酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

初めてのアストロトレーサー:福島県のとある山里で天の川を撮る

 前回の「一年間使い続けて分かったPENTAX K-1の良いところとイマイチなところ」というエントリーの中でも書いたように、K-1に搭載されているアストロトレーサーは今まで一度も使ったことがなかったのですが、先週末にとうとう初めて使ってみるチャンスに恵まれました。

 ネットによく流れてくる満天の星空を写した写真は、どれを見てもとても印象的で「自分でもこういうの撮ってみたいなぁ」とずっと思っていました。しかし経験も撮影ポイント情報もなにもない初心者にとっては、思い立ったらすぐ出かけるみたいな訳にもいかず、手を出せないでいました。

 しかし先の週末、たまたま福島県のとある田舎へ泊まりがけで出かけることになり、もし晴れたらついでに星空撮影に挑戦してみようと、念のため三脚はじめとした撮影機材を持って行くことにしました。ラッキーなことに当日は雲一つない文句なしの快晴で、この時期にしては透明度もあって、絶好の天体写真日和となりました。

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 日が暮れて夜になり、外に出て空を見上げてみれば、東京では絶対にお目にかかることの出来ない満天の星空です。しかも月も出ていません。思わず「うわー!」と声を上げてしまうほど見事な星空をCMOSセンサーに焼き付けるべく、アストロトレーサーを使って初めての星空撮影に挑戦してきました。

撮影場所

 撮影場所は個人の私有地なので、いつものようにGoogleマップを貼って「ここ!」と明示することは出来ません。大ざっぱに言えば、タイトルにつけたように福島県内の静かな山里で、携帯電話の電波も地上波のテレビ放送も届いてない、というような静かな場所です。

 比較的大きな市街地からそれほど遠いわけではないのですが、現地は街灯はおろか、周囲は森に囲まれていて、近くに他の民家もないので夜になると文字通り真っ暗。星空を見たり撮ったりするにはかなり条件の良いところです。

準備した機材

 まずはカメラ。当然のごとくPENTAX K-1を使用しました。高感度性能も優れているし、何よりアストロトレーサーを内蔵しているので、星空写真にはぴったりな一台です。

 レンズについては、特定の天体を撮りたいわけではなく、景色としての星空を撮りたいと言うことで、超広角ズームのDFA15-30mmF2.8を持って行きました。解放F値が明るいのも星を撮るには重要なことです。

 そして三脚。以前から使っているマンフロットの190カーボン4段の3way雲台付きを持って行きました。星空を撮るには、カメラを上に向けて煽りたくなるのですが、3way雲台は上下方向の可動範囲が広くありません。煽り角が足りない場合は、三脚の脚を一本だけ開度を変えて土台ごと傾けるとか、雲台を前後逆に使うなどして対応します。

Manfrotto プロ三脚 190シリーズ カーボン 4段 MT190CXPRO4

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Manfrotto 3WAY雲台 X-PRO クイックリリースプレート付き MHXPRO-3W

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 小物で必須なのがケーブルレリーズ。純正品も互換品もバルブ用のロック付きがほとんどですが、K-1はタイマーが設定できたりするので、シャッターボタンのロックはなくても構いません。なのでケーブルレリーズの代わりにリモコンを使うのも多分アリだと思います。

PENTAX用 リモコン 互換品 VS20,Q, K-5, K-7, K-r, K-x, K-m, K20D, K10D, K200D, K100D,K-30,他 対応 日本語簡易説明付き

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 あとは今見えている空のどこにどんな星やら星座があるのか?天の川はどっち方向に流れているのか?を是非知っておきたくなります。そのためにiPadに星座早見アプリを入れて行きました。ですが結果的にこれは無駄に終わりました。というのは現地は携帯電話の電波が届いておらず、インターネットから隔絶されていたからです。でも、ないならないでなんとかなりますし、そもそも予習しておくべきなのかも。

スカイ・ガイド – 星図

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星空撮影の基礎を勉強する

 さて、星空を撮るにはそれなりの手順やコツが必要です。ですが、思っているよりは簡単で、適当に空に向けてシャッターを切るだけで、びっくりするくらいたくさんの星が写って感動したりします。

 色々予習しておこうと思ってネットをさまよった中では、以下のページの解説が非常に役に立ちました。

 これを基礎として、今回はPENTAX独自のアストロトレーサーを使用するという手順が加わることになります。

アストロトレーサーをONにして精密キャリブレーションを行う

 アストロトレーサーはPENTAX独自の機能で、GPS、地磁気センサー、加速度センサーに加え、磁気浮上式のセンサーシフト手ぶれ補正機構が揃って始めて実現できるものです。

 GPSと地磁気センサーを搭載していない機種ではO-GPS1という外付けユニットが必要ですが、K-1とK-3IIは全てカメラ内に内蔵されているので、何も追加することなくアストロトレーサーが使用できます。

 簡単な動作イメージはこの動画の通りです。

IMG_8515
 アストロトレーサーはメニューからONにした上で、さらにGPSをON、撮影モードをバルブにするだけで使用できます。

 アストロトレーサーが正常に作動するためには、地磁気が正しく計測できることが重要ですが、カメラの中にも外にも、磁性体はたくさん存在しており、その帯磁の影響を補正しておく必要があります。

 アストロトレーサーの設定メニューの中に「精密キャリブレーション」という項目があるので、これを撮影開始直前に1回だけ実行しておかなくてはなりません。

 その精密キャリブレーションが一つの関門なのですが、やり方についても以下のような公式動画が用意されています。K-70にO-GPS1を組み合わせた場合の動画ですが、K-1でもやることは同じです。

 撮影場所でカメラと三脚のセッティングが済んだら、まず最初に1回だけこの作業を行います。理想的には三脚ごと回すべきなのでしょうが、さすがにそれは無理なので、クイックシューのプレートをつけた状態でカメラをぐるぐる回してキャリブレーションを行いました。

 OKが出るまで結構時間がかかるとの口コミもありましたが、それほど気難しくはなく、やってみたらすぐにOKが出ました。レンズを変えたりしたらまた磁気環境が変わるので、再度キャリブレーションする必要がありますが、今回はDFA15-30mmのみでレンズ交換はしなかったので、最初に1回実行しただけで、以後は撮影するだけです。

赤色画面表示に設定する

 もうひとつ、K-1でサポートされている星空撮影用の機能が、昨年11月にリリースされたファームウェアVer 1.4で追加された、赤色画面表示です。

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 確かに足下も見えないくらい真っ暗な中では、アウトドアモニター機能で液晶の明るさを最低に設定しても、まだまぶしいです。その場合、赤色画面表示をONすると、背面液晶はこのような状態になり、目への刺激が緩和されます。なるほど、これは実用的です。

 ただしこの状態では、ライブビュー画像や撮影結果も確認するのは無理です。星空撮影時はそういうことしないものなのでしょうか?

とにかく撮影してみよう!


 さて、色々と事前準備について書いてきましたが、あとは実際の撮影結果を貼りながら説明していきたいと思います。

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 まずは北西方面にカメラを向け、ズームはワイド端の15mmに固定。試しにISO800、F2.8解放、約90秒露出をしてみました。おおぉ!すごくたくさん星が写ってる! 真ん中あたりには北斗七星があります。下の方に写っている一筋の光は恐らく人工衛星か何かではないかと思います。

 なお、カメラを上に向けすぎているので光学ファインダーを覗くのは一苦労します。だからといってライブビューにすると画面が真っ暗で、端っこに映り込む木々の位置すら分かりません。

 ちなみに今回ノイズリダクションは高感度NRも長秒時NRもオフにしてあります。今回試用した設定の範囲内ならK-1の場合NRはオフで問題なさそうです。

KONE6353.jpg
 少しカメラを西に向けました。露出はちょっと調整して、ISO1600で60秒に変えてみました。

 画面の左の方、つまり南西方向にひときわ明るい星があります。これは肉眼でもかなり明るく光っていて目立ちました。後で調べたところ、どうやらこれは木星のようです。

 なお、PENTAX K-1ではバルブ設定時にタイマー機能が使用可能で、10秒単位でシャッター開放時間(=シャッタースピード)を設定しておくことが出来ます。なので、露光時間を別途管理する必要がないのでとても楽ちんです。もちろんタイマーをオフして純粋なバルブにすることも出来ます。

KONE6358.jpg
 さらにカメラの向きを変え、今度は東方面です。露出も少し変えてISO1600で100秒です。やや!画面の下の方に写ってるモヤッとしたものは、もしや天の川ではないですか!?

 感度を上げ露光時間を延ばすと、当然星はよりたくさん写りますが、背景の夜空が少し浮き上がってきます。ちなみにここに貼ったカットは全てRAWファイルをLightroomで調整現像しています。それを前提にすれば多少夜空が明るく浮き上がってもたっぷり露出をかけた方が、星が明るく写る分、良い仕上がりを得やすくなると思います(もちろん限度はありますが)。

 なお、星空撮影で一番神経を使うのはピント合わせ。色んな方法があるようですが、今回は明るい星を探してライブビューでx10に拡大し、マニュアルで合わせました。木星くらいの明るさがあれば、ライブビューでもよく見えます。点像が一番シャープになるところを追い込んでいけば、比較的簡単に合わせられます。

アストロトレーサーの効果を確認してみる


 既に貼った上記3枚もアストロトレーサーをONにして撮ったものです。星も点になってるし、画面端っこに写っている周辺の木々についても、サムネイルで見る分には特に違和感を感じないかも知れません。アストロトレーサーの効果についてもう少し詳しく見てみましょう。

アストロトレーサーON

KONE6364.jpg
 まずはトップに貼ったのとそっくりな一枚。ただしこちらは感度をISO800に落とした代わりに露光時間を倍の120秒にしてあります。ぱっと見た感じ星空の写り具合は似たような感じになりました。

 ちなみにちょうど東の方角から天の川が上ってきたところ。実は私の目が悪いせいか、肉眼ではよく分からなかったのですが撮影後にK-1の小さな液晶画面でポストビューを見た瞬間「天の川だ!」と叫んでしまいました。本当にこんな風に写真が撮れるなんて。うむ、超きれい!

KONE6364.jpg
 さて、このカットから右下に写っているログハウスと木のあたりを拡大するとこんな感じです。星がほぼ点像なのはアストロトレーサー機能で追尾したおかげ。その一方で動かない地上の物体は流れて写っています。

 この流れ方は露光時間とレンズの焦点距離、およびカメラを向けた方角で、いろいろ変わるはずなので、これはあくまでも一例に過ぎません。

アストロトレーサーOFF

KONE6361.jpg
 次に同じ状態でアストロトレーサーをOFFにし、ISO800で120秒露光してみました。この写真の左側には北極星が写っています。なので画面左方向はほとんど点像ですが、右の方に行くに従って星が流れているのが、サムネイルでも分かるかと思います。

KONE6361.jpg
 先ほどと同じように切り取ってみると、こんな感じ。ログハウスや木々はしっかり写ってるのに対し、星は斜めの線にになってしまいました。15mmという超広角レンズでも三脚固定で120秒露光は無理と言うことになります。

 ですから、これだけたっぷり露光しつつ、星を点像に写すにはアストロトレーサーか、赤道儀が必要になることが分かりました。

広角歪みの影響

 さて、アストロトレーサーを使う上での制限事項というか、気をつけるべき事が一つありました。それが広角歪みの影響です。

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 これはトップに貼ったのと同じ写真。ISO1600で露光時間は60秒です。これでも星はしっかり点像に写り、アストロトレーサーの効果は抜群に出ています。一方地上風景のブレは最小限に抑えられていてちょうどバランスが良いところかも。

 しかしこの画像の右上端付近を拡大してみるとこんな感じになっています。

KONE6365.jpg
 右端に行くに従って星が放射状に斜めになっているのが分かるでしょうか? これは単純にレンズの収差によって点像が崩れているだけではなく、アストロトレーサーと超広角レンズを組み合わせたときに生じる「広角歪み」の影響が表れています。

KONE6364.jpg
 その証拠に同条件のまま120秒露光するとこうなります。画面端は明らかに放射方向に線が長くなりました。一方画面中心部はしっかりと点像となっています。

 アストロトレーサーは、赤道儀と違って天球の回転運動をCMOSセンサーの平面の動きに変換しているので、広角レンズになるほど画面位置によって星の動きにずれが生じてしまいます。これ原理的に避けることが出来ないアストロトレーサーと超広角レンズを組み合わせたときの制限事項になります。

 以下の「PENTAX K-1完全ガイド」によると「24mm以下のレンズでは露光時間を30秒に抑えるように」とのTIPSが載っていました。この記述は撮影後に読んだのですが、今回の撮影時にはそんなことまったく考えてもいませんでした。

リコーイメージング PENTAX K-1 完全ガイド (インプレスムック DCM MOOK)

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  • 作者: 吉村和敏,大山顕,洲?秀憲,中西敏貴,横木安良夫,大和田良,小林哲朗,茂手木秀行,HARUKI,萩原史郎,佐々木啓太,桃井一至,岡嶋和幸,伊達淳一
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 しかし知らずにやってみた私の個人的な経験から言うと、15mmでも60秒くらいは十分実用的な範囲なのではないかと思います。

インターバル合成もやってみよう


 さて、PENTAX K-1を初めとしたリコーイメージングのカメラには、アストロトレーサー以外にも天体写真を撮るための面白い機能が搭載されています。

 それはインターバル合成機能です。これは以前K-3を使って都内で試してみたことがあります。

 星を点像ではなく軌跡で写すと同時に、明るい地上の夜景などを同時に写し込むことが出来る機能です。インターバル撮影機能があれば、後からフォトショップなどで比較明合成することで同じ結果を得られますが、PENTAXのカメラだとインターバル撮影しながら自動的にカメラ内で合成してくれるので楽ちんです。

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 はい、今回インターバル合成を使って得られた写真がこれ。北極星を中心にグルグルと線を描く星空が撮れました。これはISO800で6秒露出を300回繰り返した結果をカメラ内合成したものです。

 真ん中あたりがぼんやり赤く色づいている原因はよく分かりませんが、それにしても見事な軌跡が撮れました。北極星の左上にはかすかに流星も写っています。

 インターバル合成は一枚撮るのに時間がかかるので、今回はこれ一枚だけで止めてしまいました。こんなにきれいに写るなら、眠気と戦って夜通しあちこちカメラを向けて撮ってればよかったかも、と少々後悔しています。

もっと星空写真を撮ってみたい

 ということで、初めての星空写真撮影、はじめてのアストロトレーサー体験でした。

 この機能は使わない人はまったく使わないニッチなものですが、一方で使う人にとっては絶大な効果が得られるものです。もちろん本気の人は赤道儀を迷わず使うのでしょうが、広角歪みがあるとは言え特別な機材なしに三脚とケーブルレリーズさえあれば、簡易的にここまで出来てしまうのだから、アストロトレーサーは星空撮影の敷居をかなり下げたのではないかと思います。

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 なお、今回の撮影場所は昼間に撮るとこんな感じの場所です。見るからに星空写真を撮るのに絶好なロケーション。目の前に建っているログハウスは、私の古くからの友人が約20年前に建てた本物のログハウス(しかもDIYによる)です。

 以前からよく遊びに行かせてもらっていたので、どんな場所かは知っていました。なので、天候さえ何とかなればここで星空写真が撮れる!と楽しみにしていたのですが、こんなに上手くいくとは正直思っていませんでした。

 ということで、星空写真も嵌まってしまいそうです。ただし撮影ポイント探しが重要なキーポイントですし、さらに天気と月齢がうまく合わないといけません。いくらアストロトレーサーがあっても、依然としてハードルはそれなりに高いですが、また今度チャンスがあれば星空写真に再挑戦してみたいと思います。