- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 新人物往来社
- 発売日: 2012/07/12
- メディア: 新書
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江戸で小間物商を営む佐一郎・お志津の若夫婦は、箱根湯治の帰途、雨のために戸塚宿で足止めになった。そして、やはり足止めの老女との相部屋を引き受ける。不機嫌なお志津をよそに、老女の世話を焼く佐一郎。その夜、風の音に混じって老女のすすり泣きで目を覚ました佐一郎に、老女が語り出したのは、五十年前の奇怪な出来事だった…。表題作はじめ6篇を収録。収録の「お文の影」では、『日暮らし』の岡っ引き・政五郎とおでこの三太郎が謎を解き明かす。また「討債鬼」では、『あんじゅう』の青野利一郎と悪童たちが奮闘するなど、他のシリーズの登場人物たちが縦横に活躍する傑作集。
久々の宮部みゆきさん作の時代小説です。文庫新刊ですが、普通の文庫本とは違って少し縦長の版。中身も上下に段組されたちょっと変わったスタイルです。なので全体の分量がよく分からないのですが、宮部みゆきさん本人による紹介文では「読み切りの江戸怪異譚集としては過去最大の分量の本になった」と書かれています。そうは言っても非常に読みやすくて、夏休み深夜の読書としてはピッタリな内容。わずか二晩で読み切ってしまいました。
内容は表題作含めて六編のそれぞれ独立したお話しが収められています。怪異譚集とは言え背筋がゾッと寒くなるような恐ろしいお話し… と言うわけではなく、どことなくほのぼのした雰囲気なのは、宮部みゆきさんらしいと言いますかなんと言いますか。なので全体的に怪談と言うよりはファンタジーと思って読んだ方が良いと思います。
特に「博打眼」はコメディ調と言っても良いくらい。どうにも設定が馬鹿馬鹿しいと思えてしまう一方で、ハラハラドキドキかつほのぼのした良い雰囲気のお話しです。「坊主の壺」と「野槌の墓」は少し重くて怖いストーリー展開ですが、落ちが綺麗で読後感は悪くありません。「討債鬼」に至っては怪談どころかファンタジーですらなく、人の心の闇とそれに苦しめられる人々の開放の物語。いずれも共通するのは登場人物達が魅力的なこと。彼ら彼女らが不思議な現象に恐れるというのではなく、立ち向かう姿が物語展開の筋となっています。
そんな中でも「お文の影」は最も怪談らしいお話しですが、ここには何と「ぼんくら」シリーズに登場する政五郎親分とおでこが登場します。政五郎親分が出てくると言うことで、怪談でありながらもミステリー調というか、謎解きの要素が含まれています。お文という少女にいったい何があったのか?それを解き明かす鍵はやはりおでこの頭の中に詰まっていました。それにしても怖いと言うよりは、切ない悲しい内容ですが読後感はなぜか悪くありません。
これら比較的軽いノリの話が多い中で異色を放つのが表題作の「ばんば憑き」です。雨の夜に語られる老女の昔話… という設定だけ聞けば怖い話が想像できますが、そこはやはり宮部みゆきさんらしい魅力的で明るい人物描写が生きているため、他の物語同様にこの本がうっかり怪奇譚であることを忘れてしまっていました。油断してるところにやって来た強烈な落ち。そしてそれに輪を掛ける佐一郎の思い。本当に彼は空想しただけで我慢できただろうか? いや、もしかしたら…
と、割り切れない何とも後に引く結末でした。
宮部みゆきさんの怪奇譚は他にも何冊かあって、「三島屋変調百物語事始」シリーズや、古いところでは「あやし」というやはり短編集があります。それに、だいぶ昔に読んだ記憶がある「堪忍箱」も怪奇譚ではなかったかと思います。後の二作品は「ばんば憑き」に近いような、かなり重くて怖いお話しばかりだったと思います。また「あかんべえ」なども怪奇ものですが、こちらはファンタジー要素が強い小説でした。その他、宮部みゆきさんが書く時代ものは、意外なくらいに怪奇ファンタジーものが多いです。
安心して読める面白くて楽しいお話しも良いですが、個人的にはやや救われなくてもやはりズシンと心に響くようなインパクトのある怪奇物語のほうが好みではあります。そう言う意味では、今作は全体的にやや期待外れだった感は否めません。でも★四つつけておきます。
【お気に入り度:★★★★☆】
ところで余談ですが…
先日の富岡八幡宮例大祭の御輿連合渡御で、私が暮らす町内会の寄付リストに毎回必ず宮部みゆきさんの名前が入っています。今回ももちろん筆頭に名前が掲げられていました。今現在この町内に住んでいるわけではないようですが、宮部みゆきさんはどうやらこの町と深い関わりがあるようです。
という、我が故郷が排出した有名人自慢でした(^^;