金が効いて、満身創痍のマシンでレースの残り半分を走りきり、リカルドに前に出られただけで2位で終わることが出来ました。メルセデスは今シーズン始めて優勝から陥落し、レース中のラップリーダーの地位も失いましたが、それでもロズベルグ的には満足でしょう。ライバルは依然としてハミルトン一人だけ。相手がノーポイントのところで18点も稼げたのですから。もしかしたら今シーズンのターニングポイントになったのかも知れません。
「次戦オーストリアに向けて、再び戦う準備をします」 小林可夢偉/ケータハム
もはやマルシアにも置いていかれ、一人負けの状態になってきたケータハム。チームの周辺には色々とイヤな噂が流れています。これではもうマシン開発処ではないのではないかと心配します。それどころか今回はマシンの基本的な信頼性にも問題が出ました。コーナリング中に突然リアサスが壊れてしまうという前代未聞のマシントラブル。これではドライバーがどんなに頑張ってもレースは出来ません。
よもや日本GPまで生き残れないなんてことは無いと思いたいのですが、その辺何があるか分からないのがF1です。最近のレースでは可夢偉はFP1にマシンに乗れない状態にあるようですし、色々心配です。
次戦は再びヨーロッパに戻って、久しぶりのオーストリアでのレースです。本当の意味でレッドブルのホームグランプリです。