桜小町

投稿者: | 2010年2月26日

桜小町―ひやめし冬馬四季綴 (徳間文庫)

桜小町―ひやめし冬馬四季綴 (徳間文庫)

 米村佳伍さんの文庫書き下ろし新作です。これまでは「退屈姫君伝」シリーズと、その周辺人物を主人公にしたいくつかの小説が新潮文庫から出ていたのですが、この本は徳間文庫から発行されました。

 だからというわけではないのでしょうが、これまでの作品には、お互いに緩やかな関わりがある(人物や時代、場所などが微妙に重なっていた)ものが多かったのに、この小説はこれまでの作品とは、全く無関係に独立した物語となっています。

 でも雰囲気は相変わらず米村節。主人公の一色冬馬は、とある武家の冷飯食いな若者。同じ冷飯食いの友達がいて、ちょっとした大冒険をする… というあたりは過去の作品と重なるところがあります。ただし読み手がびっくりするほどの下ネタは、鳴りをひそめてしまいました。ちょっと残念(A^^;

 タイトルにもなっている「桜小町」は、もちろん重要人物として物語中に登場しますし、その名の通り、誰もが憧れる藩内随一の美女となっています。そこに冷飯食いの若侍が絡んでくるとなると、話の展開はおおかた想像がつくというもの・・・

 というのは短絡しすぎで、これは単なる青春恋愛ドタバタ活劇ではありません。軽妙な語り口の娯楽小説には変わりありませんが、中心となる物語のテーマには、もっと何か重苦しいものがあります。武士とは何か?家とは?親子とは?政治とは? と言った問いかけの連続。たとえば次のように。

武家は町人の上に立つ存在で、人格見識共に優れている。町人は武家の支配を受けているのだから、下等な存在である。ということではない。
武家は町人の上に立つ存在なのだから、人格見識ともに優れていなければならない。そういう自負を有してしているから、厳しくおのれを律し、罪を犯せば切腹という形で責任を取る。それが武家の誇りなのだ。

 これはステレオタイプで表面的な武家論のようでいて、実はそうではありません。江戸時代の武士と町民、農民との関係、社会構造の根幹をずばり言い表していると思います。

 しかし、結末には全く納得がいきません。この終わり方は最低です。思わず本を床に叩き付けたくなりました。いや、オチとしては突飛すぎず、平凡すぎず、そこそこ綺麗に片付いてはいます。しかし一人の重要人物の最後の扱いがどうしても気に入りません。

 そのせいか、残念ながら読後感はあまり良いものではありませんでした。なので、むしろ少しでも興味があるなら読んでみることをお勧めします(A^^;;

 【お気に入り度:★★★☆☆】