酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

コシナから発掘された最後の新品 Carl Zeiss Distagon T* 2/35mm ZK

 今年はレンズとカメラにお金を使いすぎたので、年が明けてCP+あたりで、来年発売される予定のDFA単焦点レンズに関する情報がもう少し明確になるまで、じっと大人しくしていようと思っていたのに、そういうときに限って予想もしなかったことが起きてしまいます。警戒していたのは年末に始まった「PENTAX プレミアムレンズキャッシュバックキャンペーン」で、これに釣られてDFA24-70mmF2.8なんかに手を出さないように気をつけていたのですが、罠は思わぬ方面からやってきました。

 それがこの単焦点レンズ。しかもMF。コシナ製のカールツアイスのクラシックシリーズは、現在でもDistagon 15mmからPlanar50mm、APO Sonner135mmまで9本がラインナップされています。さらにデジタル世代向けに設計の新しいOtusシリーズやMilvusシリーズがありますが、いずれも対応マウントはEFとFのみ。クラシックシリーズのKマウント版はかつて販売されていましたが、5年ほど前にディスコンになりカタログから消えてしまいました。

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 当時フルサイズのデジタル一眼レフがなかったKマウント向けは特に売れなかったのでしょう。流通量も少なくあまり中古でも見かけることがありませんが、そんなクラシックツアイス Distagon 35mm F2を新品で手に入れてしまいました。

どこから出てきたのか?

 そもそも何年も前にディスコンになったはずのこのレンズ、どこに死蔵されていたのでしょうか? どこかの郊外の小さなカメラやの店先に置かれたまま忘れ去られていた... ということではありません。事の発端は大阪のその筋では有名なカメラ屋さん、八百富写真機店の以下のようなツイートにあります。


 何とも不思議な話です。どういう経緯で探してもらおうと思ったのか? どうして探すと12本も出てくるのか? それらの死蔵品はこの数年間、どういう扱いを受けていて、そのまま放置されていたらどうなっていたのか? その辺は一般ユーザーには分からない業界、あるいはメーカーの事情というか仕組みが何かあるのかも知れません。あまり深く考えないようにしましょう。

 私がまだPENTAX K-7を使っていた頃にはコシナ製ツアイスレンズのKマウント版は現役で、ちょっと欲しいなぁ、と思っていたものの、お値段とかMFであることなどなど含めて手が出せずにいました。でもその後、いろいろな情報を見聞きするうちにMakro Planar 2/50mmはすごい!という話にすっかり感化されて、それ欲しい!と思ったときには既にディスコンになっていました。

 しかし今回出てきたのはDistagon 2/35mm です。これがMakro Planarだったらと思ったものの、でもやはりZeissの一本くらい持っておきたいよね、と葛藤している間に、この12本も瞬殺で売り切れてくれたら諦めもついたのですが、このツイートがされてから週末をはさみ数日経った後、追い打ちで次のようなツイートをまた目にすることになります。


 えー、なにそれ。「12本限定!」だと、「ふーん...」で流せるのに、「残り3本!」と言われると俄然焦ってきます。

 で、私はこういうつぶやきをしながら、裏では発注ボタンを押していたのでした。仕方がない、これは運命だと思って買っておこう。ダメなら手放せばいいや、と。

初めてのZEISS

 ということで、実際に手元にやってきたのはつい先日、12月17日のことでした。死蔵品がメーカーで発見されてから納品されるまでの20日間くらいはいったい何が行われていたのか? 実は完成品が見つかったわけではなくて、部品が見つかって組み立てていたのだろうか? などと要らぬことを考えつつ待っていました。

 そんなことはともかく、届いた製品を見てみましょう。

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 箱です。ちゃんと"ZK"と書かれているKマウント版専用箱です。倉庫の奥で埃を被ってた、なんてことは無さそうな綺麗な箱です。

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 中身はこんな感じです。レンズ本体に前後キャップ、専用フード。フードは金属製でバヨネット式です。

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 説明書や保証書に混じってこんな紙切れも入っていました。本家ツアイスの認証を取ったよ、という証明書。誰だか分からないけどサイン入りです。でもこの紙切れのレンズ構成図はどう見てもPlanarですけどね。いや、こういうちょっとした演出は嬉しいです。ほーさすがZEISS!と。こういうのって、ソニーツアイスにも付いてくるんでしょうか?

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 前玉です。35mmという画角は今では標準域と言っても良いぐらいですが、結構きつい凸面を持っています。T*コーティングのおかげか、透き通っていてガラス面がどこにあるのか分からないくらい。PENTAXのレンズもこういう透き通った前玉というのが多くて、勝手にコーティングが優秀な証拠と思い込んでいますが、まぁ実際はそう単純ではないのでしょう。

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 マウント側です。後玉はそんなに巨大ではありません。マウント面には一応電子接点が付いていますが、これは絞りリングのAポジション伝達のためでしょうか? 実際にはレンズ情報がボディに伝達されることはありません。

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 ピントリングと絞りリング周辺はこんな感じ。無限遠から最近接撮影距離(30cm)までの回転角は約120°くらいですが、しっとりと粘りがあるピントリングの感触はさすがMFレンズです。寸分のガタも感じさせず、ピタッと思ったところで止まります。

 絞りリングはAポジション付きで、通常はボディ側で絞り制御が可能ですが、後述する設定をしておけば絞りリングを使用することも可能。絞りは1/2段ごとにクリックストップが付いています。

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 なお、純正レンズの中にはFA31mmF1.8AL Limitedという似たようなスペックのレンズがあります。そしてこれもまたその独特の描写性能で人気がある一本。で、私も持っています。

 大きさはこの通りほとんど同じですがDistagonのほうがやや全長が長め。フィルター径はどちらも58mmで共通です。一番違うのは重さかも知れません。Distagon 2/35mmは530gほどの重量があってFA31mmよりも200gほど重たいのです。この差は結構大きくてかなりずっしりと感じます。

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 はい、早速PENTAX K-1に取り付けてみました。ZEISSがようやくオリジナルの画角で隅々まで使えるようになったKマウントデジタル。ZKツアイスのディスコンがちょっと早すぎたのではないでしょうか。いや、K-1の登場が遅すぎたのかも。

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 見ての通り、とてもよく似合います。眺めているだけで幸せです。

K-1の設定を確認する

 さて、KAFマウント世代ではない古いKAマウントレンズを使用する場合に、カメラ側の設定で注意することがあります。私は今までKAFレンズしか使ってこなかったので気にしたことがなかったのですが、このDistagon 2/35mmはMF専用のKAマウントですので、この際しっかり確認しておきましょう。

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 まずはカスタムファンクションの26番、「絞りリングの使用」です。デフォルトでは「禁止」となっており、絞りリングに寄る絞り制御は出来ないようになっています。KAマウントであればAポジションに設定し、ボディ側から絞り値の変更が可能です。が、AポジションのないKマウントレンズや、アダプターを介してM42マウントのレンズなどを取り付ける場合は、この設定を必ず変更する必要があります。

 また、Kマウントの場合でも「許可」しておけば、絞りリングが使用できるので便利です。この設定を変えても普通にKAFマウントのレンズを使用する場合に問題は無いので、とにかく「許可」にしてしまうのがお勧めです。同様の設定はK-1以外の他のカメラでも同様です。

 ただし、絞りリングを使用して撮影した場合、カメラが絞り値を知る術がないので、Exifに絞り値が記録されなくなりますので、その点は注意が必要です。

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 それから、このDistagon 2/35mmもそうですが、レンズ情報を伝えるROMの入ってないレンズの場合、電源ON時に毎回焦点距離を訪ねるこのような画面から始まります。これは手ぶれ補正のために使用されると同時に、ここで入力した値がExifにも記録されます。なので、ここで正しくレンズ焦点距離を入力する必要があります。単焦点レンズであれば特に問題ないでしょう。前回の設定を覚えていますので、取っ替え引っ替えしないかぎり、毎回OKボタンを押すだけです。

 ただ、何かの拍子にうっかりこの設定が動いてしまったまま、使ってしまうという失敗が起こりがちです。というか、早速そういう失敗をしてしまいました。これってデフォルト値を決めて固定できないんですかね。必要なときだけ変更するようにしたいです。まぁ、オールドレンズをたくさん持っていて使い分ける人には、それでは困るんでしょうけど。

早速開放同盟してみる

 ということで、早速撮りに行ってみましょう。久しぶりのマニュアルフォーカスですが、ちゃんとピントは合わせられるでしょうか?


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 いきなり開放です。おぉ!ピントはちゃんと合ったかな? じわっとフォーカスが外れていくにしたがってフリンジが出ますね。Lightroomで簡単に消せますが、これは敢えて残してあります。でもなかなか良い感じです。細い枝のようなものはボケるとザワザワしがちですが、あまり違和感がありません。

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 なんかアンダー目に仕上げたくなってしまいます。冬の光がそうさせるのか、ツアイスがそうさせるのか?

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 「クラシックシリーズ」と言っても、そんなに古いレンズではありません。いや、むしろ比較的新しいデジタル世代のレンズです。なのでこの程度の逆光はへっちゃら。しっかりとコントラストを保ってくれます。

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 最近接撮影距離は30cmで、最大撮影倍率はたいしたことありませんが、感覚的にはかなり寄れます。近寄りすぎてピントリングが回せなくなって距離を調節... ということはほとんどおきません。でも、近距離はピントがより厳しくなるので気をつけないとピンぼけ写真を大量生産することになります。

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 MFが一番苦手とするのは咄嗟の撮影。もちろんピント合わせの腕と目の問題もありますが、じっとり粘るピントリングのトルクは、そんなに咄嗟にピントを合わせるような使い方は考慮されていなさそう。でもじっと息を殺して相手がピント面に入ってくるのを待てば何とかなります。

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 石畳とか無意味に撮ってみたくなります。やっぱりアンダー目。その方が質感が出ますよね。

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 散り遅れた紅葉。枝はスカスカですが、残ってる葉っぱは意外に綺麗。周辺光量落ちも味の一部です。四隅で急激に落ちるのではなく、だらだらと減光していきます。もちろん現像時に補正するような野暮なことはしません。

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 近所のミニ千本鳥居。実際は二十本くらいですけど。

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 ここには江戸時代から残る庚申塔とか狛犬とかゴロゴロしています。35mmですからとろけると言うほどボケませんが、なだらかなボケは本当に綺麗。一方でピントの合ったところはキリッとしています。

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 ここまで撮ってきて、MFでも意外ににいける!と気をよくしていたのですが、時々こうして大外ししてしまいます。でも、まぁいいか!と思わせる心のゆとりが大切。FA LimitedシリーズはK-1で使うまで、AFではピントがまったく来なくて苦労しましたが、あれはAFに過剰な期待をしていたからかも。FA LimitedもMFで使った方が満足できるレンズなのかもしれません。いや、K-1でバシッとピントがくるようになったので問題ないですけど。

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 というか、自然とこうして少しピント位置ずれてもごまかせるような撮り方を覚えてしまいました。それにしても灰と言い煙と言い、質感が手に取るように写ります。さすがツアイス、さすがK-1。

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 ということで、ここまでほとんど開放で撮っていたことに気付きました。この無限遠の風景でも絞るのが惜しくてF4.0止まり。こんなことじゃいかん! ズバッとF8くらいまで絞ってカミソリ描写になるかどうかも試さなくては、思いつつ最初だから仕方ないよね、ということでお許しください。

 なお今回撮影した写真は、一部焦点距離入力を間違えて70mm設定で撮ってしまったものが何枚かあります。幸い絞り開放でシャッター速度が速かったので、手ぶれの過剰補正の影響はほとんど無かったようです。が、気をつけなくては。また、今回は絞りリングは使わずAポジションに設定してカメラ側で絞り値を選んだので、撮影データに絞り値が入っています。

 ということで、年末年始の楽しみが増えました。これでカメラ三昧の2016年買い物納めとしたいと思います。いや、本当に...。

Carl Zeiss Distagon T*2/35 ZK (ペンタックスKA)

Carl Zeiss Distagon T*2/35 ZK (ペンタックスKA)