F1シーズンも大詰めを迎え、残るは後2戦。数年前まではブラジルGPが最終戦という時代が長く続き、深夜に生放送されるインテルラゴスの風景を見ると、今年ももう終わりだなぁと、しみじみ寂しさを感じたものです。
ネルソン・ピケやアイルトン・セナは言うに及ばず、数々のF1ドライバーを生み出してきたブラジル。ここ最近10年のブラジル人エースと言えば、間違いなくフェリペ・マッサだったと思います。
2002年に20歳でザウバーからデビューして15年。まだ35歳のマッサですが、まるで同年代の友人のような気がしてきます。2006年にはフェラーリに大抜擢されたものの、完全なセカンドドライバーであり、シューマッハ、ライコネン、アロンソといったスーパーエースをサポートする役目を負っていました。
Felipe Massa / Williams FW38 / 2016年 日本GP
しかしそんなマッサのキャリアに一大転機が訪れます。それが2008年の最終戦ブラジルGP。そのレースもインテルラゴスは雨に見舞われました。
「自分の人生にこんな事が起こるなんて考えたこともなかった」 フェリペ・マッサ
大雨で度々レースが中断し、セーフティカー先導の周回が長く続いた今回のブラジルGP。一時はレースそのものの続行が危ぶまれましたが、雨の隙を縫ってなんとかレースは71周の全周回を消化することができました。
Felipe Massa / Williams FW37 / 2015年 日本GP
マッサにとってはF1ドライバーとして残り2戦であると同時に、最後の母国グランプリとなりました。大雨の中満員のインテルラゴス・サーキットの観客は、ブラジル人であるかどうかに関わらず、みんなマッサファンだったと思います。それを言うなら、テレビで観戦していた世界中の人がそうだったかも。
残念ながら今年は不調のウィリアムズを駆って13番グリッドからスタートしたマッサは、レース中盤の48週目に最終コーナーでアクアプレーニングに足元をすくわれ、クラッシュしてしまいました。
Felipe Massa / Williams FW36 / 2014年 日本GP
マシンから降りて、満員のグランドスタンドの前を徒歩で最後のパレードをするマッサ。オフィシャルやカメラマンまでが駆け寄り声をかけ、マッサの15年のキャリアを称えます。そしてピットレーンに入ってくると、なんとレース中であるにも関わらずメルセデスやフェラーリのチームクルー達が整列してマッサを迎えます。
そして最後に出迎えたのは奥さんとフェリペJr、全レースに付き添ってたのではないかと思われる、父と弟。さらにウィリアムズのチームクルーです。フェラーリ時代からのコンビだったスメドレーは、ピットスタンドから動かず、後ろを振り向くことができませんでした。
Felipe Massa / Ferrari F138 / 2013年 日本GP
冒頭に引用したコメントは、表面的にはにはこのリタイア後のサーキットの異様な雰囲気についてのものだと思います。付け加えて「メルセデスとは仕事をしたこともないのに出迎えてくれた」とコメントしています。
自らの意思で引退していくF1ドライバーはたくさんいますが、こんな光景を見たのは初めてです。過去の偉大なチャンピオン経験者の引退であっても、こうやって母国GPを終えたことはないと思います。マッサがどれだけF1にとって重要で、ブラジルGPがどれだけ特殊なものであるかが良くわかります。
Felipe Massa / Ferrari F2012 / 2012年 日本GP
でも彼の言葉の真の意味は、彼のレースキャリア全体を指しているのではないかと思います。特に2008年、絶対的なチームオーダーが存在するフェラーリのセカンドドライバーでありながら、チャンピオンを取りかけたあの年。ブラジルGPで奇跡の逆転を起こしかけ、ほとんどチャンピオンを手にしたと思った瞬間に、雨にすべてを覆され1ポイント差で逃したあの年のことです。
あのレースのことは語り始めると止まらなくなりますので自制しておきます。とにかくマッサはチャンピオン獲得がかかった母国のレースを見事優勝で走りきったものの、わずか1ポイント差でチャンピオンをつかみ損ねてしまいました。しかも、それは最終ラップの最終コーナーでハミルトンがトヨタのグロッグから5位をプレゼントされたことによって決しました。
Felipe Massa / Ferrari 150°ITALIA / 2011年 日本GP
今回のことも、この2008年の記憶がみんなにあるからこそなのかもしれません。あのシーンは、F1関係者、F1ファン達の胸のどこかに常に引っかかっていました。雨の表彰台の頂点でやはり同じように涙を流していたマッサの姿を、誰もが忘れられないのだろうと思います。
その翌年のハンガリーGPにて、前を走行するブラウンGPのマシンから脱落した部品がマッサのヘルメットを直撃し、気を失ったまま高速でクラッシュするという事故によって瀕死の重傷を負います。しかし何とか回復して2010年からF1に復帰しましたが、その頃からマッサの雰囲気はどことなく変わったように思います。
Felipe Massa / Ferrari F10 / 2010年 日本GP
フェリペ・マッサのF1参戦は今回のブラジルGP終了時点で249戦、勝利数は11回、表彰台は41回、ポールポジション16回、ファーステストラップ15回、獲得ポイント数は1120点。
彼のレースは最終戦アブダビGPを残すのみとなりました。優勝は無理でも、あと数ポイント追加してくれる事を期待したいと思います。
チャンピオン争いは決着つかず
大荒れのレースは、ハミルトンが制しロズベルグが辛くも2位に入りました。チャンピオン争いは膠着状態のまま次の最終戦を迎えることになります。12ポイント差でリードしているロズベルグの圧倒的優位は変わりません。ハミルトンが優勝するとしても、ロズベルグは1台だけならレッドブルに行かれても何とかなります。これで精神的にかなり楽になったと思います。
というのは、フェルスタッペンが絶好調すぎて、どうにも鬱陶しいから。今回のレースも内容的にはフェルスタッペン一人勝ちだったといえるでしょう。タイヤ戦略で失敗して余計なピットインをした後の追い上げは見事でした。
次はいよいよ最終戦
全21戦に及ぶ長いシーズンも次戦でいよいよ終了です。舞台は一気に中東に移ってお金持ちで溢れる未来都市、アブダビGPが来週末に行われます!
マッサがファンにも関係者にもどれだけ愛されているかがわかる場面でしたね。わたしも言葉なくじーんとしてしまいました。
>あのレースのことは語り始めると止まらなくなりますので自制しておきます
これ、興味あります。あのレースは特殊な展開でした。最後の1周でドライのマシンのタイムが大幅に落ちたり。
通りすがりにコメント失礼しました。
イタリ (id:plastic21g) さん、
コメントありがとうございます。F1カテゴリは誰も読んでないと思っていたので、コメント頂けて嬉しいです。
今年のブラジルGPは本当に感動しました。リタイアだったのは残念ですが、良いシーンを見られたと思います。
2008年のブラジルGPは忘れられないですね。グロッグはまさにドライタイヤに賭けていていて、ファイナルラップの雨の中ではまともにドライブできなかったのは分かるんですけどね。でもグロッグはそのシーズン、別のレースでハミルトンに当てられてすごく怒っていました。二度目はない、今度はこっちから当ててやる!みたいなこと言ってたのに、あっさり道を譲った(ように見えた)な…と。
トヨタのチームクルーはロゴの付いたものを隠してインテルラゴスから脱出したと聞きます。
…とまぁ、色々ありました。