ハリーポッターと死の秘宝:J.K.ローリング

投稿者: | 2008年8月8日
「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)

 

 昨年のちょうど今頃、夏休みの宿題にと思って英語版を買いましたが、3ヶ月ほどかけて15章まで読んで挫折してしまいました。そして先月の下旬、ようやく日本語版が発売になりました。もちろん発売日に即買い。英語版のことは忘れて日本語で最初から読み直してしまいました。ちなみに15章まではほぼ英語版で読んで理解したとおりで合っていたようです。何カ所か「あ~、そうだったんだ!」と思うところがありましたけど。

 で、第1巻から続いたハリー・ポッター・シリーズもこの第7巻「死の秘宝」でようやく集結です。第6巻の「ハリー・ポッターと謎のプリンス」までにこれでもかと言うほど厚く厚く積み重ねられてきた謎に次ぐ謎がすべて解き明かされます。と、いうことで、以下はネタバレを含んでますのでご注意ください。

—第7巻「死の秘宝」を読み終わって
 さて、読み終わってみての感想としては「う~ん・・・。」といった感じです。シリーズ全7巻のクライマックスとして、全巻を思い返してみれば確かに面白かったし、もしシリーズを読んだことがない人には是非お勧めしたい気持ちも変わりません。しかし私個人的には長いシリーズものをようやく完結まで読み終わったわりには安堵感というか達成感というかスッキリ感が今ひとつなのです。確かにこの第7巻の後半に入って急速に展開される種明かしの数々によって、すべての謎は解明されました。しかも見事というしかないほど鮮やかに。夢オチや、読者に知らされていない過去の事実が急に展開されたりするような苦し紛れなところはありません。

 古くは第1巻「賢者の石」で「みぞの鏡」の中にダンブルドアが見たものは何だったのか?についてまでがここへ来て種明かしされています。そして私個人的にはとてもとても気になっていた「セルブス・スネイプは果たして敵か味方か?」については明快な答えが示されました。その背景とこれまでのスネイプの行動の数々の整合性は完璧です。そこにはきれい事だけでは済まされない、人を愛することの難しさというか苦しさがあります。これにはやられた!という感じです。

 同様に登場人物の多くが抱えていた謎。とりわけアルバス・ダンブルドアハリー・ポッターの世界において「善」の象徴的存在でありながら、強大な力を持ち謎の多い人物でしたが、彼の本当の姿についての謎解きもしっかりされています。特に第6巻「謎のプリンス」における彼の死についての謎解きも見事と言うほかありません。多くの人が思っていたと思いますが、私は実はダンブルドアは死んでいない、と思っていました。そう信じたいという意味も含めて。しかし、彼は本当に死んでいました。しかし死してもなおこの物語の重要な鍵を握る人物であったことに間違いはありません。

 そしてシリーズ中の最大の謎であり、物語の主題とも言えるのがハリーとヴォルデモードの関係。双子の杖の関係とともに彼ら自身の存在は単なる善と悪の衝突と言うだけではなく、何か二人の背景には切っても切れない運命の糸があるはずです。特にハリーとはいったい何者なのか?実は彼こそはスリザリンの真の後継者であり、闇の魔術師になる運命ではないのか? あるいはもっと極論して、ハリーは実ははヴォルデモード自身ではないのか?といった突拍子もなくてひたすらネガティブな結末をも予想したくなります。事実作者は随所に読者にそう思わせようとする罠を仕掛けていたようです。しかし、そうではありませんでした。ハリーは当初から描かれていたとおり、両親の愛によって命を護られた真のグリフィンドール生であり、ヴォルデモードを打ち倒すことを義務づけられた魔法使いの救世主でした。

 そして真のグリフィンドール生といえば、この第7巻でもう一人登場しました。ネビル・ロングボトムです。どうしようもない劣等生としてシリーズ中盤まで登場していましたが、ハリー同様に両親を死喰い人に殺されている上に、魔法使いの血筋としてはる名家中の名家の生まれ。ハリー・ポッター・ファンの間ではネビルは実は大物に違いないと噂されていましたが、その推測はある程度当たっていたようです。ハリーとヴォルデモードの最後の戦いの直前、組み分け帽子の中からグリフィンドールの剣を取りだして、最後の分霊箱であったナギニを一刀両断するシーンは、私的にこの第7巻の中でもっとも感動したシーンです。

 そしてめまぐるしい紆余曲折を経て、この本の結末ではホグワーツの城の中でハリーとヴォルデモードが対峙します。これまでにも何度も姿を変えたヴォルデモードとハリーは戦ってきましたが、すべての分霊箱が破壊された後となっては、これこそが最後の本当の戦いです。ヴォルデモードが繰り出した死の呪いに対してハリーが放ったのは守護霊の呪文。さて、その結果はどうなるのでしょうか。死の秘宝の謎をより深く理解していた方の勝ちです。

 1年以上前に英語版が発売されたとき、日本でも大きなニュースとして取り上げられ、一部の心ないワイドショー司会者によって、最終章のタイトルが読み上げられてしまった事件がありました。その最終章のタイトルとは「19年後」です。これだけでは直接的には何も意味していませんが、第6巻まで読み進めてきたハリー・ポッター・ファンにとってはこの言葉は大いに想像をかき立てるものです。何かが起きて、19年後が語られる…。

 それをうっかり聞いてしまったとき、「たぶん、ハッピーエンドなんだろうな」と思った私の想像は当たっていました。それもこれ以上ないほどのハッピーエンド。
 この19年間、傷痕は一度も痛まなかった。
 すべてが平和だった。 
この最後の二文がそのすべてを表しています。

 第7巻のお勧め度:★★★★★ (シリーズを途中まで読んだなら是非とも完結まで読んでください)

ハリー・ポッターシリーズ全巻を読み終わって
 なのに、最初に書いたとおりどうにも腑に落ちない感覚がぬぐえないのは何故なのか?全7巻を通してあまりにも犠牲が多く、ありとあらゆるハリー(と読者)の希望を、わざと先回りするかのようにして摘み取っていく、(言い方は悪いですが)非常に意地の悪い絶望的な展開の数々。シリーズ完結のクライマックスを盛り上げるために整えた「ハリー絶体絶命」の舞台作りがあまりにも念入り過ぎて、あまりにアクロバティックなハラハラ・ドキドキのジェットコースターから私は振り落とされてしまったようです。

 当初「児童文学」として登場したはずのハリー・ポッター・シリーズ。第1巻「賢者の石」、それに続く第2巻「秘密の部屋」、そして第3巻「アズカバンの囚人」まではまだ各巻完結のハッピーエンドを持ち、冒険とファンタジーとに満ちあふれた大人も楽しめる児童向け小説であったと思います。しかし第4巻「炎のゴブレット」に至って、何とも言えない重苦しいきな臭い空気が漂い始め、その後の5巻「不死鳥の騎士団」、第6巻「謎のプリンス」は全編に渡ってどんよりとした薄暗い絶望の物語。謎が謎を呼ぶばかりで何一つ解決せず犠牲者も後を絶ちません。結末にスッキリ爽快な落ちと種明かしがあるわけでもなく、はたして子供達がこれを読んで楽しめるのだろうか?理解できるのだろうか?と訝しく思えたものです。

 冒険活劇の楽しみとは、読者(=私)が物語の世界に入り込み主人公と一緒になって行動し、苦難を乗り越えて目的を達する感動を味わうことが基本です。そこにはもちろん絶体絶命のピンチ!が欠かせません。ハリーにこれでもかこれでもかと言うほど襲いかかる不幸と苦難の嵐の中で、ハリーと一緒に戦うべく物語の中に入り込んだはずの読者(=私)は、途中で耐えきれなくなり逃げ出したくなりました。シリウスの死、ダンブルドアの死をはじめとした数々の犠牲者、舞台だったはずの学校からも追われあてのない放浪の旅、そしてロンの逃亡、絶対的存在だったはずのダンブルドアの醜聞…。何一つ前進せず暗闇に落ちていくだけの果てしない負の連鎖の物語は、第4巻の後半からこの第7巻のクライマックスまで長きに渡ってずっと続きます。この中で、それでもハリーはやり遂げるに違いない!という希望の光はいったいどこに感じるべきだったのか?

 ハリーが最後は勝つはずだと言うことは誰もが信じていたことです。ただし、もしかしたらそれはハリー自身の死を伴うかもしれません。冒険活劇のヒーローとは時に最期に大きな代償を払うものです。しかし、このシリーズでは途中から読者(=私)が絶対的なよりどころとすべきヒーロー自身までもが「ハリーとは何者なのか?」というミステリーに隠れてしまいました。物語の世界の中での視点を見失った読者(=私)は、ただ遠くからハリー達の最後の戦いと謎解きを眺めているだけ。ともに戦った!という共感が薄らいでしまったヒーローのハッピーエンドもまた遠くの出来事のようです。

 見事な謎解きと鮮やかで完璧で期待通りの結末を描き出したこの物語力はすごいと思います。しかしそれは良質のミステリーを読み終わったかのような感覚。私がわくわくしながらハリー・ポッター・シリーズを読み始めたときに感じた冒険活劇の感動とはちょっと違ったようです。それが、冒頭の「う~ん…」につながっているのです。序盤があまりにも面白すぎたために、何かあり得もしないものを期待しすぎただけなのかもしれません。

—余談
 上に引用した結末を読んで実は真っ先に考えたことがあります。
 スティーブン・キングに毒されている私からすれば、これ以上ないと思えるほどのハッピーエンドの情景を盛り上げておいて、
 この19年間一度も痛まなかった傷痕がチクッとした違和感を感じるようになったのはハリーの気のせいだろうか?
 とかなんとか、そんな思わせぶりな結末にすると面白いのに… などと馬鹿なことを考えてしまったりします(A^^;;  だって、アルバス・セルブス達の物語がまた読みたいですからね。

 ハリーポッター・シリーズのお勧め度:★★★★★
  (批判めいたこと書きましたが、やはりこのシリーズは面白い。読んでいないなら是非今からでも!)

ハリーポッターと死の秘宝:J.K.ローリング」への2件のフィードバック

  1. アマグリ

    すっ飛ばしながら読んだ英語版。多分6~7割は合ってるかと思いますが(笑)、今度日本語版読んで色々な事を確定したいです。(照)
    確かに「炎のゴブレット」からなんとも言えないダークな雰囲気が立ちこめて来ましたよね。シリーズを重ねるごとに謎が増え、その答えを勝手に想像しているのも楽しかったのですが、日本語版が発売されるのが遅いので悶々としていた事を思い出します。
    私はシリウスがあちらの世界に行ってしまったとき、これ以上ない絶望を感じたものです。何かミラクルが起こって、シリウスとハリーが幸せに暮らせないかと切実に願ったものです。
    そしてダンブルドアも最後の巻まで「実は死んでない!」と信じていたひとりです。そしてダンブルドアの恋話!スピンオフで映画が出来そうですよね。
    ハリーは実はスリザリンの後継者説っていうのも非常に面白いと思ってたのですが、やはりグリフィンドールでまとめないと子供達は納得しないですよね(笑
    スティーブンキング風のラスト。イイ!永遠に物語が続きそうですが。

  2. Hi

    ○アマグリさん、
    シリウスのファンは多いですね。あのときも何が起こったのか理解するのに時間がかかりました。シリウスの死で絶望を感じるというのはあるいみまだハリーと共感を感じている証拠かと思います。

    ダンブルドアの恋話は日本語版ではまったく表現されていなかったようです。訳者わざとその部分は薄めたのかな?日本語版読んで確認してみてください。もちろんスネイプの恋話はしっかりと書かれています。

    キング風のラスト、実際に「クリスティーン」という物語のラストがこんな感じなのです。全てが終わってほっと読者を安心させておいて一気に突き落とす。キングにしかできない芸当かと思いますが(^^;

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