意欲的だけと矛盾を抱えたレンズスタイルカメラ

投稿者: | 2013年10月26日

 あまりに斬新なコンセプトとデザインに、製品発表時はカメラ好きな人々の間で話題騒然となった「レンズだけカメラ」こと、レンズスタイルカメラがようやく発売されました。当初「へぇ、なるほどね。こいうのアリなのね」という感想は持ったものの、個人的には特に興味が沸かない製品だったのですが、ちょっとした縁で試用してみる機会に恵まれました。

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 金曜日に発売されたばかりで、触ってみたのはまだ少しだけなので、ファーストインプレッションに過ぎませんが、やはり話題の製品ですので簡単にレビューというか感想をまとめておきたいと思います。続編は多分ありません(^^;

 ソニー製品と言うこともあって、最初から肌が合わないだろうとは予想していたのですが、使ってみた印象を先に言ってしまうと「アイディア負けの自己矛盾カメラ」です。あくまでも私の個人的な好みや主観に基づくもので、以下基本的にネガティブな論調で進みますのでご了承ください。

 レンズスタイルカメラは、10倍ズーム搭載のQX10と、ツァイスレンズに1インチセンサーを搭載したQX100の2機種がありますが、私が触ってみたのはQX10のほうです。

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 パッケージもなかなか個性的です。50枚入りのDVD-Rのケースみたい。

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 本体です。まさに「レンズだけ」と言った姿をしてます。しかしこの中にちゃんとセンサーはもちろん、画像エンジンなど一通りのカメラに必要な機能が含まれています。センサーは1/2.3インチ、18Mピクセルの裏面照射CMOS。レンズは25-250mm相当の10倍ズーム、明るさはF3.3-5.9とごく平凡なスペック、ただしちゃんと光学手ぶれ補正が内蔵されています。外装色はホワイトとブラックの2種類があります。

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 ノーファインダーと割り切れば、本体だけでも写真は撮れますが、基本はスマートフォンと組み合わせて使うことになります。スマートフォンに固定するためのアタッチメントが同梱されています。本体との固定はバヨネット式。最初は戸惑いましたが、すぐに慣れます。

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 iPhone5sにくっつけてみました。スマートフォンへの固定は、アタッチメントのレバーで上下から挟み込みます。レバーのバネの強さは強すぎず、弱すぎず絶妙な設定。意外にしっかりと固定できます。レバーの内側はちゃんとゴムが貼られていて、スマートフォン本体へ傷を付けないようになっています。

 iPhoneはスマートフォンの中ではわりと小さい(特に短辺方向)こともあって、こうなるとカメラ部分はかなり大げさに見えます。QX100だとどんな姿になってしまうのやら。

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 さて、普通のカメラとの大きさ比較です。比較対象は高倍率ズームを積んだコンパクトカメラ、FUJIFILMのFinepix F600EXRです。少し古い機種ですが、1/2インチCMOSセンサーに、特に明るくもない15倍ズームを搭載しています。iPhoneの大きさはともかく、全体的にはF600EXRのほうがコンパクトに感じます。

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 背面から見るとこんな感じ。ライブビュー画面の大きさは組み合わせるスマートフォン次第。決して大きい方ではないiPhone5sでも、普通のカメラと比べると液晶画面の大きさは際立ちます。操作系はもちろんすべてタッチ式。

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 次に一応、PENTAX Q7と並べてみました。ボリューム感は大体同じくらいかも。しかし機能というかスペックというか、向いてる方向が違いすぎて何ともコメントのしようがありません。

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 さて、実際に使ってみた感想です。

 iPhoneで使用する場合には、まずQX10の電源を入れ、iPhoneからWiFi接続します。もともとWiFi接続がない状態なら、しばらく待っていれば自動でつながります。しかしスマートフォン側が他のWiFiをつかんでいる場合は、設定から手動でつなぎ直さなくてはなりません。WiFiがつながったら専用アプリ「Play Memories」(←機能が想像しにくい名前ですね)を起動します。さらにしばらく待つとカメラとアプリの接続が確立し、ライブビュー画像が現れて、操作と撮影が可能になります。またいずれかの時点で、スマートフォン本体に固定する作業もどこかで必要になります。ただし、Androidのスマートフォン、特にNFCを搭載した機種であれば、これらの手順はだいぶ自動化されるようです。

 デフォルト設定では、スマートフォン側へ転送される画像ファイルは2Mピクセルに縮小されたものになり、オリジナルのファイルはカメラ側のメモリーカードに記録されます。そのオリジナル画像を取り出すにには、アプリで設定を変更してスマートフォンへ取り込む(撮影後の転送中は他の操作はできなくなる)か、従来通りUSBケーブルやカードリーダーなどでPCへコピーする必要があります。WiFiでPCへ転送可能かどうかは調べていません。

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 専用アプリPlay Memoriesの操作画面のキャプチャはこんな感じです。縦位置にすればUIも縦位置モードに切り替わります。機能は非常にシンプルで、動画か静止画の選択に、オートモードが3つ選べ、通常のプログラムオートの場合は、露出補正とホワイトバランスなどごく一部の撮影パラメータがいじれるだけ。ISO感度の設定もできません。画像サイズはフルの18Mか2Mかの2択、アスペクト比も4:3か16:9の2択。JPEGの圧縮比の設定はなく、画質調整やフィルター機能などもありません。AFはタッチ式、シャッターも画面上のボタンか、本体側面のボタンでレリーズされます。

 特に再生モードはなく、撮影後に画像の再生や選択、削除をするにはiPhoneであればカメラロールを使えと言うことのようです。また、画像加工などについても同じで他のアプリで行う必要があります。SNSなどネットへの投稿は、撮影直後のポストビュー中には「共有」ボタンが表示されますが、それ以降、撮影後にやりたい場合はまた別アプリでやることになります。撮ることだけに特化したアプリで、後は自由にしてねと言うことなのでしょう。

 ライブビュー画面の遅れや、フレームレート、あるいは解像度の荒さなどは気になりませんでした。この点は想像していたよりもずっと良く出来ています。

 さて、以下にいくつかQX10+iPhone5sで撮った写真を貼っておきます。
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SONY QX10, 1/200, F5.9, ISO800, -0.7EV, AWB

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SONY QX10, 1/30, F3.3, ISO500, AWB

IMG_4170.jpg
SONY QX10, 1/500, F3.5, ISO100, AWB

IMG_4210
SONY QX10, 1/60, F4, ISO100, AWB

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SONY QX10, 1/1250, F3.3, ISO100, AWB

 撮れた画像については特に可もなく不可もなく、このスペックのカメラとしてはごくごく普通と思います。手ぶれ補正は入っているのですが、望遠側でフレーミングするのはやや大変です。ブレる上にわずかな表示のディレイがあるので。また、ホールディングもどうしたら良いのかよく分かりません。スマートフォンは薄い上に、液晶の額縁が小さいため、やはりレンズカメラ側を主に保持することになるかと思います。

 ちなみにレンズカメラをスマートフォンに固定せず、片手にカメラ、もう片手にスマートフォン、みたいな使い方も出来るよ!とされていますが、現実にそれをやると気持ち悪くなってきます。まずスマートフォンを片手で操作することは出来ないので、スマートフォンはファインダに徹してもらい、AFやズームやシャッターは本体でやることになります。そうすると自ずと持ち方に制限が出てくるのです。どんな持ち方、アングルでも自由自在とはなりません。また、視線と光軸が一致していないとフレーミングも定まらず、悪いことにこのカメラの場合は水平を取るのも一苦労となります。フレーミングをかえるために思わずスマホ側を動かしてしまった、なんてことはしょっちゅう起こります。

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 ということで、細かいことを言い始めたらきりがないのですが、スマートフォンとデジタルカメラの融合を目指し、両方の良いとこ取りをしようとしたコンセプトは素晴らしいと思うのですが、こうしてできあがった製品は、結局どちらの「良いところ」も取り切れなかった、という残念感が拭いきれません。どんなに控えめに言っても、iPhoneで使う限りにおいて実用性もメリットも極めて低い、と私は思います。

 特別小さくもないし、起動手順はきわめて煩雑で面倒。一方で撮影機能はシンプルすぎ。撮れた画像の質はそれなりですが、撮影画像の取り扱いは、ユーザーと他のアプリに丸投げ。だったらスマートフォン内蔵カメラを使った方が、よほど写真の楽しみは広いと思いますし、スマートフォンとの連携という面でも今時のWiFi入りカメラのほうが筋が通っていると思えてきます。
 別の言い方をすれば、このQX10が持つ機能はそのままに、液晶パネルをつけて普通のコンパクトカメラに仕立て上げれば、素晴らしいスマートフォン連携機能入りカメラになるのではないかと思えてきます。

 ということで、カメラに関しては頭が固くて古くさい考えしか持たない私には、とうてい使いこなせない製品であることは確認できました。製品発表のニュースを見たときの印象は間違っていなかったようです。でも、こんなことが出来るんだよ、という斬新な考え方を、現実の製品にしてしまったことについては、素直に感心してしまいます。こうやって様々なアイディアを形にしていくことで、世の中はどんどん便利になっていくのでしょうから。