鴉婆

投稿者: | 2010年11月5日

鴉婆 (光文社文庫)

鴉婆 (光文社文庫)

土御門家の譜代陰陽師・笠松平九郎は、当主・泰栄を襲った大黒党の里村龍造を斬殺した。土御門家の全国陰陽師支配に異を唱える大黒党。龍造の弟たちは、平九郎を敵と狙うが、同じ陰陽師として悪を懲らすという点では互いに助け合うことになる。人間の心に潜む魔物を退治する陰陽師。物欲、金銭欲、権力欲等に溺れ、引き起こされる事件に挑む、好評シリーズ第二弾。

 先日読んだ澤田ふじ子さんの「土御門家・陰陽事件簿」の第二巻です。第一作目の「大盗の夜」が気に入って続編も買ってみたわけですが、その期待に違わずとても楽しい小説でした。第一巻を通して、江戸時代の京都の様子や陰陽師支配の仕組み、土御門家家中の人々など複雑な背景情報を覚えたので、すんなりと読むことが出来ました。

 しかし、そこに加えて今作ではさらに新たなプロットが加えられています。それが大黒党の存在。土御門家の支配下に入らない陰陽師の集団です。お互いに見て見ぬふりの均衡状態にある一方で、潜在的に土御門家に仇をなす危険分子でもあります。そんな焦臭い雰囲気から今作は始まります。

 もちろん、今作でも譜代陰陽師、笠松平九郎の活躍は続きます。と言っても彼はスーパースターではなく迷いもあれば失敗もする普通の若者の側面を持っています。平九郎の身の回りの世話をする寛助や、家司頭の赤沼頼兼と平九郎の掛け合いもますます磨きがかかってきました。

 そんな層の厚い登場人物達の中に、今回は新たに数人の重要人物が加わります。その一人が表題にもなっている鴉婆。いったい彼女は何者なのでしょうか?”鴉”と呼ばれるのだから、品行方正で優しいお婆さん、とは言い難いようです。その辺は読んでのお楽しみということで。

 彼女は今後のシリーズ展開において重要な人物になってきそうな気がします。同時に大黒党と土御門家の緊張関係というのも、シリーズを通じての一つの大きなテーマになりそう。一方、今作では進展がほとんどなかった笠松平九郎の恋路というか、嫁取りの問題の進展も気になるところですが。

 文庫では第四巻まで出ているようです。幸か不幸かすぐに追いつけそうです。

 【お気に入り度:★★★★☆】