タイヤ問題に揺れたイギリスGPからわずか一週間後。いえ、正確にはイギリスGPでタイヤバーストが表面化したのは決勝日でしたので、事実上ドイツGPのセッションが始まるまでは5日しかありませんでした。
何がどうなってそうなったのかは分かりませんが、ドイツGPではカナダでテストされ、その後一部チームの反対に遭ってお蔵入りとなりかけていた、新構造タイヤが使用されることとなりました。しかしこれは暫定対策に過ぎず、ハンガリーGPからは全く新設計となる新しいタイヤが導入されるそうです。
そんなドタバタの中始まったドイツGP。いつの頃からかドイツGPはホッケンハイムとニュルブルクリンクの間で隔年開催となっています。今年はニュルブルクリンクの年。幸いここはシルバーストーンほどタイヤには厳しくないコースだそうです。もし途中で深刻なタイヤトラブルが発生するようなことがあれば、レースの即時中止をドライバーたちが求める中で行われましたが、無事に(コース上では)タイヤに何事もなくすべてのセッションとレースが終了しました。
「これまでで一番厳しいレースのひとつだった」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル
スタートでハミルトンを抜き去り、いきなりトップに立ったベッテル。いつもならここからギャップを広げ始め独走態勢を築くところです。1回目のタイヤ交換まではそこそこうまく作戦が機能しているように見えましたが、ウェバーが消え、ハミルトンがズルズルとポジションを下げたところへ、セーフティカーが導入され、真後ろにロータスの2台がぴたりと付けてきたあたりから雲行きが怪しくなります。
最初はいつの間にか2位まで上がってきたグロージャンに追い回され、そしてレース終盤にはオプションタイヤで賭に出たライコネンに見る見るうちに追いつかれます。それは、たびたび圧倒的な勝利を収めるドライバーがやるように、最後はチェッカーを見据えてクルージングに入り、余力を蓄えたままギャップをコントロールしているのではなく、必死に走った上での結果でした。その証拠にベッテルはたびたびグロージャンやライコネンにDRS圏外に入られてしまいます。幸いロータスはストレートが伸びず横に並ばれることもありませんでした。
なので見た目上は必勝パターンでトップを快走したレースかのようになりましたが、実際には彼のコメントにあるとおり、最後まで戦い抜いてギリギリ優勝を奪い取った厳しいレースだったと言えるのでしょう。
勝てたはずのレースでマシントラブルに見舞われ、久しぶりに0ポイントで終わってしまった前戦から、最大限のリカバリーをしてポイントランキングのトップを再び盤石なものにしつつあります。ついでに言えば今回が初めての地元GP優勝ということで、ベッテル自身にとっても地元ファンにとっても喜びもひとしおでしょう。
「高い温度が僕らに有利になった」 キミ・ライコネン/ロータス
予選では4位という最近にはない良いポジションからスタート。レースでもメルセデスとのバトルを制し、最後までベッテルにアタックをかけ続けるといったアグレッシブなレースでした。タイヤに優しいロータスのマシン特性をただピット回数を削るためだけに使うのではなく、ライバルたちがタイヤセーブをする中で果敢にプッシュをかけ、テレビ解説者が「あり得ない」と評したほどの変則的なタイヤ戦略をとるなどして攻め続けた末の結果です。
今回のレースではライコネンだけでなくグロージャンも速さを見せて優勝争いに加わり、最終的に表彰台に乗ったわけで、シーズン序盤の勢いを失いかけていたロータスは、この夏の暑さを味方に付けて優勝争いに戻ってきたようです。しかしあともう一歩、何かが足りません。予選のスピードなのか、ストレートのスピードなのか?
作戦面では、前戦でピット戦略をみすみす失敗した迂闊さを見せたチームとは思えないものでした。レース終盤にグロージャンにアンダーカットのそぶりをさせておいて、ライコネンがステイアウトするという場面がどうしても思い出されます。ベッテルはグロージャンをカバーするしかありません。ライコネンは本当にあのまま走りきれなかったのでしょうか? いずれにしてもこのロータスの素晴らしい奇襲作戦は、優勝までは届きませんでしたが、レッドブルを翻弄し、ベッテルをして「厳しいレースだった」と言わしめ、見ている我々F1ファンも大いに楽しませてくれました。
チャンピオンシップではまだ最後の望みをつないでいると言えるのでしょう。まだシーズンは折り返し地点にきたばかり。後半戦での大逆転劇は珍しいことではなりません。そう、2007年のように。
「僕らはよいマシンを持っているが何らかの理由でこのような暑いコンディションでは機能しない」 ルイス・ハミルトン/メルセデス
もはやポールポジションの常連となったメルセデス。ハミルトンは今回の予選でもまんまとレッドブルを出し抜き、2戦連続のポールを奪い取ります。タイヤゲート事件に揺れたメルセデスは、なんだかんだでレースペースを改善してしまったと思われていましたが、今回の暑いコンディション下のレースでは、まるで序盤に戻ったかのように、ずるずるとポジションを下げていくだけの、何とも情けない状況に追い込まれてしまいました。
路面温度が上がるととたんにペースが悪くなるメルセデスの状況は、逆に暑くなると強さを発揮するロータスとちょうど表と裏、鏡あわせの関係にあるかのようです。そしてその中間を行くのがレッドブルと言うことでしょうか。
いずれにしろ、前戦はタイヤトラブルでレースを失い、今回は暑さにやられてしまったハミルトンは、今シーズンこれまで一番の不運のドライバーと言えると思います。チームメイトのロズベルグはそんな中で2勝を挙げているというのに。
結果は結果として、それでもハミルトンがロズベルグにドライバーとして劣っているわけではない、いやむしろ上手いのではないかという思いは、私が小林可夢偉ファンで、いまだに彼のいない今シーズンのF1に不満を持っているから感じることなのでしょうか?
「難しいレースだった」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ
ロータス以外のドライバーは皆口をそろえて「難しいレースだった」と言ってるようです。中でもアロンソは確かにパッとしませんでした。その多くはプライムタイヤでスタートするという戦略にあったのかもしれません。オプションタイヤに自信が持てなかったことは、結局最後まで影響したと言うことなのでしょう。予選はダメでもレースではもりもり盛り返す、という最近のアロンソのパターンは不発に終わってしまいました。
そういう意味ではフェラーリは今、マクラーレンのように致命的に悪いところもない代わりに、どこにも良いところがなくて、マシン開発という点では迷走状態にあるのかもしれません。
それでも依然として私は、アロンソは今年のチャンピオン候補の1番手だと思っています。
次のレースは少し間が空いて再来週、ハンガリーGPです。その間F1はシルバーストーンに戻り、若手ドライバーのテストが行われますが、今回はタイヤ問題があったためにレギュラードライバーの走行も認められ、よりマシン開発、タイヤテスト的意味合いを持つことになりました。その成果次第でハンガロリンクでは勢力図ががらりと変わっているかもしれません。