- 作者: 畠中恵
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/08/10
- メディア: 文庫
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下っ引き宇多の幼なじみの兄妹、千之助と於ふじが、神田川で溺れ、死んでいるのが見つかった。自ら落ちたのか襲われたのか、真相はわからないままだ。宇多が想いを伝えられぬまま逝ってしまった於ふじが、なんと幽霊になって帰ってきた。肝心なことは覚えていないと言うのだが…。幼なじみの男女九人を巡る謎めいた事件と切ない恋もようを描く、お江戸の恋の物語。
久しぶりの畠中恵さんの小説です。ひらがなで表記されたタイトルの語感からして畠中作品らしさは満点。大人気の「しゃばけ」シリーズではない、別の畠中ワールド作品の一つです。いきつけの本屋さんで平積みされているのを発見して、そのまま1秒でお買い上げ決定しました。
畠中さんの作品と言えば、江戸の繁華街と町人を中心にしたほんわかしたファンタジーもの、と決まっています。今作の主人公はなんと下っぴきの若者。とくれば、これはもしや捕り物なのか? ミステリー調のストーリー展開が多いとはいえ、本格的な捕り物は畠中作品では(私が知ってる限り)初ではないかと思います。
結論から言ってしまえば、これは捕り物ではありませんでした。いえ、確かに全編を貫いて大きな謎と小さな謎が交錯し、次第にことの背景が明らかになっていく… という謎解きの展開ではありましたが、その謎解きの過程自体は物語の本題ではなく、どうでもいい(というのは言い過ぎかも知れませんが)横道の話ように感じました。
それよりもこの小説は、二十歳を超えたばかりの男四人、女五人の幼なじみ達の青春ものといった方が当たっていると思います。この年頃の男女の間で生まれるドラマと言えば、これはもう惚れた別れたの色恋沙汰に決まっています。ということで、捕り物を背景にした恋愛ドラマという、あり得なさそうな組み合わせのテーマを盛り込んだ変わった物語です。
若者の恋愛劇とくれば、ストーリー展開はどこかで見たようなものでもあり、そのまま現代に置き換えられそうな気がしますが、まったくそうではありません。この小説で展開される青春恋愛劇の背景には、しっかりと江戸時代の町人達の暮らしやしきたり、風俗風情というものが根付いており、時代小説として何の違和感もなく完璧に完成しています。
そんな舞台の設定にリアリティがある反面、畠中ワールドらしいファンタジーも全開です。ある意味ファンタジーの王道。なるほど、そう来たか、とにんまりしてしまいます。ファンタジーをあり得ないこと、バカらしいこととして切り捨てるのではなく、すんなりと違和感なく飲み込めてしまうのは、私が畠中ファンだからなのか、あるいは畠中さんの物語力のなせるわざなのか?
落ちは何となく想像していたとおりで、あまり大きなサプライズもなく淡々と終わってしまった点が、やや物足りなく感じました。しかしスッキリさわやかに全て丸く収めるとすれば、これしかありません。残念ながらあまりにスッキリしすぎていて、この作品はシリーズ展開はないようです。
【お気に入り度:★★★☆☆】