F1は初夏のカナダに続き、今シーズン再びアメリカ大陸に渡りました。これからはしばらく北南米戦が続きます。その最初の一戦はアメリカ中南部、テキサス州オースティンにある、その名も”Circuit of the Americas”です。なんだか大きく出たもんです。
それはともかく、自動車産業およびモータースポーツの先進国アメリカにあって、ここは新しくF1のために作られたサーキットです。中高速コーナーと長いストレートが組み合わされた、どこかで見たようなレイアウトです。
2012年にオースティンでアメリカGPが復活してからというもの、ドライコンディションの映像しか記憶にないのですが、今年は昨年の鈴鹿もここまでは悪くなかったと思えてくるほどの悪天候に見舞われました。
フリー走行はまともにドライを試すことが出来ず、土曜午後の予選は結局キャンセルされて日曜午前に延期されたものの、それでもQ3がキャンセルとなり、Q2までの結果でグリッドが決まるという始末です。
天候が荒れれば、レース内容は荒れがちになります。今回は、パーマネントサーキットには珍しくバーチャル・セーフティカーが2回、セーフティカーが2回も入るという予測不可能なレースとなりました。
「本当にクレイジーなレースだった」 ルイス・ハミルトン
全くその通りで、ハミルトン視点でレースの展開を整理するのは容易ではありません。スタートで2番グリッドから飛び出し、鈴鹿と同じように1コーナーのライン取り競争で、ロズベルグをコース外に押し出し気味にせめぎ合いながらトップを奪ったことも、後の展開を考えたらもはや小さな出来事でした。
しかしせっかくロズベルグから奪い取ったトップの座も、その後レースの3/4が経過するまではピリッとしない内容で、ずるずるとポジションを下げて行ってしまいます。特にインターミディエイトを履いてる間はレッドブルのリカルドにも易々とオーバーテイクされるなど、ある意味シンガポール以来の今年のメルセデスの弱さが顔を覗かせていたようです。
その後たびたび導入されるセーフティカーに対し、タイヤ交換のタイミングもうまくいかず、レース終盤になってロズベルグに対しタイヤ戦略等で圧倒的に不利なまま残り15周を迎えてしまいます。今回はこれまでかと思ってしまいました。
しかしそこから事態は急速にハミルトンに味方するように動き始め、全てをひっくり返します。まずは残り15周ほどとなったところで、この日2回目(バーチャルを合わせると4回目)のセーフティカーが入ったこと。これは一人だけタイヤ交換が済んでいなかったハミルトンにとっては願ってもないことでした。
そしてレース再開後、一騎打ちに持ち込む前に、トップをゆくロズベルグは自らのミスでコースアウトして勝負あり。いろんな事がゴタゴタあった割には、表彰台には今シーズンの常連たる順当なメンバーが順当な順序で並びました。
これによってハミルトンは昨年に続きチャンピオンを獲得しました。今シーズンは文句なくハミルトンのシーズンでした。その強さは昨年よりも増していますから、この結果は当然の結果です。その強さがある意味今回のレースでも如何なく発揮されたと思います。
レースがうまくいかなくなると精神的に不安定になり、取り乱して自滅してしまう過去のハミルトンとは違い、余裕を持っていたが故に拾うことが出来た運だったと言えるでしょう。それもまたチャンピオンになるための強さの一つだと思います。
「すべてにムカついていた!」 ニコ・ロズベルグ
一方の敗者、ロズベルグです。ハミルトンとは裏の意味で今年の彼らしい、グズグズなレース内容だったと言えるでしょう。ポールを取ったものの、1コーナーの際どい争いに負け、その後盛り返してなんとかトップに返り咲いたというのに、不運が重なった結果焦ってしまったのか、大事なところで自滅してしまう… と。
勝負弱さを露呈したレースも、大事なところで致命的なミスをする姿も、今シーズン何度も見てきた光景です。
そのことは彼自身もよく分かっているようで、レース後に「ムカついていた!」とコメントした背景には、そうした自分のレース弱さに対してムカついていたのであり、一度ならず二度までもコース外に押し出したハミルトンのバトルのやり方にムカついたのであり、自分にもハミルトンにも関係ないところで起きた運と不運にムカついていたのでしょう。
昨年、チャンピオンを失うことが決定した最終戦で、手負いのマシンでポイント圏外に落ちつつも、「最後まで走らせてくれ!」と無線で訴えて、リタイアすることを頑なに拒んだ彼の姿が、シーズン中のいろいろな出来事を帳消しにしたのとは対照的に、今回は表彰式前にハミルトンから投げ渡されたピレリのキャップを投げ返すという姿が、国際映像に映ってしまったようです。
私としてはこういう行動を取るロズベルグは好きです。その後のインタビューで素直に「むかついていた」と告白するところも含めて、すまして優等生面するよりもずっと人間的で良いと思います。
表彰式でのブーイングがこの行動のせいとは言えませんが、どうにもヒール役が板に付いてきてしまった感があり、これをひっくり返すには、やはり来シーズンの成績にかかっていると思います。
絶好調のホンダ
「絶好調」は言い過ぎかもしれませんが、ERSが欠陥品と言っても良いくらいに弱いホンダにとって、オースティンのこのコースは不得手なサーキットだったはずです。それが、コンディションが悪かったこともあって、予想外になかなか良い成績を収めました。ただし、バトンとしては「結果は良かったけどペースは悪かった」と言っており、今回の成績は偶々だったと仄めかしています。決して復調の手応えがあったわけではないと。でも、こういう荒れたレースで生き残ることもチームとしてはとても重要なことです。
もはやいくらトークンを使おうとも、今シーズン中にERSを根本的に直すことは出来ないわけで、残りのレースは今まで以上に来季に向けてのテストと割り切るしかありません。今後も不得意なコースが続くようですが、ファンとしてもポイントが取れたらラッキーというくらいの気持ちで見守るしかありません。
窮地に追い込まれたレッドブル
1ヶ月ほど前から問題になっている来季のパワーユニット問題は、まだ我々に目に見える形では決着が付いていません。昨年来レッドブルチームが感情にまかせてルノーをコケにし過ぎた、という点は否めないものの、結局のところ現在のF1はプライベーターにとって非常に不利なレギュレーション、仕組みになっているということが露呈したという点は、見逃すべきではないと思います。
騒動は収まってない仲で、今回のアメリカGPではいみじくも、レッドブルの強さが非常に目立ってしまいました。ウェットコンディションでは、レッドブルのマシンだけはコーナリングスピードが違うことに、メルセデスを初めとした他のチームは衝撃を受けたに違いありません。そしてメルセデスもフェラーリも「これだから奴らに同じパワーユニットを渡せるわけがない」と自分たちの決定の正しさを再確認したはずです。
レッドブルとルノーの関係については歴史的経緯も含めて色々あるものの、結局のところ現在のF1の仕組みでは、強くなりすぎたプライベーターには良いパワーユニットを選択する自由がない、というジレンマがあるのは確かなようです。例えば、ウィリアムズがメルセデスのチャンピオンを脅かすようなマシンを作ってしまったとしたら、いったい何が起こるでしょうか? メルセデスが挑戦者だった時代ならいざ知らず、一度チャンピオンを取ってしまったチームは、その座を奪われることに強烈な不満を感じ、対抗策を考えるはずです。ちょうど昨年来のレッドブルがそうであったように。
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次戦は早くも今週末、20数年ぶりのメキシコGPです。私にとってもF1ファンになってから初めて見るメキシコGPであり、どんなレースになるのかとても楽しみです。