酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2013年F1第16戦 インドGP

 鈴鹿の日本GPの興奮もようやく冷めてきた先週の週末、今シーズンの第16戦インドGPがデリー近郊に建設された、ブッダ・インターナショナル・サーキットで開催されました。2011年に始まり今年で3年目となるインドGPですが、毎年開催前に政府とのゴタゴタが発生し、開催が危ぶまれるというニュースが流れます。それもこれも大人の駆け引きなのかもしれませんが、今年も結局のところ何事もなく普通にすべての日程を予定通り消化できたようです。

 さて、新興国においてF1(だけ)のために建設されたサーキットの例に漏れず、ここも典型的なティルケデザインとなっています。DRSを前提としているかのような長いストレートと、そのエンドに用意された幅の広い鋭角コーナー、そして後半セクションはこれでもかと言うくらいクネクネのテクニカルセクション。そんなコース特性とは関わりなく、今回もやはりタイヤがキーとなるレースでした。それはひさしぶりに投入されたピレリのソフトタイヤの極端な特性によるものです。

 予選での一発の速さは圧倒的ながらも、レースでは10周も持たないと予測されるタイヤを、レースでどう使いこなすのか? 一方でプライムとして用意されたミディアムは、グレイニングが発生せずドライバビリティにも優れ、このタイヤだけ使うことが許されれば1回ストップで行けてしまうと言う優れもの。この二つのタイヤの使い方を巡って、決勝の戦略をにらんだ戦いは予選から始まっていました。

 今回は偉大なる4年連続チャンピオンに敬意を表し、すべてセバスチャン・ベッテルの言葉を引用したいと思います。

「たくさんのことを言いたいのに言うことができない」

 またもや完璧な勝利によって4回目のチャンピオンを獲得しました。アロンソの結果にかかわらず5位以上に入れば確定だったのに、そしてそのアロンソは実際には1ポイント取れるかどうかで苦しんでいたというのに。ベッテルと彼のチームは、予選でソフトタイヤを使い、正攻法でポールポジションを取りに行き、レースでもいっさい手を抜きませんでした。
 何とかスタートを決めて最初の2周を限界が近づくソフトタイヤで飛ばしに飛ばし、3周目でプライムタイヤに交換した後、最初からプライムタイヤを履いていた中段勢をじっくりと仕留めていく作戦を完璧に敢行して、最後には優勝をもぎとりました。ソフトタイヤを嫌い、予選順位を捨ててプライムタイヤでのスタートを選んだライバル達に完璧に勝ちました。これもまた先行逃げ切りだけではない、ベッテルとレッドブルの強さを見せたレースです。

 2010年はある意味の敵失で転がり込んできたチャンピオンでしたし、2011年鈴鹿と2012年ブラジルのチャンピオン決定戦では、ベッテルらしさが影を潜めグズグズのレース内容になってしまいました。それに対し今年は完璧な勝利で締めくくった決定戦。クリスチャン・ホーナーの言葉通り「格好いいチャンピオン決定戦だった」としか言いようがありません。

 今シーズン、これまでにすでに10勝を挙げ、このインドGPまでに5連勝を上げた強さがあるのだから当然という気もしますが、彼なりにギリギリで戦っていたのだと思います。インタビューではいつも饒舌で言葉の多いベッテルにして「何も言えねぇ〜!」と言わしめるのですから、その喜びの大きさがかえって伺えるというものです。

「何も間違ったことをしていないのにブーイングを受けるなど、個人的に厳しいシーズンだった」

 さて、ブーイング問題。いつの頃から始まったのでしょうか。あまりに強すぎるチャンピオンは過去にもいました。それこそ過去に4回以上のチャンピオンを獲得したミハエル・シューマッハやアラン・プロスト、記録はともかく記憶に残るアイルトン・セナなどなど。彼らも勝ちすぎたシーズンは何かと風当たりが強かったかもしれません。ブーイングをされている姿も見たような気がします。

 ベッテルは表彰台でブーイングを受けても何とも思っていない風でしたが、やはり本人はそれなりに気になっていたのでしょう。モンツァをはじめフェラーリファンの多い地域であるならまだしも、シンガポールで受けたブーイングはショックだったのではないかと思います。彼は何か特別な裏口からあのマシンを手に入れたわけではなく、そしてレッドブルのマシンは、誰が乗ってもチャンピオンが取れるような夢のマシンではありません。それはチームメイトが証明しています。

 唯一今シーズンのレース内容で問題があったとすれば、マレーシアのレースの一件が思い出されます。しかしあれはチーム内の問題に過ぎず、さらに言えば、結果を帳消しにするほどの結果をここまでに残し的他と言えます。それは仮にマレーシアで2位に留まったとしてもやはりチャンピオンは取れたであろうという意味でもあり、逆にやはり勝つべきはベッテルだったと意味でもあり。

「メインスタンドには観客がいっぱいだったので、何かしなければならなかった」

 レースに優勝したベッテルへのブーイングは韓国では聞かれず(単に観客がいなかっただけかも)、鈴鹿ではむしろ暖かい声援を受け、そして今回、インドでは大歓声に迎えられました。チャンピオン獲得時には、2011年の鈴鹿でもコース途中でスピンターンを見せましたが、今回はグランドスタンド前で派手にやり、レース後はパルクフェルメへマシンを戻す、というルールに背いてしまいました。それでも何かしなければならない、と彼が思ったことと、このインドの観客の声援は無縁ではなかったのではないかと想像します。

 それにしても、スピンターン後にコース上に残されたタイヤマークが綺麗に同じラインを描いていたのは見事でした。いや、実際どんな技術が必要なものなのか全く分からないのですが。

 後にこのスピンターンの件で(あるいはパルクフェルメにマシンを戻さなかったことについて)戒告と罰金を受けてしまいましたが、それらは織り込み済みだったことでしょう。FIAは野暮だ、との意見もありますが、戒告と罰金で済ませたのだから、ちょうどいい音しどころだったのではないかと思います。

 インドGPは来年は開催されないと言われていますが、中継を見ていると他の新興国レースとは比べものにならないくらい観客が入っているし、グランドスタンドの盛り上がりも、ヨーロッパや鈴鹿に負けないくらいのものが感じられました。インド国内外の情勢的にいろいろ問題が多いだろうことは想像がつきますが、主に「大人の事情」で開催されないのだとしたら残念なことです。

「世界最高のドライバーたちとレースをするのは素晴らしいことだ」

 そりゃそうでしょう。世界最高のドライバー達がするレースは見ているだけでも素晴らしいことです。

 ちなみに私はベッテルファンを公言していますが、「こいつは来る!」と確信したのはチャンピオンになるずっと前、トロロッソに乗っているときからです。いや、2007年にクピサの代役でBMWに乗ったときからだったはず。うん、そうに決まってます(と言うことにしておきます)。いや、どんなに遅くても2008年にトロロッソで雨のイタリアGPを完勝したときには、ファンになっていました。

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Sebastian Vettel, Red Bull Renault RB9, at Suzuka, Oct. 12th. 2013

 ・・・と、あいつに目を付けたのはおれが最初、みたいな気持ちは多くのF1ファンが持っていることでしょう。いや、下位カテゴリー時代から目を付けている強者もたくさんいることでしょう。そんな方々には完敗ですが。いずれにせよベッテルは4回連続チャンピオンという偉業を達成してもなお、やんちゃな若造に見えるので、F1ブーム世代のおじさんとしてはそんな生暖かい上から目線を楽しみたいものです。

 F1の2013年シーズンはまだ終わりではありません。ドライバーとコンストラクターのチャンピオンは決定しましたが、ランキング2位以下の争いが激しさを増してきています。そしてストーブリーグに向けて、中段以降のチームとドライバーにとってもこの終盤戦は正念場でしょう。

 次のレースは速くも今週末、中東のトワイライトレース、アブダビGPです。