2010年F1最終戦 アブダビGP

投稿者: | 2010年11月15日

 とうとう今年のF1も最終戦を迎えました。4人がチャンピオンを獲得する可能性を持ったまま最終戦に突入するのは史上初だそうです。その舞台は昨年も最終戦が行われた中東はアラブ首長国連邦の大都市、アブダビ。海岸沿いに作られたヤス・マリーナベイ・サーキットで夕方に行われるトワイライトレースは、まるでSF映画の世界のようです。
 ここでチャンピオン獲得に挑戦する4人は、ポイント順にフェルナンド・アロンソ、マーク・ウェバー、セバスチャン・ベッテル、そしてルイス・ハミルトンです。チャンピオン経験者2人に加え、無冠のベテラン、新世代の若者を含む豪華な顔ぶれ。そこには白熱した今年のF1全戦を象徴するような、劇的な展開が待ち受けていました。

「キミのことを考えていた」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 ブラジルGPで完勝したもののポイントランキングは16ポイント差の3位。自力でのチャンピオン獲得はありません。予選でウェバーが下位に沈んだために、彼を取り巻く状況はとてもシンプルになりました。何も考えずにひたすら優勝を目指すしかありません。そして実際に彼は、いつものレースと変わりなく圧倒的に速いレッドブルのマシンの力を最大限に使い切り、ハミルトンの挑戦をはねのけトップを守りきりました。今年何度も泣かされたマシンの信頼性もこの大事な場面では持ちこたえました。
 ゴールするまで状況を理解してなかったというのは本当なのでしょうか?情報は入ってきたけど、敢えて考えないようにしていたと言うことかもしれません。そんな中で出てきたこのコメント。レース後の記者会見ではいつも以上に饒舌になり言葉が止まらなかったようです。
 その中で彼は、2007年に最終戦でハミルトンとアロンソを破ってランキング3位から大逆転した、キミ・ライコネンのことを思い出したと話しています。キミとベッテルが成し遂げた大逆転劇は、ある面同じようでありながら、全く違っているとも言えます。ただ一つ言えるのは、F1ではこういうことが起こりえる、と言うことだけです。
 結果はともかく、今シーズンを通して誰よりも速さを見せていたのはベッテルであることに間違いありません。トルコやベルギーの接触、ハンガリーでのミス、オーストラリアや韓国でのマシントラブル、カナダやイタリアでの逆境、そして日本やブラジルで見せた圧倒的な強さ。浮き沈みの激しいシーズンでしたが、彼がチャンピオンを取ったことに誰もが納得するはずです。

「でもこれがスポーツだ」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 ポイント・リーダーで迎えた最終戦。誰よりも有利なその立場を利用して、盤石な保守的作戦をとったアロンソとフェラーリ・チームは、自らの策に足をすくわれてしまいました。予選では不調のウェバーの前を確保し、これでほぼチャンピオンを手中に収めたも同然だったはず。なのに… 賭に出たウェバーに合わせた早めのピットインが、すべてを台無しにしてしまいました。
 レース後に彼は「戦略ミスだった」と認めながらも、「結果を知ってからあれこれ言うのは簡単だ」とチームを擁護しています。確かにそれはそうなのでしょう。チームは後に「ウェバーの動きとソフトタイヤの摩耗を過度に心配しすぎたことに加え、コース上でルノーとメルセデスをパスすることに楽観的過ぎた」とコメントしています。マシンのペースには自信がなくて、アロンソの腕に頼りすぎた、と言うことなのかもしれません。いかにアロンソといえども、今回はどうにもならなかったようです。
 シーズン序盤は今ひとつ精彩を欠き、チャンピオン争いはレッドブルとマクラーレンの対決かと思われていましたが、アロンソが名乗りを上げてきたのは、イタリアGP以降。終盤の6戦では誰よりもポイントを獲得しました。ランキング2位は敗者のトップでしかありませんが、アロンソの力でもぎ取った2位なのは確かです。ドイツの7ポイントを帳消しにしてもそれは変わりません。

「僕はまた来年戦うつもりだ」 マーク・ウェバー/レッドブル

 一時はポイント・リーダーとしてチャンピオン最有力候補となったウェバーは、最後の大事なところでグズグズのレースをしてしまいました。これがプレッシャーによるものなのか、コースとの相性なのか、実力なのかはわかりません。ベッテルのペースに問題がなかったところを見ると、マシンの問題ではなさそうです。
 最後までチームオーダーを否定し、時にはむしろベッテル優遇ではないかと言われるほど、常に公平を強調してきたレッドブルチームにおいて、その是非について議論を巻き起こしたウェバーの活躍はチームオーダー論争に一石を投じたと言えます。しかし、それこそ結果論ではありますが、その論議には自らの手で落ちをつけてしまった形になりました。ウェバーは優先する価値があるドライバーではなかったと。
 レッドブルは相変わらずトップクラスのマシンを用意するとは思いますが、来年はチャンピオンのチームメイトとして、いろいろな点で厳しいシーズンになるのではないかと思います。

「2011年シーズンが待ちきれない」 ルイス・ハミルトン/マクラーレン

 終盤戦にかけてマシン開発がレッドブルやフェラーリに追いつかなくなり、息切れしたかに見えたマクラーレンは、なぜかこの最終戦では息を吹き返しました。ハミルトンは一時期の元気の良い走りが戻ってきたかのよう。ピットインするまでは不気味にベッテルの真後ろにつけていました。あわよくば優勝をかっさらおうという体制。ベッテル以上に彼には失うものがありません。
 思い出してみれば、ハミルトンも取れたはずのポイントを落としてしまった、悔やまれるレースがいくつかありました。イタリア然り、シンガポール然り。速さという点では十分にチャンピオンになれる可能性を持っていることは間違いありません。ルーキー時代の嫌みが取れてスマートでアグレッシブな良いレースをするようになってきたな、と思います。意欲もあるし、元チャンピオンとは言え何しろまだ若いのだから、この先のシーズンも楽しみです。

「F1にとってエキサイティングな1年だった」 ジェンソン・バトン/マクラーレン

 現チャンピオンとしてカーナンバー1をつけて走った1年。チャンピオンシップで5位という結果に終わりましたが、2勝しましたし、それなりに存在感を示せたのではないかと思います。チームメイトに比べると予選でもレースでも負けてるシーンが多かったようですが、それでもレーシングスタイルが全然違うためか、バトンのレースの巧さというのも引き立っていたような気がします。ただ、ダメなときに徹底的にダメになってしまうムラが、5位という結果につながったのではないかと思います。
 でもきっと、メルセデスに残留せずマクラーレンに移籍したという決断は、結果的に良かったのではないかと思います。いや、シューマッハが手こずったアンダーステアなメルセデスのマシンは、やっぱりバトンが乗ったらもっと速かったかも知れませんが。それこそ「タラレバ」ですね。

「作戦が機能しなかった」 小林可夢偉/BMWザウバー

 序盤の不調が嘘のように、中盤戦以降は見事なまでの活躍を見せた小林可夢偉の、今シーズン最後のレースは残念ながら結果が出ませんでした。スピードの足りないマシンで、他とは違ったタイヤ戦略をとり、難しい作戦を何度も成功させてきた可夢偉ですが、今回ばかりはそれも不発に終わってしまったようです。でも、彼のミスではありません。単純に運というか、レースの流れがそうだった、と言うことなのでしょう。
 今シーズンは8回も入賞し、合計32ポイントも獲得しました。日本企業のスポンサーやワークスサポートを受けない中で真にドライビングの腕だけで勝ち取った結果です。今シーズンの文句なしのルーキー・オブ・ザ・イヤーです。来年も期待しています。出来れば、もっと良いチームに大抜擢されることを願って… (^^;

 毎年言ってる気もしますが、今シーズンはとても面白かったです! いや、本当に。今年のレギュレーションに合わせ、アンバランスなウィングをつけた新マシンが登場したときに「うわ、カッコ悪!」と思った記憶がありますが、実際にコース上を走ってみたら、そんなことは関係なくて、F1マシンはF1マシンである限り、この上なくかっこよく見えてしまうから不思議です。
 そして、例年にない激しいバトルを今年は見ることが出来、多くのレースウィナーを生み出し、前例がないほどのチャンピオン争いを見ることが出来ました。それらを鈴鹿で実際に体感することが出来たことが何よりも最高の経験でした。

 ということで、チャンピオン獲得を祝して鈴鹿でのベッテルの勇壮を1枚だけ貼っておきたいと思います。

IMGP8557
2010年10月10日 F1日本GP / 鈴鹿サーキット / セバスチャン・ベッテル / レッドブル・ルノー RB6
PENTAX K-7, SIGMA APO120-400mmF4.5-5.6DG OS HSM, 1/125sec, F9, ISO100, -1.0EV

 残念なことに、今シーズンでブリジストンが撤退してしまいます。ミシュランとのタイヤ戦争が忘れられません。またいつか戻ってきてくれることを期待したいと思います。ちなみに来シーズンからF1のタイヤはピレリが供給します。
 F1はこれからしばらくオフシーズンに入りますが、ドライバーの移籍動向を見守りつつ、来シーズンを待ちたいと思います。次のレースは15週間後です!

カテゴリー: F1