- 作者: 宇江佐真理
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/04/15
- メディア: 文庫
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いきなり結論めいたことを書いてしまいますが、この小説にはやられました。痺れました。泣けました。ここ1年くらいの間に読んだ本の中では、間違いなく三本の指の中に入ります。やっぱり宇江佐さんはイイ!
宇江佐真理さんは、女性らしい優しい目線と文体が特徴の人情感溢れる時代小説で人気がありますが、実は僅かな資料を頼りに実在した人物(それも、誰も知らない歴史上の脇役の中の脇役)を題材にした小説も手がけています。この本はそんな中の一冊。時は幕末、舞台は長崎から始まります。
宇江佐真理さんは北海道出身ということで、「蝦夷」と呼ばれていた江戸時代の北海道を舞台にした小説を多く手がけています。なので、この小説が長崎から始まったことはちょっと意外でした。しかし、読み進めていけば「ああ、なるほど」と納得。物語の舞台は次第に北へ北へと動いていきます。
そう、幕末の蝦夷と言えば戊辰戦争の終結の地。数多くの小説で語り尽くされている混乱の時代。しかしやはり宇江佐さんが目をつけたところは違いました。幕府側、薩長側の有名な歴史上の人物ではなく、記録の狭間に消えてしまったとある女性を主人公としています。彼女は、もちろん「アラミス」と呼ばれていました。
その女性が幕末という時代に揉まれ、波瀾万丈の人生を過ごす大河ドラマ。物語の中で彼女がたくましく、時には迷いながら生き抜く姿にはとても心打たれます。
そして、物語中のクライマックスで彼女は言葉を叫びます。
何んね、アラミスって。釜さんは今、うちのお務めは終わりだと言うたやなかか。うちは元の田所柳に戻っとうと?もう、アラミスではなかよ。ばってん、わざわざアラミスと呼ぶ理由は何んね。
ミミーと呼ばんね!釜さん、うちをそう呼んでいたと?
ミミーと呼ばんね!
長崎弁でこうまくし立てる「田所柳」とは何者なのか?アラミスという名は何なのか?ミミーという呼び名は何なのか?そして彼女の相手の「釜さん」とは何者なのか?
これらの疑問の答えとなる、物語の基本的な背景と、宇江佐真理さんがこの小説を書くに至った理由などは「文庫本のためのあとがき」に書かれています。これは本編読了後に読むべきです。
僅か150年ほど前のこと、幕末史に欠かせない重要人物のそばにいたにもかかわらず、ほとんど記録に残っていない謎の人物、アラミス。でも彼女は確実に存在していた唯一の証拠がフランスに残されているのです。
そんな歴史上の謎が背景にあると知って、この小説の面白さは何倍にも膨れあがります。これは宇江佐真理さんが僅かな資料から紡ぎ出した"小説"に過ぎませんが、きっとアラミスはいたにちがいない、そしてこの通りの人生を歩んだに違いない、いやそうであって欲しいと強く思います。
【お気に入り度:★★★★★】