予想したほどの波乱は無かった:F1 2014開幕戦 オーストラリアGP

投稿者: | 2014年3月17日

 今年もF1が開幕しました。”エンジン”改め”パワーユニット”はじめ多くのレギュレーション変更があり、昨年とはまるで別物のマシンになってしまいました。醜いノーズデザインは見た目に象徴的ですが、レギュレーション変更の一番の肝はやはり”パワーユニット”です。最大15,000rpmに制限された1.6リットルのV6ターボエンジンに、ブレーキ回生と排気回生をエネルギー源とした120KWのモーターから構成されています。燃料の総量や流量規制も、1シーズンに使えるエンジン数制限も厳しくなり、ますますF1の耐久レース化が進みそう。

 開幕戦オーストラリアGP予選のTV中継で、初めて今年のF1マシンが走る姿を見ましたが、衝撃を受けたのはその音です。ツーリングカーのような野太くて低いエンジン音に、キーンと高周波音を出すモーター音。V8はおろかV10やV12が奏でるエンジン音は遠い過去の夢となったことを実感します。TVで聞いてもこうなのだから、サーキットの現地で聞く音はどんなものなのでしょうか? コースサイドにいても耳栓が要らないレベルだそうですが…。

「ブレーキが壊れたマシンをどうやって止めろって言うんだ?」 小林可夢偉/ケータハム

 2年ぶりにF1に復帰した小林可夢偉は日本人ファンとしては大注目です。昨年集めた募金を使って獲得したシートは、昨年最下位のケータハム。しかもパワーユニットはルノーとあって、テストも満足にできなければ金曜日のフリー走行も1周も走れずじまい。ぶっつけ本番の予選とレースとなりました。天候も味方して望外に手に入れた14番グリッドでしたが、スタートでは素晴らしい飛び出しを見せ、上位陣をごぼう抜き。一気にポイント圏内へ… と思われた矢先の派手なクラッシュでした。

 タイヤスモークを上げ、ウィリアムズのマッサを巻き込みながら1コーナーを飛び出していく様子は、良くある1コーナーのごたごたのようでもありました。一時は自分のミスというコメントを発表した小林でしたが、その後FIAとチームによる調査の結果、リアブレーキが全く効いていなかったことが判明。完全なマシントラブルとして、次戦のペナルティは避けられました。激怒していたマッサがその後このニュースを聞いてどう思ってるか分かりませんが、チームの評価もとりあえずは保留でしょう。

 しかし、ケータハムにとっては今回何よりも周回を重ねてデータを集めることが重要だったはず。チームメイトのエリクソンも30周でリタイア。チームとしてはセットアップを詰めるよりも、まずは信頼性を何とかしないといけない段階です。他のチームが信頼性に苦しみ、波乱の展開となる序盤戦こそポイント獲得のチャンスなのですが、前途はまだ多難のようです。

「チームは冬の間に本当に努力してかなり遅れを取り戻した」 ダニエル・リカルド/レッドブル

 ルノーユーザーの筆頭として、酷いテストシーズンを過ごし、絶望的な状態で臨んだチャンピオンチーム、レッドブル。フリー走行はまぁまぁでしたが、ベッテルはマシンのドライバビリティに相当不満があるらしく、全く精彩を欠く一方で、レッドブル育成ドライバーとしてトロロッソから抜擢されたダニエル・リカルドは素晴らしい走りを見せました。まさにレース距離を走りきったことがないマシンが、トラブル無く走り切れたのは運が良かっただけかも知れません。しかしその結果が2位表彰台となれば話は別です。スピードとマシンマネージメント、タイヤの使い方も含め、まるでベッテルがなすべき役目を完全に奪ったようなものです。

 しかし… その素晴らしい結果に水を差したのは、FIAとレッドブルチームの燃料流量センサーに対する意見対立でした。FIAは自分たちのセンサーのデータから、燃料流量が規定をオーバーしているとして、リカルドの結果をレースから除外してしまった一方、レッドブルチームはFIAのセンサーは信頼性がなく役に立たないため、自前のセンサーを使い流量はちゃんと規定以内にあることを証明できる、と全面対決の構えです。しかもレース後に降って沸いた話ではなく、土曜日の段階から既に問題は持ち上がっていたというのだから、これは根が深そうな対立かもしれません。

 いずれにしても、今年の大幅なレギュレーション変更の最初の犠牲者の一人となってしまったリカルドが可哀想です。トップチームに大抜擢されて初のレース、せっかくの母国レース、せっかくの過去最高順位だったのに。

「F1キャリアで最初のレースで表彰台に立つなんてすごい」 ケビン・マグヌッセン/マクラーレン

 ルノー勢が苦しむ一方で調子良いのがメルセデスの派環ユニットを積むチームです。ワークスのメルセデス・チームからはハミルトンがポールを取り、ロズベルグがレースで優勝してその強さを見せつけています。そして昨年がボロボロだったマクラーレンも、メルセデスのおかげというわけではないでしょうが、テストから復活の兆しが見られていました。

 今年からそのマクラーレンに乗っているケビン・マグヌッセンは、その昔スチュワート・グランプリ(現在のレッドブルの前身の前身となったチーム)に乗っていたヤン・マグヌッセンの息子だそうです。GP3からGP2を飛び越えてF1への大抜擢。しかも名門マクラーレンです。どれほどの実力かと思えば、百戦錬磨のバトンを差し置いて、いきなり最初のレースで3位(その後2位に繰り上げ)に入ってしまうのだから驚きです。

 今後のレースでも着実にポイントを上げていけば、そのまま彼はホンダのパワーユニットを搭載したマシンに乗ることになるのでしょうか? 今シーズンから来シーズンにかけて、要注目の一人です。

 完走台数が10台以下になるとか、もしかしたら全車止まるかもとか、そうなると思いもしなかったチーム、ドライバーが大量得点するかもとかとか、いろいろな波乱が予想された開幕戦でしたが、順当にメルセデスとマクラーレンが強さを見せ、完走台数も14台とそれほど酷いことにはなりませんでした。
 予想外だったと言えば、フェラーリが昨年と同じくらいパッとしないこと、それも含めチャンピオン経験者が皆グズグズになって、新人若手が上位を独占したことなどが挙げられるでしょう。特にベッテルはマシンというか、新しいパワーユニットとは全く相性が悪いらしく、どうにもならない状況です。連勝記録も途絶えてしまいました。5年連続チャンピオンに向けた開幕としては最悪のスタートでしょう。まぁ、仮にそこそこの成績を上げていても、今回のレッドブルは失格になったわけで、結果は同じだったのかも知れません。

 次戦は2週間後、気温が高く最も過酷な環境下でのレースとなる、マレーシアGPです。今年のマシンは冷却が一番の問題と言われています。もしかしたら開幕戦で想定していたような波乱は、次にやってくるのかも?

 

カテゴリー: F1