酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

パワーユニットの完成度が分けた明暗:F1 2015 開幕戦 オーストラリアGP

 今年もF1のシーズンがやってきました。開幕戦は例年通り、オーストラリアはメルボルンのアルバートパーク・サーキットで行われました。ケータハムが完全に破綻し、今シーズンの参戦は10チーム20台。しかしマルシアは未だチーム再建過程にあって、準備が間に合わなかったのか、開幕戦には出走することができず、予選は18台で戦われました。さらにその後、マシントラブルやボッタスの体調不良などもあり、結局グリッドに並んだのはわずか15台という寂しいレースとなってしまいました。

 昨シーズンからパワーユニットを中心に大変革を遂げたF1マシンですが、今シーズンのレギュレーションは小変更に留まっています。昨年物議を醸したノーズデザインも、ほとんどのチームは上手く処理する方法を見つけたようで、見た目は新鮮なマシンばかり。しかし中身は昨年の経験が生かされている部分が多く、完成度の高いマシンが揃っている... と思われていました。

 現代のF1マシンは基本的なメカニクスはもちろん、タイヤ、空力、そしてソフトウェアなどなど、複雑な要素が絡み合って一筋縄ではいかない世界なのは当然ですが、この開幕戦では、特にパワーユニットの完成度が勝敗を大きく分けることとなりました。

より強くなったメルセデス

 昨年圧倒的な強さを見せたメルセデスのパワーユニットですが、今年もその強さは健在です。ワークスチームであるメルセデスはこの開幕戦も、あらゆるセッションで強さを見せつけました。何も問題が起きなかったハミルトンは余裕のポール・トゥ・ウィンを飾り、予選で問題を抱えて苦労していたロズベルグも、結局はセカンドグリッドを獲得し、ハミルトンから遅れることわずか1秒ちょっとでチェッカーを受けます。この2台の強さは圧倒的です。

 そしてメルセデスのカスタマーエンジンを使うウィリアムズは今年も好調を維持し、予選では2台揃ってセカンドロウを争い、決勝では表彰台の一角を伺う位置に付けています。一時は最下位争いしていた名門チームは、明らかにメルセデスのパワーユニットを手に入れて復活を果たしたわけで、その勢いは今年も維持していると言えそうです。

 パワーユニットに関するレギュレーションを徹底的に研究し、二つある回生システムのうち、MGU-Hに力を入れているとされる、メルセデスのアドバンテージは今年も生きているのでしょうか。昨年からの流れはそう簡単には変わりそうにありません。

大きな躍進を遂げたフェラーリ

 昨シーズン、何一つ良いところのなかったフェラーリのパワーユニットは、今シーズンは見違えるような変身を遂げたようです。ワークスのフェラーリチームは、今回の開幕戦を見る限り、少なくともウィリアムズと互角に戦うだけのスピードを見せました。ベッテルとライコネンという豪華なドライバーの力もあり、このまま開発を進めていけば、メルセデスに何かがあったときに久々の優勝をかすめ取ることは十分に期待できるように思えます。

 そしてフェラーリのパワーユニットの躍進ぶりを伺わせるのが、弱小チーム、ザウバーが今回見せた速さです。マシンそのものはろくに進化をしていないはずなのに、いきなり2台揃っての入賞。しかもルーキーのナスルはコース上でレッドブルと戦った末で堂々の5位というから驚きです。昨年1ポイントも取れなかったザウバーにこの速さをもたらしたのも、ドライバーの力ももちろんあったと思いますが、一番大きな要因はフェラーリのパワーユニットがもたらしたと考えるのが自然かと思います。

 ただし、トップを行くメルセデスのワークスとはまだ予選で1秒以上の差があるわけで、チャンピオンへの挑戦権を得るにはまだ道半ばと言えそうです。しかし規約の抜け穴もあって開発が進んでいけばどうなることでしょうか? フェラーリはもちろんですがザウバーからも目が離せなくなりそうです。

昨年より悪くなったルノー

 レッドブルと共に黄金時代を築いてきたルノーが昨年投入したパワーユニットは、その実績から来る前評判や期待とは裏腹に、蓋を開けてみればどうにもならない駄作でした。それでも3勝あげたのは、リカルドの腕とニューウェイのマシンのおかげなのでしょう。

 さて、昨年の反省に立って、フェラーリ同様に規約の抜け穴を利用し大改造を受けたルノーの新パワーユニットのデビュー戦、結果はフェラーリとは対照的でした。レッドブルはニューウェイの空力マシンにリカルドのドライブを持ってしても、メルセデスはおろかフェラーリにもウィリアムズにも遙かに届かず、そしてザウバーにもコース上で負けてしまうという酷い結果に終わりました。

 レッドブル首脳陣は怒り心頭で、まだ開幕直後だというのにチームからは激しいルノー批判の言葉が飛び出しています。プライベートチームでありながら、強くなりすぎたレッドブルにはいまのところルノーしか選択肢がありません。もし、まともなパワーユニットが手に入らないがためにレースが出来ないなら「F1に参戦する意味を考えなくてはならない」という脅しのコメントは、むしろ筋が通っているように思えます。

 そうならないように、是非ルノーにはがんばって欲しいものです。でなければレッドブルにはホンダというもう一つの選択肢が出来るといいのですが...

未だ開発テスト中のホンダ

 今年F1における一番の注目点は「マクラーレン・ホンダ」の復活です。その伝説に重みがある分だけ、「マクラーレン・ホンダ」には強さも同時に期待されています。元チャンピオンのドライバーを二人も擁し、その華麗なる復活にこれ以上はないお膳立てが揃っているように思えていました。

 そしてレギュレーション変更から一年後出しで投入されたホンダのパワーユニット。当然昨年のルノーやフェラーリの失敗とメルセデスの成功に学ぶところは大いにあったはず。きっとホンダは複雑なパワーユニットも難なくまとめ上げて、メルセデスに対抗できる素晴らしいパワーユニットを投入してくる... と誰もが期待していました。日本人ファンならなおさらです。

 しかし! この開幕戦ではホンダパワーの復活に期待していた私たちファンを唖然とさせる結果に終わりました。予選は最下位、そして決勝も最下位。わずか11台しか完走できなかった荒れたレースで、ポイントを取ることも出来ませんでした。なんということでしょう!

 しかし現場で実際にレースに携わってる人々、特にホンダの関係者にしてみれば、冬の間のテストがトラブル続きで、ほとんどプログラムを消化できなかったあたりから、すでにこうなることは分かっていたわけで、ある意味予定通りのレース結果だったと思われます。

 それでも、思ったよりもラップタイムは悪くなかったとか、接近戦ではフォースインディアとそれなりに戦えたとか、マシンの素性は悪くなさそうだとか、そして何よりもバトンのマシンが55周の周回をこなしたことは、何よりも大きな成果であったと言えるのでしょう。

 今回のレース前には燃費のデータもなかったということですが、この「実戦テスト」で相当に沢山のデータが集まったはず。今後数戦は同じような「テスト」が続くことになるかと思います。それは仕方ありません。それらのデータを生かし、できればヨーロッパラウンドまでにパワーユニットの持てる力を発揮できること、つまりはまともに上位争いが出来るようになることを期待したいと思います。

 実はルノーの二の舞だった... なんてことは今はまだ考えたくありません。


 次は2週間後、灼熱とスコールのマレーシアGPです。高温多湿で全開区間の長いセパンは、ブレーキにもエンジンにも厳しいサーキットです。メルセデスはさらに独走してしまうのでしょうか?