- 作者: 佐伯泰英
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2010/04/01
- メディア: 文庫
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彦四郎が禅修業からもどり、いつも通りの平隠が鎌倉河岸に戻ってきたころ、宗五郎の許に、相談事が持ち込まれた。大店の古着問屋の倅が、吉原に居残りをし、下働きをしているのだという。なんとか連れ戻して欲しいと頼まれた宗五郎は、亮吉を吉原に送り込むが…。一方、八丁堀から火の手が上がり、奔走する宗五郎と政次。出火は、なんと与力の須藤家からのものだった―奉行の進退に影響しかねない事態に、密命を受けた金座裏の面々が動き出す。大好評シリーズ第十六弾。
数ある佐伯泰英さんの文庫書き下ろしシリーズの中でも最近人気が出てきた「鎌倉河岸捕物控」シリーズの最新刊です。今作ですでに十六巻目となりました。本についていた帯によれば、NHKの土曜時代劇にもなるそうです… と思ったらすでに「まっつぐ」というタイトルで一ヶ月も前から放送中でした! 全13回中の4回までが放送済みのようです。来週から見なくては。
ここ最近は何となく物語の軸がぶれているというか、脇道へそれてしまっていた感がありました。特に前巻は全編にわたって彦四郎の道ならぬ恋の行方にスポットを当てたりして、それはそれで読んでいて面白かったのですが、岡っ引きを主人公に据えた捕物としての基本的な面白みが失われてしいたように思います。が、今作はそれらがすっきりと元に戻ってきました。
相変わらず亮吉は貶められまくるし、政次のヒーローぶりが何となくしっくりこない感じもふくめ、八丁堀、金座裏、豊島屋などの主要な人々の関わりと掛け合いはすっかりお馴染みとなっていて安心できます。
今回の事件はタイトルの通り「火事」です。木造家屋が密集した江戸の街にあって、火事はしばしば多大な被害を及ぼすためもっとも恐れられていた災害です。その名残もあって現在でも日本では放火に対する刑罰が諸外国に比べ異常に厳しいものとなって残っているほど。
しかも火元が町方役人達が暮らす八丁堀とあっては、その原因や始末の付け方によっては、江戸の治安を揺るがす大事件になりかねません。さて、いったいどんな火事が八丁堀で起こり、どう始末をつけるのか?なぜ縄張り外の金座裏がそこに関わるのか? あり得そうにないことがあり得そうに思えてくる佐伯さんの物語力が遺憾なく発揮されて、久々にすがすがしい読後感でした。
そうは言っても金座裏は所詮岡っ引きの一族。社会的な地位は決して高くないし、江戸において一般的に人に尊敬される仕事でもなかったはず。そこの部分がちょっと引っかかるんですけどね。まぁ佐伯作品を読むのにそんな野暮は言いっこなしということで(A^^;
【お気に入り度:★★★☆☆】