しゃばけ:畠中恵

投稿者: | 2008年3月6日
しゃばけ (新潮文庫)

しゃばけ (新潮文庫)

 

 近頃本屋さんでも平積みになっているのをよく見かけるし、人気があるらしいことは分かっていたものの、何となく避けて買わずにいた本がこのシリーズ。文庫版の表紙絵がなんとなく気に入らなかったような気もするし「しゃばけ」とか「ぬしさまへ」という語感と平仮名のフォントにピンとこなかったとも言えるし、とにかく理由はよく分かりません。が、運良く友人から借りることができました。自分で買う気にはなれないが、貸してくれるというならば一も二もなく飛びついたわけで、本当は読みたかったんじゃないの>自分?という感じです。いや、どういう感じだか分からんですね、これじゃ(A^^;

 簡単に内容を紹介しておくと、日本橋通町にある廻船問屋、長崎屋の一人息子の一太郎が主人公。病弱なこともあって甘やかされ放題に育ってきた彼の周りには故あって妖(あやかし)達がいます。怖い顔をしているけど小さくてかわいい子鬼の鳴家、一太郎の部屋にある古い屏風の付喪神の屏風のぞき、そして長崎屋の手代の仁吉に化けた白沢と同じく佐助に化けた犬神などなど。普通の人間達には見えない、というより普通の人間達の前では決して姿を現さない妖怪たちと一太郎の奇妙な関係を軸に、一太郎の身の回りに起こるいろいろな事件の物語です。

 ということで、想像していたのとはちょっと違っていました。良い意味で。正直なところ予想外にとても楽しめました。もともとこういうファンタジーものは大好きなので、時代小説とファンタジーのミックスされた世界というのは最高です。おおよそ歴史的な事実とか時代考証とか、江戸時代の当時の風俗とか風情とか、一般の時代小説につきものの雰囲気とはかけ離れています。かといって、妖怪達はさておき一太郎と長崎屋のある江戸の町が全く荒唐無稽というわけではありません。

 奉公人をたくさん使う江戸の商家の暮らしとか、江戸の人々が火事とどう向き合っていたかとか、岡っ引きと言われる人々の真の生業とか、当時の食生活、生まれながらに決まっていた身分の差などなど、ベースとなる部分は過去に読んだ正統派(?)な時代小説で語られた江戸の町の風景と何ら変わるところはありません。そしてそんなリアリティのある世界に加えられた「妖怪達の江戸」とファンタジー要素も、見事なまでにしっくりと来るものです。

 ただし、一部に見られたテレビ的手法を感じさせる”罠”的な文章構成というか表現方法はちょっといただけません。読者をびっくりさせるためかとは思いますが、その先が読める読めないにかかわらずちょっと白けてしまいました。何となく読者として馬鹿にされている感じです。とても素性の良い物語なのですから、肝心のストーリーや文章力で勝負してほしいものです。あんな安っぽいテクニックに走る必要は全くありません。

 ちなみにこの一太郎と妖たちの物語はシリーズ化されていて、文庫本ではこの「しゃばけ」に続いて「ぬしさまへ」「ねこのばば」「おまけのこ」の4冊が発行済み。ハードカバーではさらに「うそうそ」「みぃつけた」「ちんぷんかん」の7冊目までが発行されているそうです。すでに第二巻の「ぬしさまへ」までは読んでみました。続きも楽しみです。

 なお、この手の時代ファンタジー小説というのは珍しいですが他に例がないわけではありません。有名なところでは宮部みゆきさんの時代物のいくつかはファンタジー要素を多分に含んでいます。「孤宿の人」もファンタジーだと思います。この「しゃばけ」シリーズのほうがもっとファンタジー的な面では突っ走っています。それでも同じように楽しめました。いずれにしてもこういうのも時代小説として悪くありません。いや、私としてはむしろ大好きです。

 この何でもないあっけらかんとしたファンタジー娯楽小説は、実は当時の日本人が考えていた「あの世」とか「幽霊」とか「何か説明できない物の怪」観をうまく表しているような、そんな気がしました。そしてそういった感覚というのはどこかで当時に宗教というか信心と繋がっていて、それはまた人々の生活や文化と密接に関わっていたはずです。

 時間や空間を超えた異文化を知るためには事実ばかりを追うのではなく、そこに暮らす人々の心の内を知ることはとても重要なことです。この本は荒唐無稽ながらもその辺の”時代の空気感”が実に優れていて、それが時代小説として他の硬派な作品達と何ら変わることなくこの物語をすんなりと受け入れられた一つの理由だと思います。

 そしてこの本を読み終わって、毎日の生活の中でこんな鳴家達が自分の周りにうろちょろしていたら楽しいだろうなぁ、と思えてきました。犬神と白沢と屏風のぞきはどうかなぁと思いますけど(A^^;

 aisbn:410146121xおすすめ度:★★★★★★

しゃばけ:畠中恵」への2件のフィードバック

  1. アマグリ

    ハードカバーの「うそうそ」「みぃつけた」まで揃ってますよ(笑
    「おまけのこ」が一番のお気に入りです。

    巻によって文章の雰囲気というか、表現というか、なんか色々バリエーションを感じるんですよ。あえて挑戦的に変えているのかもしれないと思うぐらい。
    映像化の事とか考えて書いてるのかな???

    この先、ホロリとくる話や思わず自分の心と向き合ってしまう話、鳴家達の活躍、若旦那の心の成長なんかもあって楽しめますよ。

    私も鳴家が見えたらいいな。。ま、あおが鳴家みたいな感じだけど(笑

  2. Hi

    ○アマグリさん、
    続きが楽しみです。思わず自分で買ってしまおうかと思ったほど。いや、ちゃんと思いとどまっています。

    それにしてもこの本挿絵が良いですよね。映像的なのは確かですが、ドラマや映画にしやすいかというと?な気がします。でも「しゃばけ」は昨年ドラマ化されたんでしたっけ?

    「あお=鳴家」説、あまりにも嵌りすぎていて爆笑してしまいました。そうに違いありません…。だとすると、たくさんいるとエライことになりますな(A^^;

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