インテルラゴスで行われるブラジルGPと言えば、シーズン最後のレースであり、悪天候でチャンピオンが決定する緊張感に溢れ、その結果荒れたレースになる、という刷り込みが私にはあります。恐らく同世代のF1ファンには共通の認識だろうと思います。実際にインテルラゴスでは、記憶に残る多くの名シーンがありました。アイルトン・セナの母国初優勝、前も見えないほどの豪雨の中の多重クラッシュは数知れず、キミの大逆転チャンピオン獲得、ハミルトンとマッサの1ポイント争いなどなど、チャンピオン決定の瞬間の多くはここで見られたものです。
今年のブラジルGPは、久しぶりに最終戦ではなく、従ってチャンピオンはここでは決まらず、おまけに天気は良好で穏やか。波乱を引き起こす要素はあまりありません。とはいえ、そのレース内容は、何事も起きないつまらないレースだったかというとそうではなく、実際のところ非常に激しいトップ争いがほぼ全周回に渡って続く、緊張のレースとなりました。
そのトップ争いを演じたのはもちろん、メルセデスに乗る二人です。後がないロズベルグ対ほとんど大手を掛けているハミルトンの争いは、久々にロズベルグが勝利しました。
「優勝を逃した要因は自分のミスだった」:ルイス・ハミルトン/メルセデス
セカンドグリッドからスタートして、ロズベルグとの1対1に持ち込み、じわじわプレッシャーをかけながら30周前後で勝負に出る… というのはハミルトンのここ数戦の常勝パターンでした。今回もその通りのシナリオで進んだはずだったのに、肝心なところで決定的なミスを犯してしまいます。
2回目のタイヤ交換のタイミングで、予想以上のタイヤのデグラデーションに苦しんでいたロズベルグに対し、少し余裕があったハミルトンは、ピットインをロズベルグよりも2周遅らせて、オーバーカットに挑みます。1周目は完璧な走りでその時点でのファステストラップを記録。その勢いで行けばほとんど逆転に成功するかと思われた矢先、4コーナーでリアが滑りコースアウト。幸い舗装されたエスケープゾーンが十分にあったので、マシンへのダメージはなくコースに戻りますが、ロズベルグを逆転することは叶いませんでした。
結果的に後から振り返ってみれば、ロズベルグの前に出るチャンスは、この1回だけでした。その後も追い上げて、終盤はほとんどテールtoノーズとなり、DRSを使いまくりますが、オーバーテイクするには至らずチェッカーへ。6連勝は適わず久しぶりにロズベルグに負けてしまいました。
果敢に攻めた結果の失敗。チャンピオン争いでまだまだ大きな余裕があるせいか、レース後もそれほどがっかりしている様子はありません。表彰台では目も合わせないロズベルグに、パレードラップで親指を上げて見せるなど、彼自身レース内容には納得いってるのでしょう。そして勝つ自信があるのだと思います。ロズベルグの結果にかかわらず、2位に入りさえすれば自力チャンピオン決定ですから、彼がやるべきことは非常にシンプルです。
「彼がスピンしたときリラックスしてタイヤを温存できた」:ニコ・ロズベルグ/メルセデス
ポールポジションからスタートし、そのまま順位を守り切ったのは本当に久しぶりな気がします。しかも金曜日から全セッションでトップタイムを記録するという圧勝ぶり。とはいえそんな記録とは裏腹に、レース内容的には完勝かというとそうではなく、常にハミルトンに脅かされ続けたスレスレの勝利だったように思えます。
予想外に路面温度が上がり、全般にタイヤの消耗が非常に激しいレースでしたが、序盤はまだその様子が掴みきれず、ロズベルグは第2スティントでタイヤを使いすぎて苦労しはじめます。それはスタートで使ったソフトタイヤが10周持たなかったため、11位以下からミディアムタイヤでスタートした数台をコース上でオーバーテイクする必要があったことも、大きな要因だったと思われます。
2回目のピントインタイミングを巡って、古いタイヤで猛烈に飛ばすハミルトンと、新しいタイヤで猛烈に飛ばすロズベルグの戦い。ロズベルグはまたしても2位に落ちてしまうのかと思われた矢先、ハミルトンのミスで全てはなかったことになります。これが今回のレースを決定づけました。この危機を幸いにも乗り切ったロズベルグは、以降、タイヤの使い方含めてレースを立て直します。
ハミルトンのコースアウトによって得た8秒近いギャップを利用して、タイヤを労りつつ、ペースをコントロールして残り周回でポジションを守り抜きます。
ということで久々の優勝で、チャンピオン争いを少し押し戻しました。ポイント差は17。次戦は(バカげた)ダブルポイント制ですが、ロズベルグの自力チャンピオン獲得の可能性はなく、全てはハミルトンとの結果次第。
しかし、ロズベルグは失うものがなくなって吹っ切れているようです。ハミルトンが圧倒的に有利ですが、そこはどうなるか分からないのがF1です。ある意味ハミルトン以上に、ロズベルグにとっては最終戦はシンプルなレースとなるのでしょう。優勝だけを狙って、あとは結果を待つのみですから。
ベルギーGPの時点で接触という経験をしているおかげでしょうか、終盤戦に入っても、ある意味予想外にクリーンなレースが行われています。最終戦もこのままクリーンな戦いを経てチャンピオンを決して欲しいところです。
「地元ファンの前で表彰台に立てたことは素晴らしい」 フェリペ・マッサ/ウィリアムズ
ピットストップで2回も失敗した割に、スターティング・グリッド同様にしっかり3位に入ることが出来ました。マッサのブラジルでの表彰台と言えば、やはり2008年を思い出します。マッサにとって唯一のチャンピオン獲得の可能性があったシーズンです。見事な優勝を飾ったにもかかわらず、わずか1ポイント差でチャンピオンは彼の手をすり抜けていきました。奇しくもそのときチャンピオンを争っていたのはハミルトンでした。
そんな諸々を思い出したのはマッサはもちろん、インテルラゴスに詰めかけた多くのファンも同じなのかも知れません。そして地球の裏側でテレビを見ている日本人ファンも、サーキット中に溢れるマッサコールを聞いて、2年前のことを思い出したはずです…。
次戦はいよいよ2014シーズンの最終戦、アブダビGPです。日没を挟んだトワイライトレースで、その幻想的な風景はシンガポールにも負けません。そこでいよいよチャンピオンが決まります!