この年末はFUJIFILMのXシリーズを試用する機会に恵まれていますが、今回触ってみたのはX-S1です。これは新製品ではなく、発売されたのはほぼ1年前のこと。先日のX-E2のセミナーでも「実はXシリーズの静かなるベストセラー」とFUJIFILMの方が仰っていました。その特徴は光学26倍ズームです。センサーはX10などと同じ2/3インチのEXR CMOSセンサーで約1200万画素。EVFを搭載した一眼レフ風の外観を持っています。
このクラスのカメラは各社ラインアップしていて、根強い人気があるようです。私にとってはこの手の高倍率ズーム一体型カメラを使ってみるのは実は初めてだったりします。なお、このカメラはいつものみんぽすさんからお借りしたモニター機ではなく、友人から借りてきました。
外観と仕様
まずは外観を眺め主なスペックをチェックしてみましょう。
ペンタ部の出っ張りも立派でグリップ側には、モードダイヤルとコマンドダイヤルを備えるなど、その外観はレンズの大きさ共にまさに一眼レフ並みです。特に重さは専用電池込みで945gもあります。26倍ズームが付いているとは言え、エントリークラスのAPS-C一眼レフに標準ズームをつけた状態と比べると、もしかしたらこのX-S1のほうが重たいと思われます。
ただしグリップも深いですし、レンズが大きいので右手で支えられ、しかもEVFが付いているので両手と頭でしっかりとホールディングすることは出来ます。その辺の使用感はまるで一眼レフ並み。問題は肩からぶら下げたりして使ってないときの重さです。写真撮影がメインではない旅行(多くの人のほとんどの場合はそうだと思いますが)では気軽に持ち出す… のはちょっと躊躇するかも。
しかしその重さも仕方ありません。何しろ光学26倍ズームを搭載しているのですから。フルサイズ換算で24〜624mm相当となり、ワイド端もテレ端も十分以上。およそこれで撮れないシーンはないはずです。開放F値もワイド端でF2.8、テレ端でF5.6と、これもまた十分すぎる明るさがあります。ズームは電動ではなく手動式。この方が微調整が効くしとっさのときでも使いやすいです。
テレ側では恐らく意味がないと思われますが、ちゃんとした花形フードも付いています。ますます一眼レフ風味が増してきます。
背面はこんな感じ。液晶は3インチのチルト式。操作系はボタン配置やメニュー構成など含め、Xシリーズのそれを踏襲しています。AFやAEなどの主要なボタン類が液晶の左側に並んでいますが、液晶をチルトするとますます押しにくくなり、あまり相性が良くないと思われます。
EVFは144万画素の液晶式。まぁ普通のEVFです。ただ、光軸上に接眼窓があるというのは、私のような一眼レフ大好き人間にとっては、意外なくらいに心安まります。
また些細なことですが、SDカードスロットがグリップ側面にあるのも良いですね。Xマウント機では電池室の横にあったりするのが興ざめだったりしますので(実使用上には何の問題もありませんが)。
EVFにしてもちょっと大げさすぎやしないか?と思えるペンタ部にはもちろんフラッシュが収まっています。ロゴは”FUJIFILM”と彫り込まれています。Sシリーズ始めペンタ部をもつFUJIFILM製の以前の機種では”FinePix”と書かれていたものですが、XシリーズはもはやFinePixではありません。
26倍ズームを体験する
さて、いよいよ写真を撮ってみましょう。まずはベタにズーム効果を確認してみます。撮影モードはEXRオートに設定し、撮影パラメータは全てカメラにお任せです。ただし、私のいつもの癖でアスペクト比を3:2に設定してしまいましたので、画角は4:3で撮るよりも少し狭くなっています。
FUJIFILM X-S1, EXR Auto, 1/500sec, F5.6, ISO100, DR:100, AWB, 6.1mm
まずはワイド端、24mm相当です。かなり広々と写すことが出来ます。
FUJIFILM X-S1, EXR Auto, 1/500sec, F6.4, ISO100, DR:100, AWB, 24.8mm
次に少しズームして約4倍に。ファインダー内にはワイド単に対するズーム倍率で表示されますが、これで約96mm相当です。普通のコンパクトカメラや一眼レフのキットズームだと、この辺がテレ端という場合も多いかと思います。しかしX-S1にとってはまだまだ序の口。
FUJIFILM X-S1, EXR Auto, 1/400sec, F7.1, ISO100, DR:100, AWB, 93.9mm
さらにズームして約15倍。約360mm相当。もう立派な超望遠域です。APS-Cサイズの一眼レフでも300mmクラスをカバーする望遠ズームの領域に入ってきます。でも、最近は小型のコンパクト機でもこのくらいはカバーしている機種がゴロゴロあります。
FUJIFILM X-S1, EXR Auto, 1/400sec, F7.1, ISO100, DR:100, AWB, 158.6mm
そしてこれがテレ端の26倍状態。フルサイズ換算で624mm相当です。APS-Cの一眼レフなら400mmを超えるレンズが必要な領域です。これがおまけとは思えないレベルでしっかり写ります。解像感に至っては空気の揺らぎの方がネックになってしまいます。
2/3インチという、レンズ交換式のカメラに比べれば小さなセンサーですが、この手の高倍率ズーム機は1/2.3インチセンサーがほとんどなことを考えると、このカメラは写りにはかなり余裕が感じられます。強力な手ぶれ補正も入っていて、ここまで簡単に撮れてしまうことを考えると、900g程度の重さは「軽い」と言わないといけないのかもしれません。
さらに超解像ズームしてみる
コンパクトカメラ(と言っていいのかどうか分かりませんが^^;)の嗜みとして、デジタルズームも搭載してます。超解像アルゴリズムによる、1.4倍または2倍のデジタルズームが可能です。デフォルトではモードダイヤル脇のFnボタンを押すと超解像ズームになります。
この領域の望遠になると月以外にパッと思いつく被写体がありません。こういう場合に適した被写体なのかどうか自信がありませんが。もしかしたらスカイツリーの方が良かったかな?
なお、月を撮るにはEXR Autoは向いていません。露出補正も測光モードも変更できず、月の明るさに露出を合わせられないのです。それは”EXR”がつかない普通のAutoモード(このモード、EXR Autoがあれば要らないと思うのですが…)も同じなので通常のPモードに設定します。露出補正ではなく測光モードをスポットにしてみました。
FUJIFILM X-S1, P Auto, 1/320sec, F7.1, ISO200, DR:200, AWB, STD, 158.6mm
まずは光学ズームのテレ端。デジタルズーム無しです。これでも月の表面の模様は十分に分かります。
FUJIFILM X-S1, P Auto, 1/350sec, F7.1, ISO200, DR:200, AWB, STD, 158.6mm x1.4
次に超解像ズーム1.4倍をONしました。合計で約34倍です。画角で言えば800mm相当。凄いですね、解像感も思ったよりあります。これなら十分に使えそう。
FUJIFILM X-S1, P Auto, 1/400sec, F7.1, ISO200, DR:200, AWB, STD, 158.6mm x2
そして超解像ズーム2倍です。光学ズームと合わせて約52倍、1250mm相当。PENTAX Qにマウントアダプターをつけてやっと実現できる世界。しかもこちらはAFも効くし気軽にシャッターが押せます。さすがにEVFを見ていても手ぶれが感じられますが、フレームに月を収めておくのが大変と言うほどではありません。拡大すると色々とアラが見えてきますが、普通に見ている分にはこれまたお見事としかい言いようがありません。
この超望遠域は、一眼レフ始めレンズ交換式のカメラで本気で揃えようとすると、尋常ではないサイズとコスト、重量となってしまいそうですし、レンズ交換するという手間もかかります。もちろん画質とかボケとか、そういう点ではかなり妥協することになりますが、それでもこの超望遠がこんなに手軽に使えてしまうと言うことに、ちょっと衝撃を受けました。なるほど、このクラスのカメラが根強い人気がある理由が分かった気がします。一度これを体験し、その恩恵にあずかると他には替えが効かないわけです。その一方でこんな望遠使わない、という場合にはただの大きくて重たいだけのカメラになってしまいます。そこのあたりがこの手のカメラをどう評価するかの分かれ目になるのでしょう。
そんななかでもX-S1はかなり気合いを入れて作られている一台です。その分、ライバルと比べるとズーム倍率のわりにややお値段が張るのかもしれませんが、2/3インチEXR CMOSという他にはない特徴があるわけで、その画質は折り紙付きです。他機種との比較は出来ませんが、その辺、この高倍率ズームが通常のシーンでどれだけ役に立つのか、色々撮ってみたいと思います。