- 作者: 杉本苑子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/06/25
- メディア: 文庫
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将軍徳川秀忠の長男・竹千代の乳母として、江戸城大奥に上がったお福は、次男・国松のほうを溺愛するお江与の方、つまり江(ごう)と激しく対立。劣勢をはねのけ、竹千代は三代将軍となる。権勢並ぶ者なき存在となったお福だが、女としての幸福は、いかに!?春日局の波瀾に満ちた生きように迫る表題作ほか、伝説の歌舞伎役者・沢村田之助の半生を描いた「女形の歯」など四篇を収録。異色歴史小説集。
数多くの小説に取り上げられ、映画にもドラマにもなってきた歴史上の人物。「春日局」というその名前は良く知ってはいるのに、実はいったい何者なのか私自身は全く知らない、ということに今更ながら気がつきました(もちろん知らないことなんて他にもいっぱいあるのですが)。次のNHK大河ドラマになるらしく、来年は「お局様」ブームがくるのかも? であればこれを機会に一冊「春日局」ものを読んでみようと思い立ちました。そこで本屋さんで真っ先に見つけたのがこの本です。杉本苑子さんの小説は初めて読みます。
表題作の「春日局」をはじめ、歴史上の人物を扱った全五編からなる短編集です。特に「春日局」は、大河ドラマになるくらいの人生を送った人物であるにもかかわらず、文庫版で100ページ足らずの短編にまとめられており、とっかかりとしては非常に読みやすい本でした。いや、それは単に長さに特徴があるのではなく、どちらかというとコミカルに描かれたその文体からして、親しみやすさを感じさせるのかもしれません。
時代小説好き、江戸時代好きと言いながらも、この有名な女性が三代将軍徳川家光の乳母であったことさえ、この本を読んで初めて知りました。春日局という人の逞しさに感心すると同時に、徳川幕府黎明期にして、すでに江戸中期や後期など顔負けの激しい後継者争いがされていたことにも、驚きを感じたほどです。しかし考えてみれば、まだ戦国の空気を残していたからこそ、えげつないことが数多く行われたと言えるのでしょう。また一方で、三代将軍家光公の人物像には別の意味でショックを受けましたけど(^^;
他の四編は「春日局」級ではないけれども、歴史上にいくらかの伝説を残している人物を扱ったものばかりです。そしてこれらもまた、我が道を突き進む人の逞しさをコミカルに描いた物語。もともと文字数の多い本ではないこともあって、軽妙な語り口の文章はすらすらと読み進ることができました。ただし「女形の歯」だけは若干雰囲気が異なります。内容の重さに対し、文章があっさりしているがために、むしろ悲壮感が感じられます。
ということで、初めて読んだ「春日局」。とても興味を持ちました。大河ドラマではきっと、この杉本苑子版とは全く違った人物描写がされるはずです。もっとシリアスに、ヒロインとして彼女を扱った小説も読んでみたいと思いました。そして同時に杉本苑子さんの他の作品にも俄然興味を持ちました。
【お気に入り度:★★★★☆】