紀伊ノ変

投稿者: | 2011年7月23日

紀伊の変 ─ 居眠り磐音江戸双紙 36 (双葉文庫)

紀伊の変 ─ 居眠り磐音江戸双紙 36 (双葉文庫)

新玉の紀伊領内が白一色に染まる頃、坂崎磐音、おこんらは姥捨の郷に寄寓し和やかな日々を送っていた。そんな折り、田沼意次によって幕府財政立て直しを図る命が発せられ、高野山に眠る鉱脈にもその手が伸びようとしていた。一方江戸では、磐音の書状が笹塚孫一を通じて品川柳次郎にもたらされ…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を討つ、著者渾身の書き下ろし長編時代小説第三十六弾。

 娯楽時代小説作家として大人気の佐伯泰英さんの文庫書き下ろしシリーズの中でも、密命と並んで代表作となっている「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズの第36巻です。かなりの長編シリーズものになってきましたが、実は私は全部読んでいません。記録を辿ると… 恐らく最後に読んだのは29巻目。それまでは全巻読んでいたので、最近の6巻分を飛ばしてしまったことになります。

 もちろんちゃんと続きから読んだ方が良いとは思うのですが、本屋さんで久しぶりに磐音シリーズを読もう!と思いついたものの、いったい自分がどこまで読んだのかが分からず、まぁ磐音シリーズなら少し飛ばしても大丈夫だろう、ということで、最新刊を買ってしまいました。

 ”おこん”とも結ばれて、佐々木道場の主となって、順風満帆の生活。完全な勝ち組となった江戸での磐音の暮らしは、小説として読むには退屈と言えるほどの状況でした。さて、子どもでも生まれたかな?と思って六巻ぶりに開いてみた磐音の世界は… 想像を超える変貌を遂げてきました。ここはどこ?この人は誰?今はいつ?どうしてこうなった?? …と、疑問の嵐です。

 物語が始まるのは紀州の山の中。江戸の安楽な生活は遙か過去に過ぎ去り、どうやら磐音はおこんを連れて逃亡生活を送っているようです。しかし、流浪の旅を続けながらも磐音らしさは衰えず、すぐに周囲の人々の好意と信頼を取り付け、頼りにされて多くの重要人物たちと親交を結ぶあたりは相変わらずです。そのためかあまり悲壮感を感じません。それは、許嫁の足跡を追い求めて日本中を旅して江戸に流れ着いた、シリーズ初期とはまた違った雰囲気で、磐音も成長したんだなぁ、と感じます。

 ちなみに、江戸を追われたそのきっかけとなったのは、どうやら十一代将軍になるはずだった徳川家基の死。家基を密かに支援していた佐々木家は、その拠り所を失って大きく運命を変えてしまいました。

 そうか、家基は将軍になる前に若くして急死したんだったっけ、と歴史上の出来事を思い出し、これは佐伯さん自身がこのシリーズの行方に行き詰まりを感じて、何か無理矢理事件をその筆で起こしたのではなく、家基を物語に登場させ磐音と接近させていたときから、すでにこうなることは織り込み済みだったんだなと、今更思い至りました。

 そう考えると、この後の磐音対田沼意次の戦いの行方は、田沼意次が実際に辿ったこの後の運命を考えると、何となく見えてくるように思えます。でもそれにはまだ何年もかかることになるわけですが。もしその期待通りに進むとなれば、100巻までいくのは堅いような気がします。

 【お気に入り度:★★★★☆】