2013年F1第3戦 中国GP

投稿者: | 2013年4月16日

 もやもやの残る前回のレースから3週間のインターバルを置いて、第3戦の中国GPが上海インターナショナル・サーキットで開催されました。中国GPは今年で10回目だそうです。まだまだ新興国の新しいレースだと思っていましたが、もはやそれなりに歴史と経験を積み重ねてきたようで、テレビの画面で見ていても会場の雰囲気は悪くなさそうでした。
 このコースは最初のセクションにある延々と続く右回りのコーナーや、長い長い裏ストレートとその終端にあるヘアピンコーナーなど、なかなか特徴的なデザイン。ティルケ作品の中でも一番の出来ではないかと思います。しかしドライではタイヤに厳しいことでも有名で、実際に今回のレースもタイヤを中心にすべてが動いていたようです。
 予選の一発に対するプライムとオプションのタイム差は2秒近くある割に、ソフト側のオプションタイヤはレースでは8周も走れば2秒タイムが落ちるとされ、Q3に残ったチームは大きなジレンマに陥ります。ある意味レースはQ3から始まっていたわけで、戦略は二つに割れました。

 フェラーリやメルセデス、ロータスなどが順当にQ3でアタックをかけて上位グリッドを狙いに行く一方で、裏の作戦をとったのはベッテルとバトン。グリッド位置を捨ててプライムタイヤでのスタート権を得る作戦に出ました。

「僕らは幸運に恵まれたのだろう」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 実際そうなんでしょうけど、そうは見えないところがこの人の凄いところです。Q3ではギリギリまで我慢して結局新品のソフトタイヤでアタック。3番グリッドという中途半端な位置になってしまいました。しかし勝負はほぼ第一スティントで決したようです。スタートでライコネンが出遅れたことに加え、トップを行くハミルトンのメルセデスのほうが先にタイヤの寿命を迎えたことで、早い段階でトップを奪うことに成功しました。これらは幸運だったといえば確かにそうなのかもしれません。
 しかし常にそういうチャンスを確実に拾える力と、その後の危なげない作戦遂行力はさすがで、ひとたび先頭に出てしまったアロンソは、もはや誰にもとらえられる気配がありませんでした。トラブルさえなければこのまま勝ちは決まったも同然。そのくらいの安定感です。
 これが今シーズン初優勝、そしてポイントランキングではまだ3番手だというのに、このレースぶりを見せられるとチャンピオンに一番近いのはアロンソではないかと思えてきます。おそらくベッテルが一番恐れているのはアロンソでしょう(その逆もまた真なり)。なので彼の場合、序盤は昨シーズンくらい不調でちょうど良いのではないかと思ってしまいます。

「マシンはあのようには設計されていないが、それでも十分よかったので驚いた」 キミ・ライコネン/ロータス

 2番グリッドからスタートに失敗して順位を落とした後、追い上げる課程でペレスと接触。ノーズを大きく壊してしまい、これはピットインしてノーズ交換が必要かと思われたものの、結局その後タイヤ交換時の作業も行わずそのまま壊れたウィングで走りきってしまいました。しかもポジションはグリッド順を取り返しての2位。アロンソの強さの影でわかりにくかったのですが、もしスタートに失敗していなければ、ハミルトン脱落の恩恵を一番受けたのはライコネンだったかも?と思えてしまいます。
 それにしても高度な空力設計の下に非常に複雑な形状のウィングをつけた現代のF1マシンにおいて、あそこまでウィングが壊れて空力がめちゃくちゃになっているはずなのに、そこそこのタイムで走れてしまうというのは何なのでしょうか? 今回に限らず時々こういうシーンを見ることがあります。それはチャンピオンクラスのドライバーがなせる技なのか、結局車はメカニカルグリップがほとんどすべて、ということなのか?
 ライコネンは連続ポイント記録を順調に更新し続け、ポイントランキングでも去年に引き続き2位を保っています。表彰台常連となり去年後半の好調がそのまま続いているようで、今年も台風の目というか、アロンソとベッテルに何かがあったときにサッとすべてをかすめ取る位置につけていくのは間違いなさそう。3年前のベッテルのようなこともあるかもしれません。

「いずれ一番になれると思う」 ルイス・ハミルトン/メルセデス

 昨年に続き今年もメルセデスのマシンは上海のコース特性に合っているらしく、予選ではフェラーリやレッドブルを超える強さを見せ、ポールポジションをもぎ取りました。しかしレースペースとなるとまだ問題が多く、第一スティント後半で急にやってきたデグラデーションによって失速。トップの座を明け渡してしまいました。しかしその後プライムタイヤでは粘り強いレースをして、終わってみれば3位チェッカー。ベッテルの最終ラップの猛追も何とか防ぎきりました。
 それにしても今回のレースを見ていると、ハミルトンってやっぱり本当はいいドライバーなんだな、と見直してしまいます。メルセデスに移籍したことについては色々言われましたが、シューマッハの後を継ぎロズベルグのチームメイトとなってここまでの成績を残していることを考えれば、その価値を十分に高めているのではないかと思います。チャンピオン争いは難しいでしょうが、台風の目として昨年のライコネンのような結果を残せれば上出来。優勝も今シーズン中に十分にあり得ると思います。

「終盤は一か八かやってみた」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 Q3では敢えてタイムアタックをせず、9番グリッドからプライムタイヤでスタートしたわけですが、思惑通りにうまくいけば第一スティントの後半でトップまでいかなくても、3位くらいまでは取り返せるはずでした。しかし何があったのかよくわからないのですが、気がつけばなぜか目の前にはザウバーのヒュルケンベルグが立ちふさがっていました。しかも激しく仕掛けて抜き去るだけの余裕もなく、一方で思った通りのペースも出せません。ベッテルとレッドブルの奇襲作戦はこの時点で負けが決まったも同然です。
 わずか5周を残してソフトタイヤに履き替えた時点で、土曜日にできなかった予選アタックのやり直しとばかりに猛チャージ。一昨年のバレンシアでの小林可夢偉を思い出す光景です。本来の作戦通りならトップを奪い取るための最終スティントの追い込みは、結局表彰台を賭けてのハミルトンとの戦いとなってしまいました。それも最後の最後で失敗というオチ付き。
 ベッテルにしてみれば、アロンソとは対照的に不運に見舞われ続けたレースだったのかもしれません。でも変則的な作戦というのは、往々にしてこういう結果に終わりがちではあります。でもレッドブルがこういう作戦を弄するようになったのは、それはそれで面白いことではないかと思います。

 次回のレースは早くも今週末。中東のバーレーンGPです。またもや政情不安がささやかれていますが大丈夫でしょうか?

カテゴリー: F1