- 作者: スティーヴンキング,Stephen King,永井淳
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/11/18
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幼い頃を過ごした町に舞い戻った作家ベン。町を見下ろす丘の上に建つ廃墟同然の館は昔と同様、不気味な影を投げかけていた。少年の失踪事件、続発する不可解な死、遺体の紛失事件。田舎の平穏な町に何が起きているのか?ベンたちは謎の解明に果敢に挑むのだが…。「永遠の不死」を体現する吸血鬼の悪の力に蝕まれ崩壊していく町を迫真のリアリティで描いた恐怖小説。
ものすごく久しぶりのキング作品です。すでにキング作品はほとんどが和訳され、文庫になって発売されつくし、ここ数年は新刊を待つだけとなっていました。ですが、この作品は新作ではなく、むしろキング初期の作品。「キャリー」と「シャイニング」の間に書かれた本だそうです。私が見落としていたのか、旧版はほとんど絶版状態になっていて手に入らなかったのか、あるいは文庫化されていなかったのか、もうないと思っていた未読の作品でした。先月に集英社文庫から発売(再版?)になり、本屋さんに平積みされていました。
読み始めたときは、この作品が古いものだと知らずにいたのですが、確かに時代設定が1970年代とだいぶ昔のことだなぁ、と思いつつも、文体(翻訳ですが)やストーリー展開、人物像の描き方なんかは典型的キングらしくて、特に違和感を感じることはありませんでした。考えてみれば初期の長編となれば、キングが一番乗っていた時期なのかも知れません。そういう意味ではキングらしさを存分に味わうことができます。
原題は”Salem’s Lot”と言い、これはこの物語の舞台となる町の名前で、もちろん架空の町。しかもキング作品ではお馴染みのメイン州の田舎町という設定です。そして邦題になる「呪われた町」とはまさにこのSalem’s Lotのことを指しています。呪われた町の話ならキングは他にもいっぱい書いてきたじゃないかと、キングファンなら誰でも思いますが、これはその第一作目と言えるわけです。
さて、呪われたSalem’s Lotに表れる化け物はいったい何なのでしょうか? 一切の予備知識がないまま読み始めたのですが、その正体に気づく頃には下巻に入っていました。上の紹介文にも出てますのでそこだけネタバレしてしまうと、つまりこれはキング版ドラキュラの物語なのです。この非常に古典的な怪物をキングが描くとどうなるのか?
十字架を恐れ、光を嫌い、心臓に杭を打ち込むことで殺すことができるという、誰もが知っているドラキュラの基本的素性はそのままに、しかしこの小説の中で、1970年代のアメリカの田舎町に登場するキング版ドラキュラは、まるっきりキングオリジナルの怪物に仕上がっています。
解説にあった言葉がこの物語の説明としてしっくりきたのですが、つまりキングの描く恐怖小説は、背景となる町や人々の暮らしが非常に現実的で生々しく、しかも微に入り細に入り描かれているがために、そこに現実にあり得ない怪物が登場したとしても、リアリティを失わないのです。主人公だけでなく、下宿の女将のような脇役に至るまで、彼女の歩んできた人生と現在の人間性のすべてを想像できるかのような丁寧な背景描写がこの小説のポイントだと思います。
それはつまり、恐らく実際に現代に生きる私たちが、あるいはキングが描くような現代の典型的アメリカ人が、ドラキュラのような未知の怪物、信じられない現象に出会ったとしたらこういう反応をするだろうな、と言うところにリアリティがあるわけです。これはすべてのキング作品に通じることでもあり、彼の描く”恐怖”とはつまり、怪物そのものではある意味どうでもよくて、その未知のものに対峙した”人間の姿”がポイントとなっています。
地下室や、道路の側溝、クローゼットや森の中、そして古い廃屋などなど、子供時代に恐れた闇に対する恐怖心の表現は、すでにこの小説でも至る所に出てきます。そう言った人間の根源的な恐怖心、人間社会の崩壊と、そしてわずかな生き残りの人々の行動。こういった基本的プロットはまさしくキングのその後の多くの小説に共通するものがあると思います。
それにしても、このラストには驚きました。久しぶりにキングワールドを堪能できて満足です。
【お気に入り度:★★★★☆】