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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

ひなこまち、えどさがし:畠中恵

ひなこまち (新潮文庫)

ひなこまち (新潮文庫)

長崎屋へ舞い込んだ謎の木札。『お願いです、助けて下さい』と書かれているが、誰が書いたか分からない。以来、若だんなの元には不思議な困りごとが次々と持ち込まれる。船箪笥に翻弄される商人、斬り殺されかけた噺家、売り物を盗まれた古着屋に、惚れ薬を所望する恋わずらいのお侍。さらに江戸一番の美女選びまで!?一太郎は、みんなを助けることができるのか?シリーズ第11弾。

えどさがし (新潮文庫)

えどさがし (新潮文庫)

時は流れて江戸から明治へ。夜の銀座で、とんびを羽織った男が人捜しをしていた。男の名は、仁吉。今は京橋と名乗っている。そして捜しているのは、若だんな!? 手がかりを求めて訪ねた新聞社で鳴り響くピストルの音! 事件に巻き込まれた仁吉の運命は――表題作「えどさがし」のほか、お馴染みの登場人物が大活躍する全五編。「しゃばけ」シリーズ初の外伝、文庫オリジナルで登場!

 今年の読書は、読みかけだったシリーズものを追いかけるところから始めています。年明け早々「吉原裏同心」から始めたのですが、次に選んだのは「しゃばけ」シリーズです。畠中恵さんによる大人気シリーズで、鳴家はじめたくさんの人ならぬ者たち、妖が登場するファンタジー時代小説です。

ひなこまち

 「ひなこまち」はシリーズ第11巻目にして文庫の最新刊です。読みはぐれていたのはこの一冊だけで、思ったほど先へ進んではいませんでした。

 相変わらず病弱な長崎屋の若旦那、一太郎と愉快な仲間達の織りなすコメディは、読んでいてホッとします。中身はこれまでと同様に、五話からなる短編集の形式を取りつつ、しかし全体で一つの大きなストーリーが完結するという二重構図で、雰囲気だけでなくそのストーリーもしっかり楽しめるものです。

 それにしても昔はもう少し妖たちは、人間社会に対して遠慮があったような気がするのですが、ここへ至るともう怖いものなしという感じで、人間達の世界に大胆にも紛れ込んでいます。それがまた可笑しさに輪をかけています。

 今回は上に引用した紹介文にもあるとおり、困った人を助ける物語集。「たすけて」と書かれた木札を見つけた若旦那が、困ってる人を探し、妖たちの力を借りて人助けをしていきます。人の多い江戸に「事件」と「困った人」は事欠きません。果たして「たすけて」という木札を書いた本人に巡り会えるのでしょうか?

 今作においてはやはり四話目「さくらがり」と五話目「河童の秘薬」に登場する「惚れ薬を所望する恋わずらいのお侍」の物語がメインでしょう。そして実は表題作の三話目「ひなこまち」とのつながりも次第に浮き上がってきます。シリーズ初期の頃のような、単純なミステリー&謎解き&コメディばかりではなくて、展開に人間ドラマの要素が色濃く加わってきて、物語の厚みが増してきたような気がします。

 ちなみにしゃばけシリーズは、ハードカバーではすでに二巻も先へ進んでいるようです。まぁ、そのうち文庫になるでしょう。気長に待ちたいと思います。

えどさがし

 「しゃばけシリーズ初の外伝」と銘打たれているように、これはシリーズの本編とは違うサイドストーリー集です。しゃばけシリーズの主役は、長崎屋の病弱な若旦那一太郎ですが、本作では一太郎の周辺に登場する脇役達のスポットが当てられています。それも結構意外な人物たちに。

 犬神である佐助の過去、日限の親分の家庭、関東河童の大親分、禰々子と坂東太郎のドタバタ劇... ここまではしゃばけ登場人物達の過去、あるい同時進行している時代の裏側の物語です。「外伝」としてはオーソドックスな設定です。

 しかしとても印象深いのが、最後に収められた物語。時代はなんと明治になっています。しかし白沢である仁吉はじめ、妖たちは人ではない故に長崎屋にいた時代からほとんど歳を取っていません。

 一太郎のいた時代が江戸期のどの辺りに設定されていたのか、良く覚えていないのですが、流石に明治ともなると人である一太郎はもうこの世の人ではありません。一太郎はその後どんな生涯を送ったのか?そして明治時代に仁吉や佐助や鳴家たちは何をしているのか?

 しゃばけファンなら気になることが満載のこの物語、長崎屋と一太郎の人生が過ぎ去ったその先を描き、明治時代の時代風景も空気感とともに江戸の昔を懐かしむノスタルジーに溢れています。実際には本編シリーズは終わっていないのに。

巡査の皆さんは若いんで、明治の世、新聞社がいつ作られたのか、忘れちゃってるんです。うちの多報新聞社は、結構早くにできました。しかしね、それでもまだ、出来て十年という所なんです。

 明治の初期、江戸を知るものと知らないものの間に世代間ギャップがあったことは想像に難くありません。同じように、明治を知る人と知らない人、戦争を知る人と知らない人、高度経済成長期を知る人と知らない人、バブルを知る人と知らない人、大災害を知る人と知らない人... いつの世にも世代間の差というものは生じているんですよね。そして未来を目指すばかりではなく、過去を振り返り懐かしむのも、自然なことです。

 読み切りの外伝ではありますが、続きが気になって仕方がない物語です。続編を望みたいところですが、それは野暮ってものかもしれません。