- 作者: 山本周五郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1963/04/01
- メディア: 文庫
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幼い一途さで答えてしまった「待ってるわ」という一言によって、一生を左右され記憶喪失にまで追いやられてしまう、”おせん”の悲しい生涯を描いた「柳橋物語」。愚直な男の、愚直を貫き通したがゆえにつかんだ幸福を描いた「むかしも今も」。いずれも、過酷な運命と愛の悲劇に耐えて、人間の真実を貫き愛を全うした江戸庶民の恋と人情を描き、永遠の人間像をとらえた感動の二編
先日読んだ藤沢周平に続き”基本に戻る”シリーズの第二弾として、山本周五郎を読んでみました。これまでにいろいろと読了済みなのですが、作品数は膨大にあります。そんな未読の中から比較的古い時代の作品をと言うことでこの本を選んでみました。一冊の文庫本に二つの中編が収められています。その二編とはタイトルにあるとおりです。
ショックを受けました。こんなにも深い人間の心の奥底を容赦なくえぐり出すような小説は久しぶりです。一時期、山本周五郎作品は好んで読んでいたのですが、その数々の作品を思い出してしまいました。そう、こういう重くて辛い、悲しい物語が多かったよなぁ…と。最近どこかホッとする優しい雰囲気の時代小説ばかりを読んでいたので、この世界観をすっかり忘れていて油断していました。
上に引用した作品紹介にあるように「柳橋物語」は女の悲劇の物語、「むかしも今も」は男の幸せの物語。しかし、文章を読んでいて感じる印象は私には逆に感じました。「柳橋物語」は強くたくましく生き抜こうとする女の物語であり、結末も決してBad Endとは思えません。対する「むかいも今も」はくよくよとして未来に希望を感じずに陰の人生を歩んできた男の物語。最後までそのグズグズは続きます。いずれにしろ、どちらも複雑に絡んでこじれてしまった事情に翻弄される、男と女の愛がテーマです。
それにしてもどうしてこうも救いが感じられないのでしょう? ここに出てくる江戸の街、江戸の庶民の暮らしは、ひたすら貧しく、理不尽な世の中の仕組みに苦しめられていくばかりです。結ばれない男と女、と言う以上に彼ら彼女らを取り巻く時代の重苦しさにショックを受けずにいられません。
それもこれも含めて、ぐっと引き入れられる物語力は流石です。一帯この先どうなってしまうのか?本当に救いはないのか?目が離せなくなると同時にずっしりと心に響き、思わずため息をつきたくなるような小説です。でも好きなんですよね、山本周五郎。江戸時代を扱った時代小説でありながら、どことなく”昭和”を感じるあたり。何となく懐かしさと親しみを覚えます。気のせいかもしれませんが。
【お気に入り度:★★★★☆】