八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
- 作者: 高田郁
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2009/05/18
- メディア: 文庫
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神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる屋」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが・・・。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!
郄田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズの第一巻です。このシリーズは大人気ですでに四巻まで出ているのですが、ようやく私も読む機会がやってきました。その人気度は上に張ったAmazonへのリンクにある、購入、クリック数、言及ブログ数の多さにも現れています。時代小説でこんな数字が並ぶことはまずありません。
内容は、シリーズ名にあるとおり料理屋さんものなのですが、前回読んだ郄田郁さんの小説「銀二貫」も料理ものでした。郄田郁さんのバックボーンはよく知らないのですが、料理、特に江戸時代に扱われていた伝統的な日本料理にとても造詣が深いのでしょうか? この小説に登場する多くの料理、食材についての解説はとても手が込んでいて、文庫本でありながら巻末には、物語に登場した一つ一つの料理のレシピが掲載されているほどです。大坂と江戸の食文化の違いも一つの重要なポイントです。
この小説の背景は非常に複雑で、ひと言でざっくり説明すると、大坂出身の主人公の「澪」が、江戸は神田で小さな料理屋をやっていく奮闘物語です。たくさんの人が登場し、複雑にたくさんのドラマが折り重なった物語です。
さて「八朔の雪」というのは、何なのか? 八朔とは八月一日のこと(もちろん旧暦で)で吉原紋日だったそうです。この日は遊女達が白無垢を着る習わしがあるそうで、その遊女たちの姿を指して八朔の雪と呼んだそうです。いったい澪の作る料理と吉原とどう関係があるのでしょうか?
澪とその周辺の人物には、それぞれの過去があり、それらがこれでもかと言うくらいに次から次へと語られます。これまでに読んだことのある郄田郁さんのいくつかの小説もそうだったのですが、やや露骨に涙を誘う場面もありますが、それほど押しつけがましくはなく、すんなりと受け入れられる程度のもの。なるほど、ことあるごとに涙を流す澪の姿に、完全に感情移入しきれないまでも、同情はしてしまうのです。まぁ、私はややこの点に関して捻くれているのですが。
しかし、そう思って気軽に読み進めていたら… 第四話「夜半の梅」のあるシーンでゾッと鳥肌が立ってしまいました。こ、これは… と予想してなかったのでショックを受けてしまいました。物語の中の澪と同じように。うーん、予想がつく展開だと、侮っていてスミマセン、と本気で思ってしまいました。
さて、いったい澪は次にどんな料理を作ってくれるのでしょうか? 次作への期待が膨らみます。しかし、シリーズものの第一巻というのは、往々にしてそうだと思うのですが、これ一冊だけでも十分に小説として完結していると思えます。そのくらいしっかりしたメリハリのある読み応え十分な一冊です。
【お気に入り度:★★★★☆】