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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

デジタルカメラ黎明期の遺産(その1):NEC Piconaを使ってみる

 とても懐かしいデジタルカメラを2台手に入れました。友人宅に長年死蔵されていたものが最近発見されたとのこと。捨てる前にふと思い出して私に声をかけてくれたのです。もはや実用にはならない古いデジタルカメラですが、2台ともちゃんと動くと聞いて、どんなものなのか興味が沸いてきたので、捨てる前に一度使わせてもらうことにしました。

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 まずは1台目はこれ。NECのPiconaというカメラです。NECがデジタルカメラを出したのは後にも先にもこの機種のみ。デジタルカメラ黎明期にはカメラメーカーだけでなく、家電やパソコンなどなど、いろんな分野のメーカーが試作機のような製品を出していました。これはまさにその1台です。

概要

 まずは「NEC Pcona」でググってどんなカメラなのか調べてみました。仕様は以下の通りです。

撮像素子 1/3インチ 約35万画素 原色系CCD
レンズ 4.9mm F3.8(フルサイズ換算35mm相当)
フォーカス 固定 3段階切り替え(通常、A4マクロ、名刺大マクロ)
絞り 固定
シャッター 電子シャッター(~1/10,000sec)
液晶 1.8インチMIM
記録形式 640x480ピクセル JPEG(4段階)BMP
記録メディア コンパクトフラッシュ
フラッシュ 無し
電源 単三電池2本または4本
大きさ 28x74x102mm
重量 185g
発売 1997年3月14日

 発売は今から19年前。デジタルカメラ市場としては、すでにカシオのQV-10が数年前に発売され、コンシューマー製品として可能性が模索されはじめていました。しかし、まだデジタルカメラはフィルムカメラに代わって真面目に写真を撮るためのものではなく、パソコン等で画像を扱うための入力機器的な位置づけだったのだろうと思います。そういう意味ではNECがデジタルカメラを作ったのも、パソコンの周辺機器の一つという考えがあったのではないかと思います。

 さて、仕様を見ていて驚くのは画素数です。たったの35万画素、撮影画像は640x480ピクセルという懐かしいサイズで記録されます。この頃すでにWindows95の時代でしたので、このカメラで撮った写真をPC上で開くと、常にピクセル等倍で表示されたと言うことでしょう(そもそも当時は「ピクセル等倍」という言葉も概念もなかったと思いますが)。

 豆粒センサーに固定焦点のレンズを搭載し、オートフォーカスやメカシャッター、絞り機構など機械を極力廃した小型軽量にしてシンプルな構成は、従来のカメラ的な視点から見るとずいぶん割り切った仕様であり、その後の小型、軽量、安価なデジタルカメラの基礎となっています。いえ、今やスマートフォン内蔵カメラでさえAFは当たり前、光学手ぶれ補正も入るようになっていますが、ガラケー時代の内蔵カメラって、画素数はともかく基本仕様は大体こんな感じだったように思います。

 ということは、このPiconaはカメラとしては失敗したけど、その後の携帯電話内蔵カメラへの礎くらいにはなったのかもしれません、

外観&操作系

 それでは早速実物を見ていきましょう。

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 いきなりですが大きさ比較です。iPhone 6s Plusと並べてみました。縦横のサイズはこの通りPiconaの方がかなり小さいです。ちなみに重量は200g弱でほぼ同等。カメラとしての性能は... 比べるまでもありません。

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 このカメラのデザイン上の特徴は縦型であること。富士フイルムのFinePixも初期の頃は縦型でしたが、それとも異なるスタイルで、こちらはデジタルムービータイプです。なかなか良いデザインだと思います。

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 使用時はこのように液晶部をパカッと開いて使います。

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 開いた扉の裏側に小さな液晶があります。横に90°開くだけでチルトは出来ません。なのでアイレベルまでカメラを持ち上げないと、液晶がよく見えません。そしてホットシューの下にある黒い大きなボタンがシャッターボタン。右手で構えて親指で押すことになります。

 その下に並んでる細長い四つのボタンはメニュー操作用のボタン類です。撮影時は下の二つのキーでダイレクトに露出補正が出来るという優れもの。但し1EVステップで±2EVまでです。

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 電池ボックスはこんな感じ。今回手に入れた個体は単三電池2本が入るボックス付きでした。4本仕様だとどうなっていたのだろう? アルカリ電池でも駆動できるようですがすぐになくなってしまいます。エネループを入れるとそこそこ長持ちするようです。

 それより謎の「HTML対応」のシールが気になります。HDMIではなくHTMLですよ。どういう意味なんでしょう?

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 コンパクトフラッシュのスロットは特に蓋もなく、本体下から差し込むだけ。

 そのコンパクトフラッシュも最近のGB単位のカードが使えるかどうかはわかりません。引き出しの奥を漁ったら20MBのカードが出てきたので今回はそれを使いました。古いデジカメをこうやって復活させようとした場合、メモリーカードの入手性が電池と並んで大きな難関になるかもしれません。今回は幸いどちらも問題ありませんでした。

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 レンズ部です。豆粒センサー用の単焦点かつ固定焦点なので小さいです。でも、ガラケー時代を含めて携帯電話内蔵カメラのレンズよりは立派に見えます。レンズ銘がプリントではなく、彫り込んであるところは無駄にコストがかかってます。

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 レンズ横にはフォーカススイッチがついています。"NORMAL"が通常モードで無限遠から0.6mまでのパンフォーカス、"A4/LT"がA4サイズがちょうど画面一杯に写るくらいの近接撮影、"CARD"は名刺サイズが画面一杯になるくらいの近接撮影。最短撮影距離は10cmほどだそうです。

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 フォーカススイッチの反対側には電源スイッチ。一番上の"PLAY"が再生、次が"OFF"は電源オフ、その次の"CONT"は連続撮影、一番下の"REC"が通常撮影。それにしてもいったい何をどう意図するとこういう並びになるのかよく分かりません。電源OFFしようと思ったのに再生モードになってた、なんてことが頻発しそうです。ストロークも短いし、古くなってるだけかもしれませんが、クリック感が強すぎて操作しづらいです。

 ちなみに連続撮影では最短秒間4コマで6枚連続で撮影するモードです。ただしこの場合、記録サイズが縦横それぞれ半分の320x240ピクセルになるそうです。

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 メニューを表示するとこんな感じ。小さな液晶、低い解像度とコントラスト、そしてギザギザなフォントが時代を感じさせます。

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 液晶を開いた内側には大きなダイヤルがあります。これは液晶の明るさ調節用のダイヤルです。とてもアナログですね。

とにかく撮影してみた

 ということで、早速写真を撮ってみましょう。以下に何枚か貼りますが、いずれもJPEG S-FINEで撮影したままの撮って出しです。

 最初に書いたとおり、これらはサムネイルではなくピクセル等倍で表示されています。クリックするとFlickrに飛びますが、拡大されるわけでもなく意味はありません。また、Exifも記録されておらず、撮影データも表示されません。

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 まずは遠景。天気がよくて青空の朝。撮影条件はもっとも良いはずですが... ボヤボヤです。マクロモードになってないことは確認したはずなのですが、かなり残念な感じ。

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 同じく遠景。ビルの窓に朝日が反射しています。画面を縦断する白い棒はCCD特有のスミアですね。明るすぎてオーバーフローした電荷が転送に伴ってどんどん隣りの画素へ溢れていく現象でしたっけ? とても懐かしい現象です。で、その影響なのかゴーストみたいな薄い縦縞が画面中あちこちに出ています。こうしてみると、デジタルカメラはデータ保存のためにデジタル化するだけで、撮像部は依然としてアナログだと言うことを思い出しました。

 さてここで撮影中の使い心地について触れておきたいと思います。かなりヒドいものです。

 一番の問題は液晶の品質。コントラストがどうとか明るさがどうとか言う前に、こんなので写真が撮れるか!と投げ捨てたくなるほどの紙芝居表示なのです。フレームレートは感覚的に5fpsもないくらい。フレーミングを決めるのも一苦労です。

 さらに、もともと1.8インチという小さな液晶なのに、ライブビュー画像はさらにUIに埋もれて縮小表示されます。この状態では何が画面内に入っているのか把握するのも困難なほど。ただし、シャッターボタンを半押しすると、ライブビュー画像が全画面になります。それでも画像は不鮮明。そもそも撮像素子が35万画素ですし、撮影結果がこの通りなのだから、ライブビュー画像が不鮮明なのは当たり前なのかも知れません。

 そして何とかフレーミングを決めてシャッターボタンを押すと、今度はひたすらカードへの書き込み待ちが発生します。これが笑ってしまうくらい長くて、JPEGのS-FINEで撮影した場合、感覚的には15秒ほど待たされます。画面の端に出る「書込中」の小さな赤い文字を見つめながらじっと待つ時間は永遠に感じられます。書き込まれたファイルサイズはせいぜい150KB程度なのに。

PIC0008.jpg
 閑話休題。次はとあるビルのエスカレーター。外光もそれなりに入ってるので、室内としては明るい方です。解像度的にはぼやけていて粗いなりに、明るさや色味なんかはそこそこその場の雰囲気が結構うまく表現されています。

PIC0012.jpg
 マクロモードにしてみました。一番近くまで寄れる"CARD"モードです。ライブビュー画像ではピントなど確認しようもないので、撮影距離は勘です。思ったよりしっかり写りました。ただ緑の写り方がやや暗すぎるように思えます。ただ、まだ画像処理エンジンなんてものがない時代なので、JPEGへのエンコードも相当に原始的なのではないかと想像します。

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 踏切にさしかかった電車を撮ってみました。上に書いたように一枚撮るのに15秒くらいかかるので、シャッターチャンスは1回だけ。不鮮明で暗くて小さな液晶で電車を追いかけるのは大変ですし、シャッターラグもそこそこ大きいので、動きものに対しては3重苦どころか5重苦くらいです。でも何とか撮れました。

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 さて、デジタルカメラとしてのスペックで最後まで不明だったのがISO感度です。調べたかぎりではデータはないし、撮影画像にExifは記録されないし(まだ規格がなかった時代でしょうか?)、設定メニューに感度設定もないのでわかりません。それでもダメ元で夜景を撮ってみましたが、意外に良く写っていると思います。

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 ちなみにこちらは同じ場所でiPhone 6s Plusで撮ったもの。この19年のデジタルカメラ技術の進歩はすごいです。

感想まとめ

 ということで19年前のデジタルカメラ NEC Piconaを使ってみました。印象的なのはその使い心地や撮れる写真の画質の悪さです(A^^; これには絶句するしかありません。私が初めてデジタルカメラを手にするのはこの約2年後のことですが、それはもう少しまともで普通のカメラだった気がするのですが... きっと半年単位で猛烈に技術革新が進んでいた時代なのだろうと思います。あまり記憶はありませんが。

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 良いところを挙げるとすればそのサイズ感。これは19年前においては驚異的に小さなカメラだったのだろうと思います。そして縦型の筐体デザインもなかなか秀逸です。

 デジタルカメラ黎明期は、カシオのQVシリーズもそうですし、ほぼこのPiconaと同世代のリコーのDC-3とか、この後出てくる富士フイルムの縦型FinepixとかニコンのスイバルCOOLPIXとか、サンヨーのザクティとか、"デジタル"を生かしてフィルムカメラとは違うデザインにみんな挑戦していた時代だと思います。それがどんどん技術的に成熟してくるに従って、結局デジタルカメラはカメラらしい旧来のデザインに落ち着いたのは、一ユーザーとして寂しくもあり、なかなか興味深い歴史ではないかと思います。

 もう一台の遺産的デジタルカメラについては、また後日エントリーする予定です。

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